24話 エンカウント ①
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次話は6月25日 7:00 投稿です
時雨の呼び出しを受けたキースはメディナの噴水広場に向かっていた。
冒険者ギルド長直々の呼び出しは、記憶に新しい魔王騒動のとき以来である。
つまりは昨日のことなのだが、思い出すだけでも自分の不甲斐なさに怒りが湧く。
ついでに魔王アルガナスへの敵意も溢れてくる。
キースは立ち止まり、深呼吸をした。
腰に下げた長剣の手入れは終わっている。装備も秘蔵の素材を持ち出し、武器屋の親父を叩き起して新調した。
これであの憎き魔族に対抗できるはずだ。
アルガナスがハーフバーグに留まる理由がわからない以上、どんな問題が発生しようとも対応できるようにしておくべきだ。
他の冒険者にも装備品の整備や武器の調達の必要性について説明したが、対応は総じて芳しくない。
「クソがっ」
キースは地面を蹴りあげる。
その拍子に小石が跳ね、排水路へと落ちていった。
何もわかってない。
これはチャンスなんだ。
ここであの魔王を打ち取れれば、冒険者ギルドだけではなくハーフバーグの名を世界中に知らしめることができる。
さらには客足は戻り、都市は以前の──────いやそれ以上の活気を取り戻すはずだ。
「アイツらも戻ってくるかもしれねぇ」
噂話に踊らされ、辞めていった馬鹿共。
当然飯代はアイツら持ちだ。高い酒だって、容赦なく頼んでやる。そして荷物持ちと野営警備は俺以外で回してもらう。
そして──────昔のように皆でバカ騒ぎしながら依頼をこなし、夢だったS級に上り詰める。
キースは首から下げた認識票取り出し握りしめる。手の中で金属同士がぶつかり、硬質な音を立てた。
その拳に額を当てる。
これは誓いだ。
他ならぬ自分自身と、そしてこの都市のための。
必ず魔王アルガナスを討伐し、この都市に平和をもたらす。
さすがに魔王討伐となれば1人では不可能だ。
だがギルドに在籍する冒険者が全員で力を合わせれば、きっと討ち取ることができるはず。
「デリクさんに取り入りやがって」
アルガナスは、商業ギルド長であるデリクに目をかけられているようだ。きっと精神操作系の魔法を使ったに違いない。
あれは魔族だ。
いくら愛想よく振舞い、本性を隠そうとも本質は変わらない。
悪意と死を振りまくだけの害虫。
女子供だろうと一切の容赦がなく、息をするように人を殺す。
そんな化け物がこの都市にいるというだけで、腸が煮えくり返る。
直ぐにでも討伐に向かいたいが、許可が降りない。
依頼板に貼り出されていた討伐依頼の参加規定がS級に引き上げられており、A級のキースでは受注できなくなっていた。
魔王討伐には興味が無く、依頼書をしっかりと見たことはないが、一昨日までは参加規定などなかったはず。
「……卑怯者め」
それがたとえアルガナスの奸計だとしてもギルドの意向であるなら勝手な行動はできない。
流れ者であった自分に生きる場所を与えてくれた時雨の顔に泥を塗るわけにもいかず、断腸の思いで耐えている。
指定された場所に着くと、他の冒険者も集められていた。
広場にはワイバーンとの戦闘の痕跡が残っている。
倒れたメディナ像は既に撤去されているものの、えぐれた石畳はそのままだ。
「ようやく来たか」
「アズール、お前も呼び出されてたのかよ」
アズール・レンウッド
短刀を使った近接戦闘を得意とする斥候だ。鍵付きの箱の造形に明るく、解錠の速度に命をかける変態である。
弓を使えば中~遠距離戦闘も可能であり、あらゆる仕事をこなす万能な男だ。
そしてA級冒険者であり、昔からの腐れ縁でもある。
ちなみにキース同様、パーティは既に解散している。
「……てか、全員いるんじゃねえか?」
キースは広場を見渡した。
いつもなら出ている露店の姿はなく、右から左まで冒険者で溢れている。
