↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今世でまた会いましょう  作者: 温和湯屋
PR
13/16

13話 宵人


「あ、すみちゃんじゃん」

「…はぁ?」


 伊澄は突然の事に困惑している。

 学校で1日の授業を全て終え、伊澄は所用で職員室へ行った後、教室へ戻ろうとしている途中の事だった。そもそも校内で自分に声を掛けてくる人物は現段階で壮、もしくは亜梨沙、あとは教員のみである。しかし今声を掛けてきた人物は上記の誰でも無い、伊澄にとって完全に予想外の人物だった。


「あんたいつぞやの超失礼な黒髪男!」

「えぇ?何それ、そっちこそ超失礼じゃん。俺には四鬼 宵人って名前があるんだけど」


 辛辣な言葉を放つ伊澄に対し、宵人はけらけらと笑いながら返した。以前彼に初めて会った時の冷たい態度は何処へやら、今日は別人なのかと思う程フレンドリーに接してくる様子に伊澄の頭の中は疑問符で一杯だ。


「大体なんで私の名前知ってんの?名乗ってないよね?」


 伊澄がそう投げかけると宵人はにんまり、と言葉が付くような表情で目を細めて笑った。


「もちろん知ってるよ、生(・)ま(・)れ(・)る(・)前(・)か(・)ら(・)ね」

「…どういう意味?」


 何かを含んだような言い方でそう言った宵人に伊澄は更に困惑する。何も考えずに、周りから見ればキザな男が口説く為に簡単に放ったセリフに聞こえたかもしれないし、ただのジョークとして終わるかもしれない。ただ、伊澄には明らかに別の意味があるような何かが伝わった。


「どういう意味って…そのまんまの意味だよ。俺は知ってるよ、すみちゃんも勿論だけど、壮(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)も知ってるよ」

「押切の事まで…?ますます意味が分からない、あんた本当何者なの」

「俺は俺だし、っていうかそんなに警戒しないでよ、何も悪い事しないってば」


 自分の事に次いで、壮の事まで知ったような様子に警戒して伊澄は目の前の人物から少しだけ距離を取った。壮も前回確かに会ってはいるのだが、生まれる前から知っている、という発言が引っかかる。

 そして、彼も前世の自分を何らかの形で知っているのでは?という仮説が伊澄の中に浮かんだ。だが、それを口にしても良い物なのか、自分の思い違いだったら?という懸念も同時によぎる。

 そんな伊澄を察してなのだろうか。先に口を開いたのは宵人の方だった。


「…もしかして何にも覚えてない?だとしたらそれなのに2人一緒に居るって事?だとしたら余りにも運命的過ぎて恐怖すら感じるんだけど。まぁ、俺が出会ってる時点でも凄い事だけどさ」


 伊澄の様子を見てつらつらと宵人は話し続ける。この一連の流れを見て伊澄の考えは殆ど確実になった。

 と、同時にここが職員室の前で多数の人が行き来する場所である事を思い出し、はっ、とする。この場所では余りにも人目が気になり過ぎる。


「ちょっと、場所移動するよ。ここじゃあ話せない」


 伊澄は足早に人通りの少ない空き教室へと足を向けた。



――――



「…じゃあ、今の話を聞くにあんたは昔の私を知っている。で、合ってる?」

「なんだ覚えてるじゃん。って言っても俺の事は覚えてなさそうだね」

 

 どうやら伊澄の仮説は当たっていたようだった。

 彼が前世で伊澄と壮のどちらとも関わりが有り、そしてその記憶を持っているというのであれば初対面時の様子にも少しだけ納得が行くような気がした。確かに前世で顔見知りだった人達が同じ学校に一緒に居て突然目の前に現れれば思わず笑いも込み上げるのかもしれない。


「…私は部分的にしか覚えてないの。今でも前世の自分が神様だったなんて信じられない気持ちも有るし、押切に会ったのもあいつの事思い出したのもここに転校してきてからだよ」


 最近会ったばかりの同級生に前世での事を話している事が伊澄にとっては既に慣れない事で、不思議な感覚だった。人気は無い所だと分かってはいるが、つい周りを気にしてしまう。


「壮ちゃんは?何も覚えてないの?」

「全く覚えてないみたい。…だけど何か突発的なもので感じてる何かはあるのかもって感じ。あと、妖怪だとかそういう普通の人が見えないものは今でも見えるみたい」

「へぇ、でも昔から直感で生きてるって人だったしそれはそれで納得かな」


 壮の性格的な事についてもこれだけ理解があると言う事は、彼は本当に身近な関係だったのだろうか。最早初対面での態度や、亜梨沙から聞いていた情報でのイメージとは既に色々と違っていそうだ。


「…こっちの話ばっかりしてるけど、あんたはどうなの?本当に記憶があるの?」

「俺は全部覚えてるよ。だからすみちゃんと壮ちゃんが突然一緒に目の前に現れた時は本当にびっくりしたしそりゃあ、笑っちゃうよね、今でもウケる」


 話しながらも宵人はあの時の事を思い出してなのか、くすくすと笑っている。突然自分達を見て笑われた事に怒っていた伊澄だったが、事情を知った今は本人に対して怒れそうには無かった。しかし、そのむすっとした気持ちは表情に出ていたらしく、笑っていた宵人はその様子を見てにやにやと笑いながらも、ごめんごめん、と軽い謝罪の言葉を述べていた。


「…俺は物心ついた頃にはぜーんぶ、覚えてたんだ。自分の事も勿論そうだし、周りの事も楽しい事もつまんない事も嫌な事も全部全部、覚えてた」


 先程までは楽しそうに笑っていた宵人だが、今は色々な感情が入り混じったような、言葉には表せないような表情を浮かべていた。

 伊澄にはまだ夢で見ていた部分的な様子と、壮や一番、憂子に実際出会った事によって思い出した僅かな記憶しか無い。宵人は前世で体験して感じた事全てを覚えていると言う。

 今生きている中でも辛くて痛くて悲しくて嫌な事だってあるだろう。その上前世で感じた負の感情も一緒に背負っていかなければならないのはどんな気持ちなのだろう、そう考えて伊澄は言葉が詰まった。


「忘れてたら良かったのに、って何度も考えたし今でも勿論そう思うけど…でも、すみちゃんと壮ちゃんに会ってからちょっとポジティブになれた」

「…ねぇ、あんたって私たちと一体どういう関わりが…」


 伊澄がそう言いかけた時、宵人が突然その唇に自身の人差し指を当てた。突然の事に驚き、伊澄は言葉も身体も固まる。


「駄目、思い出せない子には言いません!」

「は?ここまで話しといてそんな…」

「じゃあ宿題にしよっかな。俺からすみちゃんへの宿題、期限は文化祭当日。その日までに俺が何者なのか、思い出せたら良いものあげるよ」



 また面倒な事になってしまったなぁ、と頭を抱える。


 そしてどこか楽しそうな様子の宵人を見て伊澄は「誰かに似ている」と言う既視感を感じるのだが、それが誰なのかは分からなかった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。