273ー腹が立つ
王子がカトリーヌとよく一緒にいるようになったからこそ、気付けたことなのかも知れない。
「ろうし、あいにいこう」
「そうじゃな」
「でも、ろうし。どうやって? どこでかな?」
「ラウ坊、王妃様はよく教会や養護施設に慰問に行かれる」
「あ……」
最近教会で大々的に解呪したじゃないか。民だけじゃなく、貴族も王族も定期的に教会には足を運ぶ。そこを狙われたか。
「それしか思いつかんわい」
老師がお口いっぱいにスイートポテトを頬張り席を立った。
「でんか、あえましゅか?」
「ラウ、会ってくれるのか?」
「ろうしと、みてみたいれしゅ」
「ああ、そうしてほしい。心配なんだ」
まるで、別人に見えたという。少し怖かったと。
「ほれ、行くぞ。とにかく見てみないといかん。手遅れになっては……」
「ろうし」
「ああ、すまんのぉ」
老師ったら、王子の前でそこまで話すんじゃない。自分の母がと不安になっている王子は、もっと不安になるじゃないか。
「らいじょぶれしゅ。ろうしがいましゅ」
「ラウ、ありがとう」
ほら、泣き笑いみたいなお顔になってしまっている。
王子は幼い頃、カトリーヌくらいの年齢の時は王妃から厳しくされていた。折檻もされたのだろう。それが原因で萎縮していた時期もあったんだ。
そんな王子を、見かねた王が手を差し伸べた。それからは子供なりに割り切ったのか、王妃に言い返したりすることもあった。
たくましくなったなぁ、なんて思っていたのだけど。母親という存在を諦めるなんて、辛かったことだろう。まだ母親が必要な頃だったのに。
父親がいるとしても、それでも寂しい気持ちはあったはずだ。
それが最近カトリーヌと交流することで、会う機会も増えたのだろう。きっと、嬉しかったはずだ。
そんな王子だから、気付けたことなのかも知れない。
カトリーヌとはここで別れる。解呪するところなんて、まだ幼いカトリーヌには見せられないから。
きっと意味が分かっていないだろうけど、それでもカトリーヌは不安そうなお顔をした。
「おにいちゃま」
「大丈夫だよ、ちょっとご用事ができたんだ。リーヌはお部屋に戻っていてね」
「あい……」
俺はヒョイと老師に抱っこされた。おフクは俺の後をついてくる。
先頭を行く王子が早足になっている。気が逸るのだろう。
「ラウ坊、いざとなったら頼むぞ」
老師が小さな声で話してきた。
「ぼくなの?」
「ワシの解呪で、対処できれば良いがな。無理ならミミちゃんの力を借りることになる」
「みゃ?」
こらこら、もう忘れているじゃないか。ミミ、ぴよだよ。何か言いたかったら念話だ。本当にいつも忘れる。
『わ、わ、わしゅれてないみゃ!』
はいはい、それでどうしたの?
『ミミがしゅるみゃ?』
老師の手に余るようならね。
『らうみぃがいるみゃ』
え、俺か? まあ、それでもいいか。
「ぴよ」
なんだよ、急に取って付けたように『ぴよ』なんて。
『ミミは、とりしゃんみゃ』
都合の良い時だけ鳥さんになるんだな。まあ、いいけど。これってでも、王に報告しておかなくてもいいのか?
「ろうし、へいかに、いわなくていいの?」
「そうじゃな、報告しておかないといかんな」
「先に父上のところに行きますか?」
「ああ、殿下。そうしよう」
なのでさっきいた王の執務室へ行くと、俺の両親とまだ話していた。老師が王子が気付いたことを説明すると、王は大きくため息をついて頭を抱えた。
「なんということだ。毎日会っている私が気付かないなんて……ルシアン、よく気付いてくれた」
「父上……」
「ライ、ラウ、老師、頼む。王妃を助けてやってくれ」
「兄上、もちろんです」
結局、全員で王妃の部屋へ向かう。
その時、母の使い魔のリンリンが言った。これは母と俺にしか聞こえないのだけど。
『私が魔法をかけたオルゴールが、抑えていたのだわ』
「かあしゃま」
「大丈夫よ。まだ助けられるわ」
「あい」
ここで俺は考えていた。もしかして前の時も、王妃は呪いか精神干渉を受けていたのではないかと。
成長したカトリーヌも、王妃と一緒に慰問に行くことがあっただろう。なら、カトリーヌだってその可能性はある。
俺たちはデオレグーノ神王国に操られていたのか? この国を手に入れるために、時間をかけて虎視眈々と伺っていたのではないかと。
あの国にまんまと踊らされたのか? そのために俺は……俺たちやアコレーシアの家族は命を落としたのか?
今はまだ起こっていないことだけど、許せない。
「ラウ、落ちつくんだ」
執務室からは老師と交代して、俺を抱っこしてくれている父が言った。思わず父の胸元をギュッと握りしめてしまったから。
「とうしゃま、ゆるしぇないれしゅ」
「ああ、してはいけないことだ」
自分たちの国民にも反動がくるんだ。多分、それを操っている者にだって相応の反動があるはずだ。それなのに、しつこくこんなことをしてくる。
これは一刻も早くあの国に行かないと。元を正さないとキリがない。
前の時もこうして皆と交流を持っていたら、もしかしたら気付けたかも知れないのに。
自分の至らなさにも腹が立つ。俺は自分一人で強くなった気になっていた。




