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今世でまた会いましょう  作者: 温和湯屋
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11/16

11話 準備



「えっ、スムージーってジュースと同じじゃないの?」

「はぁ?ちょっとこいつ信じられないんだけど」

「出し物決めた時に他の子がスムージーの説明してたよ押切くん」


 石清水(いわしみず)高校は学校全体が浮き足立っているような、そわそわしているような雰囲気に包まれていた。翌月に行われる学校としての一大行事、文化祭に向けてだ。

文化祭の準備という普段とは違う日常生活に学年を問わず、教師も含め皆が張り切っていた。普段の授業や部活動等も行いながらの準備なので、生徒達は授業の合間や放課後、ホームルームの時間を利用しての打ち合わせや物資調達、コストの計算などに忙しなく動いていた。

 伊澄達2年2組は教室を使ってスムージーの模擬店を出す事が決まっており、今も自習時間を使って飾り付けの為の装飾品をクラスの生徒が各々分担して作っている所だ。伊澄は亜梨沙と壮と机を合わせ、壁や天井から吊るすガーランドを作成している。


「でも果物とか野菜使うのは一緒じゃん」

「スムージーは皮と果汁に分けないの。そのままミキサーに入れて作れるし栄養分も高くて美容にも健康にも良いんだから」

「伊澄ちゃんが言うと説得力ある…やっぱり美容とかそういうの、気にしてるんだね」


 尚、このスムージーとは何たるかについては先日、一番にも説明を求められ細かく伝えたばかりだった。彼は色々と現代文化については興味を示しているようで色々と説明した後、最終的には「私はスムージーよりもタピオカの方が気になります」との事だった。ただ、文化祭という行事には関心を持っているようで伊澄達が準備している様子もよく見て楽しみにしているようだ。


「こうやって机くっつけて学校行事の準備してるの、青春って感じしない?」


 亜梨沙は嬉しそうに伊澄と壮に向かって言った。文化祭という学校行事の中でも大掛かりなイベントで、友達と一緒に準備に取り組めるというのが亜梨沙にとっては青春のイメージ図に当てはまるようだ。完全に本人の作業の手は止まってしまっているが。


「わかる!なんかうきうきするってのもあるけど、こういう細かい作業は俺苦手だから1人じゃ出来ないんだよな。だから2人が一緒にやってくれて助かる」

「うわ、押切の切り抜きガタガタじゃん…。ちょっと、それ貸して」

「巳城、お母さんみたいだな」

「私はこんな不器用な息子嫌だけどね」


 壮の作っているガーランドは型を切っているだけなのだが、なんとも見栄えが悪く、線が歪になってしまっている。見兼ねた伊澄は途中までになっている画用紙を壮から受け取り、続きを切っていく。一度、自分が切る様子を壮に見せて、切り終わった用紙の切れ端を本人に返した。

 そして、その様子を黙って一緒に見ていた亜梨沙が納得したように話し出す。


「伊澄ちゃんと押切くん、やっぱり良いコンビだよね。正反対っぽいけどバランス取れてて良い塩梅っていうか?」


 突然の亜梨沙の発言に伊澄は思わず「は?」と大きめの声が出た。対して壮は特に何も気にしていないのか、変わらずにこにこと話を聞きながら作業を続けている。

 確かに2人は性格のタイプも違う為、クラスの中でも「何故あの2人は仲が良いのか」と疑問に挙がることもあった。伊澄にとっては勿論、壮は前世でも関わりがあったからと言う事が大きいのだが、転校初日に偶然助けて貰った事も合わせて現在の関係になっている。壮にとっては前世の事など知らないだろうし、単純に近くに居るから、とお互いに他人に見えないものが見える、という共通点もあっての事だろう。


 伊澄は壮に対して「友人」とは何か違うものを感じては居るが、それは前世の記憶ありきの為、何とも彼に対する感情や言葉はまだ形容し難い物だった。

―― そう言われて、喜んで良いのかどうかもまだ分からないな

 心の中で思った言葉に釣られて、亜梨沙の言葉に対しては軽く誤魔化して受け流したような相槌になってしまったかもしれない。と、伊澄はハサミを動かしながら少し反省した。





 そしてホームルームが間も無く終わる頃。

 先程の時間で完成した教室に置き切れない装飾品を収納する為、伊澄達は文化祭準備物の保管用となっている空き教室へやってきた。

 3人それぞれが箱や袋を抱えて教室の扉を開けると、確かに辺りには様々なクラスの準備物であろう道具が人の背を越すような大きい物から細かい用具まで、様々と置かれている。


