276ーやり過ぎちゃった?
一度距離ができたら、そう簡単には元には戻れなかったりすることもあるから。
「皆、君のことを心配していたのだよ」
「私ですか? 私は元気ですわよ」
「ふふふ、そうだね。ルシアン、もう大丈夫だ」
「はい、父上」
「どうしてかしら? なんだか陛下にお会いするのも、暫くぶりな気がしますわ」
「そうかい? きっと気のせいだよ」
良かった。王妃もジョブなんかに拘らなかったら、こういう穏やかな日々があるんだ。それを分かって欲しいな。そんな日々も大事なんだって。
「老師、ラウ、ありがとう」
「殿下、なにをおっしゃいます」
「おうじれんか、リーヌもいっしょに、おやちゅにしましょう」
「ああ、そうだね」
控えていた人が部屋を出て行った。きっと王女を呼びに行ってくれたんだ。
こうして、一緒に穏やかに過ごす時間を重ねていけば、王妃の嫉妬みたいな気持ちも薄れていくだろう。ましてや、俺たちを嵌めようとする企みなんて考えなくなるさ。
しばらくすると、王女が連れられてやって来た。
「おにいちゃま! おやちゅでちゅか!?」
「これ、カトリーヌったらはしたないわ」
「あ、おかあちゃま。もうよいのでちゅか?」
「あら、なあに?」
「らって……」
王女も様子が変だと気付いていたのか? もう大丈夫かと心配している。だけどそれをどう王妃に伝えれば良いのか分からないのだろう。
「カトリーヌも心配していたんだ」
「まあ、そうなのですね。大丈夫よ、なんともないわ」
「ほんとう?」
「ええ、本当よ。いらっしゃい、一緒におやつにしましょう」
「あい!」
嬉しそうだ。まだまだ母親が必要だし、甘えたい年齢なんだ。
そこに運ばれてきたおやつとお茶。メイドさんたちが手慣れた様子で、セッティングしてくれる。
アフタヌーンティーみたいな3段のケーキスタンドに、まだ幼い王女でも食べ易いように小ぶりのスイーツが並んでいる。香り高い紅茶が出され、俺たちはフレッシュジュースをもらう。
『みゃ、みみはももじゅーしゅがいいみゃ』
ああ、忘れてた。ミミったらよく喋らないでいたものだ。
『らって、みみはてんしゃいみゃ』
はいはい。じゃあ、桃ジュースを貰ってあげよう。
「しゅみましぇん、ももじゅーしゅを」
「あら、ミミね」
「あい」
俺が来る時は、ちゃんと桃ジュースを用意していてくれる。どんだけ印象に残っているんだ? て思うけど。小皿に桃ジュースを入れてもらうと、ミミがピヨピヨと鳴きながら桃ジュースを啄んでいる。
「みみちゃん、かわいいわね~」
「リーヌ、どれがいい? 僕が取ってあげるよ」
「おにいちゃま、あたちいちごがのったのがいいわ」
「リーヌは苺が好きだね」
「ええ、だいしゅきなのよ」
そういえば、初めて一緒におやつを食べた時にも苺のショートケーキを選んでいた。
「おかあちゃま、どれにちましゅか?」
「じゃあ私もリーヌと同じものにしようかしら」
「母上、僕が取ります」
「ありがとう」
こうしていれば、仲の良い家族じゃないか。
「ラウはどれにする?」
「ぼくは、タルトにしましゅ」
「これはエッグタルトかな。甘いよ?」
「あまいの、しゅきれしゅよ」
「ワシは甘いものが大好きじゃ」
うん、それは知ってる。今でも自分で目当てのスイーツをさっさと取ってるし。うちのおやつの時間を狙ってやって来るくらいだし。
「こうして皆で、こんなに穏やかな時間を過ごせるとはな……」
「兄上……」
王がそんなことを呟いた時だ。王子と王女に挟まれて座っていた王妃の目からポロポロと涙がこぼれた。
「母上、どうしました!?」
「おかあちゃま!」
二人が心配して王妃の手を握った。
王妃は流れる涙を拭きもせず、父を見つめて言った。
「あなたは信用しても良い人だったの? 陛下を退けて王位を狙っているのではないのね?」
その言葉を聞いて、俺は驚いた。王妃はそんなことを考えていたのか?
「退けるなど、とんでもありません。私は兄上をお支えするのが使命だと思っております」
父が毅然としてそう答えた。
「いかん、ちょっとやり過ぎたかのぉ」
え? 老師がとっても心配になる言葉を呟いた。
「いや、ちょぉ〜っと解呪と癒しの魔法が、強かったかも知れんわい」
ええー、あの時一瞬だったよ? それでこうなるの? 王妃は大丈夫なのか?
「陛下、ライナス殿、お話があります」
いつになく深刻そうな王妃を見て察した王は、大きく頷いた。何かを察した父が母に言った。
「アリシア、殿下方を連れて席を外してくれるか?」
皆、何なのか分かっていない。きっと父だって分かっていないだろう。だけど、大切な話なのだということくらいは分かる。
「承知いたしましたわ。殿下方、ラウ、行きましょう」
「え、父上? どうしたのですか?」
「ルシアン、大丈夫だ。母の話を聞くだけだ」
「……分かりました。リーヌ、行こうか」
「だって、おにいちゃま。リーヌはまだ、たべているのよ」
「四阿に行こう。きっとお花が綺麗だよ。ね?」
「……えっとぉ……あい」
せっかく皆でと思っていたんだ。明らかに残念そうに肩を落とす王女。だけど、嫌だと言うこともなく頷いた。
俺より年下なのに、こんな訳の分からないことでもグッと我慢する。今までもそうだったのだろう。王妃に言われる理不尽なことや体罰、そんなことを我慢してきたんだ。




