14話 負けず嫌い
「期限は文化祭当日。それまでに俺が何者なのか、思い出せたら良いものあげるよ」
別に何かが欲しい訳では無いが、伊澄はあれ以来その言葉と宵人の事が気になってしまって仕方無かった。憂子に出会った時は、本人が力の有る妖怪だと言うことが影響してなのか、夢に憂子の関係する記憶が出て来て多少は思い出すきっかけとなった。しかし、今回は今の所全く宵人に関係する記憶は思い出せず、伊澄は晴れない靄を残したままだ。
勿論、知らなければ知らないでも何のデメリットも無い。それでもそう言われれば負けず嫌いが発動して突き止めてやる、と伊澄はなるだろう。その性格も理解した上で宵人はあのように言ったのだが伊澄はまんまとその策に踊らされていた。
そしてまず最初に相談したのは一番だ。
前世で伊澄とも、壮とも知り合いだったという宵人をずっと生き続けている一番が知らない筈がない。さっさと答えを聞き出そうと意気込んだのだが、返ってきたのは伊澄にとってまさかの返答だった。
「無論、存じておりますが本人が隠している以上、私の口から勝手にお伝えする事は出来ませんね」
自室にて蛇の姿に戻った一番は、当然のようにそう言った。
「自分は私に無理矢理思い出させようとしたくせに…」
「あの時は私達も主人に出会えて舞い上がっていたんです!掘り返さないで下さい!」
慌てた様子の一番は今や完全に丸くなったんだなぁと伊澄はしみじみ思った。そして前世の自分に仕えていたものとは言え、気性の荒くない妖怪で良かっ心の中で今更安堵する。そしてやはり、一番から宵人については勝手にその正体を明かす事は出来ないの一点張りだった。
「…確かに貴女の前に初めて姿を現した日は強硬手段で記憶を取り戻して頂こうとしておりましたが、あれはあくまで“伊澄様が神様であった事“を、なのです」
一番は少し間を空けてから、落ち着いて且つ悲痛にすら感じる声で話し出す。
「伊澄様も、押切壮も宵人様もそうですが。皆前世と同じ姿で生まれ変わっています。そして今この世に産まれ返っているという事は、それ則ち、皆一度は命を落としていると言う事です」
当たり前のことでは有るのだが、一番に言われた事によって伊澄の胸がじく、と痛む。そうだ、今元気そうに楽しそうにしている様子も知っているし思い出す記憶達も全て今の所は平穏そうで比較的楽しそうなものばかりで忘れがちだが、一度死んでいると言う事が“今“の前提なのだ。
「私が宵人様の正体をお伝えした時、伊澄様が思い出す記憶が良い物ばかりで有ると言う保証は有りません。勿論それは押切壮にも該当します」
「そういえば確かに押切については、元々私が自分で思い出していたから…?」
「その通りです。ですから、貴女に悪影響が出るかもしれない事も含め、私から勝手にお伝えする事は出来ないのです。どうかご理解ください」
今考えてみれば、憂子が伊澄達の前にやって来た時も無理に自分の事や前世の事を思い出させようとする事はしていなかった。彼女も同じ理由での言動だったのだろうか。と、考えた所で伊澄は一つ閃いた。
前世の事を知る憂子という妖怪が一番以外にも居るのだから、彼女にも聞いてみれば良いのでは?仮に宵人とは関係が無かったとしてもヒントが掴めるのでは、と。
「一番、憂子さんにはどうやったらまた会えるか分かる?」
伊澄のその突然の質問に一番は驚いて一瞬固まった。憂子に会おうと思った事もそうだが、前世での記憶を特段取り戻したがっているような様子は普段全く無い伊澄が自分からそう発言して来た事にも驚いたのだ。
「驚きました、貴女の方から憂子様に会ってまで思い出そうとしているとは…」
「いや別にあいつの事知りたい訳でも何でも無いんだけど、ああ言われたら気になるというか…うーん、とにかく私はこのままはっきりしないのが嫌だしあいつが知ってて私が知らないのも何か癪!」
「負けず嫌い故なのですね…。まぁ、貴女の意志でそうおっしゃるのであれば私も否定はしません。ご協力致しましょう」
一番にもここまで言ったのだからもう後には引けない。絶対に文化祭までに思い出してやる、と伊澄は自分の意地に誓って覚悟を決めた。今は人間である自分が自ら妖怪である憂子に関わりに行くのはあまり良い事では無いのかもしれないが、憂子は悪さを働く質でも無さそうだ。
「私も憂子様が普段何処にいらっしゃるかは分かりません。あの時は向こうから足を運んで下さっていたので…。しかし、またそのきっかけを作る事は可能かと思います」
「どういうこと?あれ以来あの人に会うことなんて全く無いけど」
伊澄が会おうとして出会った訳では無い。加えてあの時は憂子すらも伊澄を見付けたのは偶然だと言っていた気もする。彼女はとある別件で使いの黒蝶を飛ばし、校内の様子を観察するような何かがあるのだと。
「伊澄様は気付いていらっしゃらないかもしれませんが、憂子様の蝶はまだあの学校内を時々飛び交っているのでこちらが動けば気づいて下さるかもしれません」
「私、あれ以来あの蝶を学校で見掛けてないんだよね。やっぱりまだ居るんだ?」
聞いてみれば、授業も含め学校で動き回る伊澄は気付いていないが、あの蝶はまだ学校内で姿を見る事があると言う。憂子側が伊澄に用事が無くなったという事も有って伊澄は見掛ける事が無いのに加え、マスコットとしてずっと同じ教室の机の横でバッグに飾られている事しか出来ない一番だからこそ発見したのかもしれない。
「それじゃあ、明日からは私もよく探してみる。押切にも何か見てないか聞いてみる」
「伊澄様、今の貴女はただの人間で、相手はいくらお優しいと言えど妖鬼の一族を治める長である方なんですからね?無礼などは無いように気を付けて下さいね?」
明日からの行動に伊澄は意気込む。張り切るその様子に反して目の前の蛇はどこか不安そうだった。