「この辺りにでも置いておくか?…って、うわ!」

「急に大きい声出さないでよ、びっくりするじゃん」


 床に置かれた資材などに気を付けながら、先に進んでいた壮が何かに驚いて声を上げた。伊澄と亜梨沙も何事か、と壮の元まで近付いた。

教室の扉よりも高さはあるであろう、ボードや大道具に埋もれた所に壮の驚いた原因があった。というよりは、居た。


「…何か用?何も無いなら放っておいてくれる?」


 男子生徒がそこに居たのだ。ずっとここに居たと言うことであれば大方、授業をサボっていたのだろう。

 伊澄は初めて見る生徒なので他学年か、別のクラスの生徒か。

 初対面にも関わらず冷たい物言いであまり態度こそ良く無いが、黒髪が印象的な美青年だった。パッと見ただけでも顔立ちも整っており、座っている為目測にはなるが身長も高そうだ。伊澄は彼の態度の悪さの方が気に障った為、眉間に思わず力が入る。


「びっくりさせてごめんな、邪魔したよな」

「別にあんたが謝らなくて良いって」


 態度の悪い黒髪の男にも怯まず、明るい笑顔を向ける壮の背中を押して伊澄は進もうとする。亜梨沙に関しては完全に人見知りモードで黙ってしまっているようだ。

 黒髪の美青年はここで授業をサボりながらゲームでもしていたのか、その手にはスマホ、片耳にはスマホに刺さっているイヤホンが繋がっていた。自分に用が無ければ特に何の関心も敵対心もないのか、特に言葉も発さず、彼の視線は再びスマホに向けられている。


 3人で運んで来た荷物を教室の端に固めて置き、もうさっさと教室に戻ろうと足速にあの生徒の前を通り抜けた時だった。


「ちょっと、あんた達ストップ」


 急に伊澄の腕を掴んだかと思えば、黒髪の彼はゆっくりと立ち上がる。そして伊澄の事を頭から爪先まで眺めた思いきや、隣にいる壮に対してもまじまじと同じような視線を流す。先程まで冷たく細められていたその目は今は驚いたかのように見える程、見開いている。


「…あなたには別に何の用も無いんだけど、何も言わずにジロジロ見て来るなんて失礼じゃない?」

「い、伊澄ちゃん…!」


 第一声から続く不審とも言える言動に不信感や嫌悪感を感じた伊澄は、変わらずこちらの様子を観察している彼を睨みつける。亜梨沙が隣で静止の声を掛けたがそんな事は今は何も気にならなかった。壮はまたしても呑気なもので、特に向けられている視線すらも気にしていないようだ。


「…へぇ。こんな事も有るのか」


 黒髪の生徒はそう呟いたかと思うと、次は目を細めてくすくすと笑い始めた。ジロジロと無言で視線を向けられたかと思えば次はこちらを見て笑い出すその様子に伊澄は苛立ちが募っていた。怒りに任せて伊澄の口が開く。


「人の容姿をじろじろ見た挙句笑うなんて最悪なんだけど」

「あんま怒んなよ巳城、俺達が面白い顔に見えるのかも」


 そんな2人の会話を見て何が彼にハマったのか、今度はあはは、と声をあげて笑っていた。いつの間にか先程まで手元にあったスマホはポケットに仕舞われ、イヤホンも耳からは外れている。彼の興味は完全に伊澄達に向いているようだ。


「はは、何これ、ウケるんだけど」

「はい?」


 最早伊澄は怒りも通り越して言葉が出なかった。言動に疑問点が多すぎる。

会話すらも成り立っていない様子だったが、彼は満足したのだろうか、伊澄達から離れ、教室を出ようとしているようだ。


「面白い物見せてくれてありがと、じゃあね」



 ひらひらと手を振って去っていくその姿に伊澄は何故か既視感を感じていた。


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