現職だけではなく退職していった奴らの姿も見える。更には冒険者だけではなく商業ギルドの職員もいるようだ。
「アイツらはいねぇか…」
キースはパーティメンバーの姿を探すのを止め、正面に向き直る。
さすがに噴水広場を埋めるには程遠いが、それでも期待に胸が膨らんでいく。
「ワイバーン討伐のときより人数多いらしいぜ。普段顔出さねえ奴らも出張ってきてる」
アズールの言葉にキースは目を見開く。
これは、もしかするかもしれない。
自然と剣の柄に手が伸びた。
新しく巻き直した革紐の上を指が滑る。
キースの瞳には輝かしい未来が映っているのに対してアズールの顔はどこか強ばっている。
斥候とはパーティへの危険をいち早く察知し、罠や脅威を避ける能力に長けている。
アズールは些細なことに敏感だ。
テーブルの傷、積み上げられた本の順番、受付嬢の前髪の長さに至るまで細かく記憶されている。
その能力は仕事以外でも遺憾無く発揮され──────つまり女によくモテる。
見れば集められた冒険者たちの大半は異様な雰囲気に顔を見合わせている。
「ビビってんのか?」
「んなわけねぇだろ。ただこんなこと初めてだからな」
ワイバーン討伐が難航したのは、この男が参加できなかったからだ。
妻のお産に付き添っていたらしく、念願の第1子が産まれたらしい。夫婦で望んでいた女の子だったと風の噂で聞いた。
拳に力が入る。
これから育つ子供たちのために、この闘いは絶対に勝たねばならない。
「ギルド長が来たぞ!」
誰かの声が広場に響く。
冒険者たちに静寂の波が伝播していく。
喧騒が止んだのもつかの間、広場は再度驚きと戸惑いの声で溢れる。
いや─────────気のせいか先程よりも大きくなっている気がする。
声の中心は噴水付近からだ。
キースの場所から時雨の姿は見えない。
キースとアズールは人並みをかき分け、時雨の元へ急ぐ。
荒事を生業とする男たちは皆総じて恰幅が良い。
さらには鎧で身を包み、身体は更に厚みが増す。
「痛えな!」「危ねぇだろ!」と非難する声を聞きながら尚も進んでいく。
噴水に近づくほど人の密度が増していく。
身体をねじ込み、なんとか最前列に行くと時雨の隣に立つ魔王アルガナスと視線がぶつかった。
「よく集まってくれた」
アルガナスは訝しげな視線を一身に集めていた。
そして突然目の前に躍り出てきたキースと隣に立つ厳つい髭面に驚きつつ、口を開いた。
「今日集まってもらったのは、ワシが行う新事業の説明と人員の募集について説明するためだ」
竜は胸腔が広く、心肺機能が発達している。
それは炎包と呼ばれる器官から発生した炎を広く、遠くへ吐き出すためである。
そのため肺活量は他の魔族に比べて多く、声量も一際大きい。
そして加齢により声量調節機能が誤作動を起こしており、本人が想定している以上に声量は増している。
最前列に立つ冒険者たちは、その声量に顔を顰める。中には耳を塞ぐ者もおり後方へと列が伸びていく。
「ワシはワイバーンを用いた運送業を発足する予定だ。そしてワイバーンに騎乗し、荷の配送を担ってくれる人材を求めている」
異様な空気に口を閉ざしていた者から徐々に戸惑いの声が漏れる。
独り言のような呟きはざわめきに変わり、その視線は時雨へと注がれる。
時雨は姿勢を崩すことなく、黙って成り行きを見守っている。
アルガナスはざわめきが収まるのを待ってから続きを話す。
「諸君らには、まずワイバーンとの仲を深め騎乗訓練を行ってもらう予定だ」
事業を興す前にやるべきことは多い。
そのひとつひとつを対応すると多大な時間を要すると教えられたアルガナスは──────────
いっそのこと開き直ることにした。
聞けば人間は空を飛んだことがなく、騎乗経験は馬やロバなどの駄獣に限定されているらしい。
これはチャンスだと思った。
