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今世でまた会いましょう  作者: 温和湯屋
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15話 ヒント



 思い立ったが吉日、もとい、正確には翌日なのだが。伊澄は憂子とコンタクトを取る為、彼女の使役する黒蝶探しを始めた。しかし、学校に到着してから教室まで周り道をしてみたり、授業中も外や廊下に意識を向けてみるなど行動は始めるが特にその姿は見つけられていない。

 自分の周りで行動を共にする事の多い亜梨沙や周りの人には見えない物なので、余りにも露骨に探す訳にも行かないし…。と考えたところで伊澄は一つ閃居た。あれが見えていた押切壮という男が一人だけ居たでは無いか、と。

 あの時の会話で自分から関わりたく無い、関わるべき物じゃないとは言っていたが姿を目撃するくらいならしているかもしれない。

 幸い今は周りもお喋りに興じている文化祭に向けての自習時間という準備時間だ。亜梨沙は後ろの席だし、隣の席である壮個人に聞くなら今しかない。


「押切、ちょっと聞いていい?」

 伊澄が声を掛けるとのんびりと来場者向けの冊子を製本していた彼が顔を上げた。

「ん、どうした?」

「…前に私達にしか見えて無かった黒い蝶々、居たでしょう。あれを最近見かける事有ったのかなってちょっと気になって」


 周りに人が居る事も有り、単刀直入に聞いた。壮はその質問に驚いた様子も見せたが、あまり嫌がらずにあっさりと答える。


「前ほど見る事は無くなったよ。でもたま〜に遠くの方飛んでたり、くらいは最近見掛けたよ。近いところで1週間前くらいだったかな?」

 この教室で見る事はやはり無くなったようだ。それ以降見かける回数自体も大きく減り、場所も休み時間や放課後だとか、人混みの中に見つけた事があるくらいだと言う。


「私が見ていないだけでやっぱり居るのね…うん、ありがとう」

 伊澄がそう言って納得している様子を壮は複雑な表情で見つめる。そして心配した様子で声を掛けた。

「…巳城、もしかしてあれを探してたりするの?」

「えっ?あぁ、いや…ちょっと気になっただけというか!」

「それならいいんだけどさ…」

 図星を突かれて慌てて否定する伊澄は自分の咄嗟の取り繕いの下手さに驚いた。やはりこの男は勘が鋭い所がある。迂闊に何でも話さない方が良いのかもしれない、と焦りながら頭の中に一つ記憶させた。


「多分向こうから何かしてくる訳じゃないし、害は無いのかもしれないけど。“普通“では無いものなんだからさ。一応気をつけろよ」

 そう忠告めいた言葉を発する壮の顔や声色はいつに無く真剣だ。

「そうだよね…大丈夫、ちゃんと気を付けるよ」

「まぁ巳城なら大丈夫だと思うけど、それでも何か有ったら言えよ」


 あはは、と笑いながら壮はまた手元の作業に没頭するかのように視線を下に向けた。これ以上は何も聞いてくれるな、とでも言うかのようだった。明確には言えないが、いつもとは違うその様子に伊澄はそれ以上声をかける事が出来そうに無かった。




 そして伊澄は壮から聞いた「放課後に見掛けた」という情報を頼りに、放課後の校内を歩き回っていた。文化祭が近い事も有り、辺りにはその準備に勤しむ生徒達やお構い無しに部活動に励む生徒。そして早々に帰宅しようとする生徒など、普段よりは人気も多い。おまけに文化祭の大道具や装飾品が有ったりで、小さな蝶を見つけるには些か大変かもしれない。


「すみちゃんはっけーん。どう?俺の事なんか思い出しそう?」

「うげ…」


 周りに人が多い中友好的に声を掛けて来たのは事の発端の宵人だ。現在進行形でその為に動き回っているのも癪な上に、伊澄はこの男と一緒に居ると周りの女子の視線を感じるので、人目が有る中目立って接したく無かった。

