274ーしゅこしだけ
俺たちは王妃の元へと急ぐ。もちろん老師も一緒だ。
「王子殿下は、こちらで待っておってください」
部屋を出る時に、当然のように付いてこようとした王子に老師がそう言った。
「そうだな、ルシアンはここに残りなさい」
「父上、でも!」
「私たちが行ってもなんの役にも立たない」
王がそう言ったので、王子は王と一緒に執務室で待っている。めっちゃ肩を落としていたけど。でも良かった。王子は見ない方が良いことに、なるかも知れないと思っていたから。
今まで捕らえた者たちがどうなったのか? それは老師が一番よく知っている。だから老師はそう判断したのだろう。
「ぴよ」
なんだ、ミミ。どうした?
『みみはまだ、ももじゅーしゅを、のんでないみゃ』
えっと、今はそれどころじゃないって、分かってほしいな。
『みゃ、ももじゅーしゅをのまないと、やるきがでないみゃ』
いつもやる気がないじゃないか。たま~に、ちょっとだけやる気を出すけど。
『みゃみゃみゃ! ひどいみゃ!』
でも今回は頼りにしてるよ。これが終わったらたくさん桃ジュースを貰おうな。
『みゃ! たくしゃんみゃ!?』
そうそう、たくさん。
『ちょっぴり、やるきがでたみゃ』
ちょっぴりなのかよ!
老師もいるし大丈夫だろうと思いたい。母も一緒だから、リンリンもいるし。
『あら~、私は手を出さないわよ~』
ええー、そうなの? リンリンが念話で話しかけてきた。
『だって私の存在がバレちゃうじゃない~』
いやいや、もう老師は分かってるから。今更だ。
『ふふふ、そうかもね~』
これはもしかして、あれか? 精霊はできるだけ手を出さないってやつか?
でもそれなら本当に今更だ。こうして使い魔としているだけで、十分に手を出していると言える。頼りにしているよ、リンリン。
『あらあら~、ラウにそんなことを言われたら張り切っちゃうわ~』
いかん、これってミミと同じテンションに思える。できるだけ、俺が頑張ろう。
『そうね、それがいいわ~』
はいはい、分かったよ。
ミミとリンリンとそんな話をしているうちに、王妃の部屋に到着した。
「私が声を掛けるわ」
母が一番王妃と関わっているから、それがいい。母がノックして声を掛ける。
「王妃様、アリシアです。よろしいでしょうか?」
中からはなんの反応もない。しばらくすると、ドアが開いて王妃付きの侍女が顔を出した。
「アリシア様、申し訳ございません」
「どうしたの? 王妃様はお加減でも悪いのかしら?」
「いえ、そうではないのですが……」
なんだか煮え切らない。それで母は強行突破した。
「こめんなさいね、入らせていただくわ」
「あ、アリシア様!」
部屋に入ると、王妃は窓辺に置かれたロッキングチェアに腰かけて外を見ていた。
ぼーッと、何を見るでもなく。俺たちが入ってきたことにも反応しない。その表情は感情が抜けているように見え、いつもと目が違う。
王子が言っていたのは、これかと思った。これは普通ではないだろう? 侍女はこんな王妃を見て、何も思わないのか?
「あなた、王妃様はよくこうなさっているのかしら?」
「いえ、以前はそんなことはなかったのです。ですが、最近こうしてどこを見るでもなく……こんな時間が日に一度は必ずあるのです」
さすがに侍女も不安になったらしくて、医師に診ていただきましょうと声を掛けたらしい。
だけど、そうやって会話ができる時の王妃は普通だ。王妃自身に自覚がないから、医師なんて必要ないと言われてしまったそうだ。
それでも侍女は、どうすればよいのか不安だったと話した。
「老師、いかがですか?」
「ふむ、ワシには分からんぞ」
「老師、それはどういうことでしょうか?」
「ワシが感知できないくらいに些細なものなのか、もしくはずっと深いところに干渉しておるのかじゃ」
えっと、俺はよく分からないぞ。とにかく老師に分からないのなら、ミミだ。
ミミ、どうかな? 分かるかな?
『なんみゃ?』
だからさ、王妃だよ。目の前に座っている王妃だ。呪いとか精神干渉とかはないかな? て話なんだよ。
『みみが、みるみゃ?』
そうそう、やっぱ天才のミミじゃないと。
『みみは、てんしゃいみゃ』
だからね、その天才のミミに見てほしいんだ。
『らうみぃもやっとみみが、てんしゃいだってわかったみゃ?』
いかん、ちょっとイライラしてきた。
『みゃ? どうしてみゃ?』
『だから、ミミ。見てってラウが言ってるじゃない』
『わかったみゃ。しかたないみゃ』
リンリン、ありがとう。ちょっとパシッて叩きそうだった。
『ふふふ、ミミですもの~』
『みゃ? なんみゃ?』
ミミ、どうしたの?
『とってもとっても、しゅこしだけみゃ』
ああ、さっき老師が言っていた通りだ。
『しょうみゃ、これくらいなら、なんにもえいきょうないはずみゃ」
でも王妃は実際にあんな感じだろう? 俺たちがいることさえ分かってないぞ。
『しょれは、あれみゃ。りんりん』
『はいはい、私が説明するわよ~』
なんだかよく分からないけど、ミミの代わりにリンリンが説明してくれるらしい。
呪いや精神干渉の類は、言ってみればその人の元々の心持ちで影響が変わってくるらしい。
正直で素直な人、人を蹴落とそうとか憎んでいたりとかしない人。そんな人や、魔力量の多い人はかかり難いそうだ。