時雨に笑われたように、まだ計画段階で装備品の準備も無い。それを知られようものなら雇用主としての立場は弱くなる。
それを隠しつつ装備品の準備期間を有効に使うため、冒険者たちは騎乗訓練を行わせるつもりだ。
「無論、その間の給金は約束する」
既に換金所には足を運び査定結果を待つのみとなっている。
現在、鉱石の需要が高まっており、金額も跳ね上がっているようだ。
とりあえず魔王城の片隅に置き去りにされていた金鉱石をあるだけ持ってきた。
鑑定人は持ち込まれた量を眺め、うっとりと頬を赤らめていたので査定金額にも期待できる。
「───以上である!!質問のある者はおるか!?」
冒険者たちは再度ざわめき始めたが、顔を見合わせるのみだけだ。
疑問は浮かんでいるが、誰かが代わりに言うのを待っている。そんな気配を感じる。
表情を見るに驚き半分、安堵が半分ってところか。
「説明しなさ過ぎやろ」
時雨はアルガナスにだけ聞こえるように呟いた。
その配慮に気付かないアルガナスは、時雨へと首を伸ばし傾ける。
「ふむふむ。そうかそういうのもいるのか」
アルガナスは周囲に届くほどの声量のまま時雨に言われるがまま続ける。
「おほん!冒険者ギルドは副業禁止であることから、賛同してくれる者はギルド登録を抹消してもらう必要がある。………え?そうじゃない?メリットを提示……ええいまどろっこしい!」
今日一番のどよめきが生まれた。
冒険者たちの表情は困惑から怒りに変わり始める。
「さあ!賛同してくれる者は挙手せよ!直ぐに契約に移ろうぞ!」
「だから説明が足りへんて」
ザワついていた広場が一瞬にして静寂に包まれる。
アルガナスはゆっくりと広場を見渡す。
希望者はゼロ。
そうだろうね。うん、わかってた。
ここまで予想通りだと悲しさは感じず、いっそ笑いが込み上げてくる。
冒険者は乱雑に並んでいるように見えてそれぞれのパーティに分散しているようだ。解散の影響か、人波の隙間は疎らに散っており、賑わっているのは前列だけだ。
前列中央、筋骨隆々で人相の悪い男たちは腕を組み睨みつけてくる。
ワイバーン討伐の時に見た顔と初めて見る顔が入り乱れている。比率は1対1といったところか。
年季の入った装備品。
剣の柄に巻かれた革紐は擦り切れ伸びきっている。
どこかサビ臭さを感じさせる鎧は、ここ数年使われた形跡は無いことを示していた。
何よりその、ふてぶてしい態度と無愛想な表情。
おそらく彼等が中堅冒険者なのだろう。
「てめぇ馬鹿にしてんのか?」
「どう聞いたらそうなるのだ?」
「俺達にギルドを裏切れって言ってんだぞ」
キースはそう言い放った。
前方にいる中堅冒険者達は怒りで顔を赤く染めた。崩した重心から伸ばした足先は継続的に地面に打ち付けられている。
中央から後方の新人冒険者達はパーティ内で顔を見合わせ、この状況に戸惑いつつ周囲の様子を伺っている。
自分達で何か行動するわけでもなく、借りてきた猫のように大人しい。
「魔族の下に就くわけねぇだろ!」
アズールのその一言を発端として同意を示す声がそこかしこで上がる。
中堅冒険者達から「侵略者」「出ていけ」と罵声や怒号が飛び交い、石を投げる者まで出始めた。
1人1人の声は相互作用するように声量が増し続け、広場を支配していく。
新人冒険者達は戸惑いつつも、それに準じるように声を上げ始めた。
二分化されていた心情が統一されていく。
より集まって生まれた群衆は、今では一匹の生き物のように姿を変えた。
その態度と感情は、ただ一体の魔族にのみ注がれる。
『侵略』
まさにその通りだ。
冒険者達から見れば、ギルドを乗っ取ろうとする悪者にしか見えないだろう。
ギルド長である時雨の公認だということは彼等は知らない。まあ知っていたところで、態度が変わるとは思えないが。
「聞けい!貴様らも承知のように依頼数は激減し、生活に困っている者も多数いるだろう。これはその救済措置である」
