247ー会談
「あーしゅらん、おしろに、いかなくてもいいの?」
「ああ、そうでした。ちょっと行ってまいります。では奥方様、また後ほど」
そう言って仰々しく頭を下げると、また黒いモヤモヤの中に消えて行った。
あれってどうなの? きっと魔族の転移みたいなものだよな。あんなの使えるなら、どこへでも行けるじゃないか。反則だよ。
「みゃ、やっといったみゃ。しょろしょろ、ももじゅーしゅのむみゃ?」
ミミったら、さっき朝食の時にもらったばかりじゃないか。
「あーしゅらんのしぇいで、ちゅかれたみゃ」
なんにもしていないのに。ただ、桃ジュースが飲みたいだけだろう?
「みゃ!? しょんなことあるみゃ」
あるのかよ!
「ふふふ、四阿に行きましょうか。お茶しましょう」
母と手を繋いで四阿へ向かう。この家の庭に咲いてる花が一番綺麗に見える場所だ。母が花を選んで配置も指示していると聞いた。季節ごとにいつも綺麗な花が咲いている。
俺がアコレーシアに持って行っていた花も、この庭に咲いていたフリージアだ。
母がお気に入りの四阿で、ミミが無事に桃ジュースに有りつけていた時だ。
「ねえ、ラウ。私も魔王城へ行ってみたいわ」
「え……」
もしかして母はずっと思っていたのかな? そう思えるくらいに、真剣な眼で言われた。表情は微笑んでいるんだ。だけど眼が笑ってない。これはあれだ、誤魔化せないやつだ。
「かあしゃま、ぼくはかあしゃまを、きけんなばしょに、ちゅれていきたくないれしゅ」
「ラウも危険でしょう?」
「ぼくはてんいれきましゅ。しーるどもちゅかえましゅ」
「私もリンリンがいるから大丈夫よ」
「けろ、しょれれもれしゅ」
「ラウ、母様はラウが心配なの」
「えっちょ、こんどから、さいらすがいっしょに、いくといってましゅ」
「あら、サイラスは転移もできないしシールドも張れないわよ」
「えっちょぉ……」
おっと、どうしよう。これって、俺に母を説得できるのか?
「奥様、私も行きたいです」
「でしょう?」
「はい! はい! 私もです!」
「ね、コニスもよね」
女子三人、しかも我が家の最強女子三人だ。それに俺一人で対抗できるのか? いや、できない。できる気がしない。
「とうしゃまと、しょうだんしましょう」
「ええ、そうね。そうしましょうね」
にっこりとして母が言った。取り敢えず、この場はやり過ごせた……のか? 父が帰ってきたら相談しよう。父ならなんとかしてくれるだろう。そう思いたい。
ああ、もう。どうしてこう我が家は強い女子ばかりなんだ。いや、まあ、父の職務上、強くないとやっていけないのだろうけど。
俺が母の爆弾発言で真っ青になっていた頃、父は城でアースランと会談をしていた。
「では、この内容で契約ということで」
「はい、助かります。こんなに食料を提供していただけるとは」
「特にラウの好物を中心に集めました」
「ええ、魔王様がお喜びになるでしょう」
「また、ラウと魔王城へお邪魔しようと思います」
「ふふふ、いつでもお待ちしてますよ。魔王様がラウはいつくるのだ? とおっしゃって待っておられます」
「ではラウに伝えておきましょう」
「はい、早いうちに来てくれると助かります。今度は奥方様も是非ご一緒に」
そんな話をしているとは、俺は全然知らなかった。父が帰ってきたら、母を説得してもらおうと待ち望んでいた。
「ラウ、今度いつ魔王城へ行く?」
父が帰ってきていきなりそう言われた。おっと、そのことは先に父と相談してからと思っていたのに。
「今日アースランが言ってたぞ、最近行ってないと」
そっか、今日はアースランと会ってたんだ。
「今度は是非アリシアもと言っていたぞ」
「まあ、そうですの! 私も是非行きたいわ」
ああ、これって駄目な感じだ。まさかアースランがそんなことを言っていたなんて。しかも、父もちょっと乗り気じゃないか?
「魔王城は面白いぞ。花が笑うんだ」
「なんてことでしょう!? お花がですか!?」
ほら、どんどん母が一緒に行く雰囲気になっているじゃないか。魔王城に家族揃って行ってどうするんだよ。一体、なんの集まりなんだ? て話だよ。なんで家族揃って行くんだよ。
「とうしゃま……」
「ラウ、で、いつ行く?」
ん? ってお顔をして俺に聞いてくる。もう行く気満々だ。いやいや、待って。
「みんないっしょには、いきましぇん!」
「だが、アースランがお待ちしてますと、言っていたぞ」
「ぼくだけでいきましゅ」
「ラウ、もう諦めなさいな」
そう言いながら、母は俺の前にしゃがみ込んで俺の両手を取る。温かくて柔らかい手だ。この手の届くところにいると、俺は安心する。いつも守ってくれているんだ。
「私たちはラウの親なの。どんなことも、ラウと一緒に同じ目線で見ていたいわ。ラウの見ているものを私たちも見てみたい、知りたいの」
「かあしゃま……」
母の優しい目が俺を正面からじっと見ている。母の気持ちが両手から流れてくるみたいに感じる。こんなのもう無理だ。
「ラウだけじゃない。私も側にいる」
「おう、俺もいるぜ」
「私もいるわよ~」
フェンとリンリンだ。まあ、この二人も一緒なら心配ないか。
「かあしゃま、ぼくのそばにいてくらしゃいね」
「ええ、ラウと一緒にいるわ」
こうして、母も一緒に魔王城へ行くことになった。