 案の定、周りの生徒達は校内でも噂のクールなイケメンがへらへらと笑って接している様子と、その相手が友達の少ない転校生だという事に驚いて騒ついているのが伊澄自身にも分かった。少しでも騒がれたく無い為、宵人は気にせずこの場を通り抜けようと足を進める。


「ちょっと無視すんの酷くない?」

「何で着いてくんの!私は忙しいんだから」

「えー?手ぶらで校内ぶらついてる人が忙しいの?」


 早歩きで伊澄は歩いているつもりだが、宵人は普通に隣を歩いて来ている。男女の体格差と言って仕舞えばそれで終わりなのだが、ヘラりと笑いながら何てことなく着いて来ている様子がこれまた伊澄の癇に障るのだった。


「私は暇だからってぶらついてる訳じゃないの。あんたも教室戻るなり、帰るなりしてくれる?」

「相変わらず冷たいなぁ。ところで、俺の事はまだ何にも掴めずなのかな」


 宵人は少し足を早めて伊澄の前に回り込んで足を止めた。突然立ち塞がった壁に、伊澄もつんのめりそうになりながらも自分の足に急ブレーキをかける。


「…まあね。何か文句ある?」

「何でそっちがそんな偉そうになるの?ウケる」


 くすくすと笑いを零す宵人を見た通りすがりの女子生徒達は小さな声でありながらも色めきだっている。大方「四鬼君が笑ってるの初めて見た」「隣の子誰?」「あの二人どういう関係?」といった内容である。伊澄はまたこういう時の女子程面倒なものは無い、また有る事無い事噂として広まってくれるなよ、と心の中で頭を抱えながら願った。


 そう思いながら目線を一瞬下に向けた時だった。


 通りがかる生徒達の足の間に丁度うまく踏まれない位置に、あの蝶が居るでは無いか。あまりにも予想外の場所への出現に伊澄は思わず固まってしまう。今この周りに他の生徒は勿論、目の前には宵人も居る。人目が有る中であの蝶に何らかの接触を図るにはどうすれば、と頭を悩ませていた。

 突然固まって無言になった伊澄を見て宵人はどうかしたのか、とその目線の先を追う。そして、宵人も伊澄の目線の先に居る黒蝶を見つける。


「…もしかして“あれ“に何か用でも有る?」


 “あれ“とはあの黒蝶の事だろうか。目の前から聞こえて来た宵人のその声は先程までとは変わって、怒りすら含んだような冷たい声だった。突然の様子の変わりように伊澄は驚く。


「やっぱり、あんたにもあれ見えるの」

「見えるも何も…。ていうか本っ当にうざい。すみちゃん、もうあいつには会ったの?知り合い?」

「え?あいつって…」

「あいつに用があるんだったら伝えといてくれる?周りをうろつかれるの本当にうざいって。まぁ、今も何処かで聞いてるんだろうけどさ、すみちゃんからも言っといて」


 伊澄の疑問に答えもくれず、宵人は終始不機嫌そうにそう言い残し、さっさとこの場を離れて行ってしまった。声や様子も勿論だが、不機嫌そうなその様子はまるであの空き教室で初めて彼に出会った時と似ており、不満を隠すつもりは微塵も無さそうだ。

 急な態度の変化に驚きつつも、今は彼の発言について今一度思い出そう。

 まず、宵人にもあの蝶が見えること。これは前世の記憶を全て覚えているあたりから最早当然かもしれないが、気になるのはそこから先だ。

 あいつ、とは十中八九憂子の事で間違いないであろう。宵人が彼女の存在を知っていて、更にその使いとしてこの黒蝶が居る事も全てわかっている様子だった。それは即ち四鬼宵人と鬼である憂子と少なくとも関わりが有ったという事で間違いない。そして、宵人の言う通り今の会話も、この蝶を通して憂子は知っているのだろう。


 ずっと足元に留まっていた蝶は羽を幾度かぱた、ぱたと動かすと、ふわふわとまた何処かへ向かって飛び出す。宵人についても、憂子についても知るには今しか無いだろう。伊澄は蝶の後を追いかけて歩き出した。



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