アルガナスは飛んできた瓶を尾で叩き落とした。
「ふざけんな!テメェに仕事貰うほど落ちぶれちゃいねぇよ!」
キースの言葉に冒険者達は同意を示していく。
『魔族に仕事を貰うほど』とキースは言ったが、魔族と魔物の存在が彼等に仕事を与えていることまでは考えつかないらしい。
そう考えれば今までも、そしてこれからも何も変わらないのである。
「ギルド長!アンタ操られてねぇか!?」
キースは時雨の肩を掴み前後に振る。
「無い無い。心配せんでええよ」
「だったらなんで────」
「キースとやら、何が不満なのだ。貴様らは金を得てワシは事業を興せる。うぃんうぃんではないかね?」
「………ギルド長、考え直してくれ。今耐えれば、きっと良くなるし、俺達も頑張るから───」
「いいや、それは無い。ワシは世界の魔物による被害を取り除く。断言するが、仕事は増えることは無く今後も減り続ける」
無視したキースに向かってアルガナスは冷徹に言い放つ。
冒険者達は口を閉ざし、続く言葉を待つ。
「いいか!貴様らもよく聞け!!冒険者はこれから衰退の一途を辿る。これは確定事項であり何人もそれから逃れることはできぬ!!」
アルガナスは肺一杯に空気を取り入れる。
「ワシは普遍的な世界平和を確立させる。この事業はその一端であり慈悲でもある!」
数ある人材の中でアルガナスが冒険者を選定した理由は、空輸という未開拓の行路、野盗などの危険性を鑑み自衛能力やサバイバル技術に長けた人材が望ましいからだ。
だがそれは理想であって絶対では無い。
アルガナスは魔物を自在に操れる。
能力を行使すれば、魔物は赤子にだって従う。
それはアルガナスの目的である世界平和から乖離したやり方であるから選択しないだけだ。
冒険者達の賛同が得られないのであれば、別の人材を採用するだけ。柔軟に対応するだけだ。
そう───決して冒険者である必要性は無いのだ。
「もう一度言う!これは慈悲である!!」
地元民が生活に困っているからといって、雇い入れる道理は無い。
アルガナスが望む世界平和に貿易や開業は必須項目ではなく、個人的な趣味が混じった戯れにすぎない。
「テメェに救われるほど落ちぶれちゃいねぇ!!」
「そうだ!俺達は冒険者だ!」
「この町から出ていけ!!」
キースの一言に冒険者達は再燃する。止んでいた怒号は熱量を増し収まる様子はない。
その場にいる誰もが冒険者としての誇りを胸に拳を突き上げた。
その薄っぺらな決意表明を見たアルガナスの眉が上がる。
彼等の腹の底に埋まった感情は、本人でさえ自覚していないらしい。
「………落ちぶれていないだと?」
昼間から酒を飲み、クダをまいた男がそれを言うのか。
依頼人の守護という責務を果たさぬ者どもがそれを語るのか。
「何が冒険者────」
アルガナスは嘲笑した。
緩やかに首をもたげ、後ろ足を広げる。
後方に控えていたアルエルは異変を察知し、時雨を抱き上げるように回収する。
冒険者の動体視力ではアルエルの姿を追うことはできず、一瞬の風と共に時雨の姿だけが消えていた。
「あぁ、愚かなり」
低く重い声が響く。
呟くようなその台詞は、罵声をかき分け打ち消していく。
そうして静寂が訪れた。
同時にアルガナスは自身にかけていた魔法を解いた。
それは身体の大きさを変えるだけの単純な魔法。
サイズに比例して魔力や身体能力が制限されるが、精神性には何の作用もない。
筋繊維がちぎれるような音を鳴らしつつアルガナスの身体は変化し始める。
─────どこかで悲鳴が漏れた。
足元の石畳が重量に耐えきれず陥没する。
それはアルガナスの身体に比例して範囲を広げていく。
緩慢な仕方で冒険者の前に現れたのは、山を思わせる巨大な竜。翼を広げた、ただそれだけで暴風が舞う。
黒く汚れた爪は人間よりも遥かに大きく、全身から発せられるおぞましい魔力が濁流のごとく広場を包み込んだ。
余波はハーフバーグ全体に波及する。
ネズミは群れとなって移動を開始し、家畜は遠くへ逃げようと暴れ始め、羽虫でさえ姿を消した。
天変地異の前触れのような騒ぎは、動物から人へ広がっていく。
キースはそのとき始めて、人間の矮小さを知った。
勝てるなどと思い違いも甚だしく、同じ土俵に立とうと思うことすら烏滸がましいのだと。
悲鳴や吃驚を上げることもできずに、冒険者はその場で縫いとめられたかのように動けない。
裁定を待つ囚人のように、ただ黙ってことの成り行きを見守っている。
「どうした、声も出んか」
アルガナスはその生涯において、自分の影響力を熟知していた。
溢れ出る魔力も、放つ言葉も、身動ぎひとつでさえ周囲に多大な影響を及ぼす。
特に絶対者としての威圧感は、全ての生物を萎縮させ思考すら奪い去ってしまう。
それを理解していたからこそアルガナスはそうさせないように努めてきた。
「余は随分な嫌われ者らしい」
遥か上空から落ちてくる重厚な声に、冒険者達は身を震わせる。
勢威を抑えるのは簡単ではない。
口調を変え、肉体を変え、魔力を抑えてきた。
存在しているだけで 周囲に与えてしまう、無意識下で発生するそれらを抑えるように何千年も努めてきた。
そうした努力と気遣いの上に、現在のアルガナスが存在している。
だからこそ彼等は勘違いをしてしまったのだろう。
生物として対等である、という愚かな思い違いを。
情けない。
眼下で震える小動物を見て、アルガナスはそう独りごちる。
「さっきまでの威勢はどこへ消えた!?体躯が変われば石すら投げれんか!何が冒険者だ!闘う気概の無いものが語るな!!」
その声は広場を突き抜け建物を揺らす。
離れた位置で立つ時雨でさえ頬に冷や汗が流れている。
冒険者達は逃げる方法を必死に探しているようだ。ある者はアルガナスの目に留まらぬように身を縮め、またある者は救いを求めて時雨の姿を探している。
「り、理由が無いっ」
集団の中で誰かが叫んだ。
アルガナスは声の方へ首を伸ばした。
冒険者は海が裂けたように左右に別れ、発言者を差し出す。
アルガナスは一歩、その冒険者へと近づいた。
その男は地面から伝わる振動と発せられる圧力に耐えきれず尻もちをついた。
「あ、あなたと敵対する理由がありませんっ」
全身から汗が溢れ懇願するような表情を浮かべる男に周りの冒険者も頷き同意を示す。
喧嘩ひとつとして、理由が無ければできないらしい。
「そうだ!俺は逆らうつもりなんてない!」
「石を投げたのはアイツだ!」
「邪魔する気なんてなかった」
ここぞとばかりに冒険者達は声を上げる。
──────それがアルガナスの逆鱗に触れるとは知らずに。
「そうか、理由さえあれば闘うのだな?」
アルガナスは時雨に向かって叫ぶ。
「冒険者ギルドへ要請する!!依頼内容は魔王アルガナスの討伐!!報酬は余が持ち得る全権利だ!」
アルガナスの視線を追いかけるように冒険者達は時雨を一身に見つめる。
救済を求めた視線は、両腕で作られた了承マークを見て絶望することになる。
全権利───それは魔界のみならず、アルガナスが獲得した人間界の支配権が含まれている。
破格の報酬であり断る理由も無いはずのその懸賞も、冒険者を動かすには至らない。
「これで憂いはないだろう!さぁ!立ち上がり敵を見よ!剣を抜き、矢をつがえろ」
アルガナスのそれは命令であった。
冒険者たちは何も考えず、言われるがまま抜刀する。
脅威に対しての防御反応ではなく、抗命への罰を恐れてのことである。
アルガナスは冒険者全員が武器を構えたのを確認すると、翼を広げ戦闘態勢に入る。
振り下ろされた前足は容易く地を穿ち、揺れた尾が噴水を砕いた。
魔力は更におぞましさを増し、石畳の破片が宙に浮き始める。
「王はここにいる!全霊をもって敵を屠り、自らの言責を果たせ!!」
広場に吹き荒れる嵐は尚も激しさを増し続けた。




