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COLON:SERIES - 異世界への扉と導かれし者達  作者: 暦史書管理機構
シグレの異端争議典
21/39

4-3:太陽が呼んでいる

「っ! そこの、怪我はないか!?」

「……私?」

「ああ、大丈夫か?」


 殺された人間はこの少女の知り合いかもしれない。深いローブを被っている不思議な格好の少女は首を傾げてから頷く。


「問題ない」

「……怪我は……なさそうだが、犯人が近くにいるかもしれない。離れた方がいいな」


 おかしな様子の少女の手を引いて逃げ、能力絡みのことだと思われたので警察ではなくセーラに連絡を入れる。


「……あの人は知り合いか?」

「知らない人。……何か用か」


 よほど死体を見たのがショックだったのか、どこかここじゃないところにいるような不思議な表情で少女は話し……放っておくわけにはいかないかと思い、面倒事に溜息を吐き出した。

 改めて見ればおかしな少女である。日本人ではないのか、金色の髪がローブの下に隠されていて、現代らしくないと感じさせる出で立ちだ。

 どこかの民族衣装かと思ったが、記憶を探っても似たようなものは思い浮かばない。異質さを感じる。

 一瞬、あの惨状をこの少女が引き起こしたのではないかと疑うが、それにしては俺に何かをする素振りはなく、不思議そうに俺を見るばかりで警戒心が薄れていく。

 すんすんと鼻を鳴らされて、少女の視線が俺の手元に移る。


「……腹が減っているのか?」


 少女は頷き、俺はアレルギーやその他の問題はないかを尋ねてから手渡す。

 袋から取り出すが、その後の開け方が分からないらしく代わりに開けてやり、それからまた渡すと、チキンの表面を確かめるようにちろちろと舐めてから、頬張る。


「……美味いか?」

「分からない」


 あまりにも不自然だが……悪い子供には見えない。色々と怪しすぎるものの、必死に口を動かしている姿は年相応以上に幼く見えて、非常に整った顔も合わせて可愛らしい。

 流石に放置は出来ないと判断して、彼女がしゃぶっている骨を口から引っ張り出す。


「ここら辺に住んでいるのか?」

「違う」

「親とか、保護者はいないのか?」

「……いない」


 ……色々とアウトすぎて逆にアウトではない気がしてくる。どうやったら確かめられるのか、そう思っていると俺の手にある骨を恨めしそうに見ていたので、またコンビニに入ることにした。


「ついて来い」


 そう言うと、大人しく俺の後ろをついて歩き始めた。

 犯人かもしれない子供だが、キョロキョロと見回している姿は幼く見えて、あれをしたわけではないと考えてしまう。まぁ、血の飛び散り方を思えば違う可能性は充分にある。

 状況的に怪しいのもあるが、実際のところは分からない。

 考えや警戒は絶やさないようにしながら、少女が欲しがるものを適当に籠に入れていく。


「……名前は?」

「私のか」

「そりゃあそうだろ」


 彼女は籠を見ながら思い出そうとする素振りを見せて、ああ、と声をあげる。


「サナム=ジブリール」


 見た目から言えば当然だが、日本人ではないか。ただの旅行者にしては日本語が達者過ぎるようにも思う。


「貴様は」

「貴様って……。有栖川ヨミヒトだ。……他に一緒の人はいないのか?」

「いない」

「どうやってここまで?」

「飛行機」


 そりゃそうである。少女の一人旅にしては幼すぎて、怪しい身の上話を聞くべきか迷いながら、購入した食べ物をイートインスペースで食べさせる。


「……美味いか?」

「分からない」


 ぼうっと答える少女を見て、素直だな、と小さく思う。

 素直と表するのが正しいのかは分からないが、警戒された様子も見栄を張る様子もなく、嘘を吐くようにも見えない。何にも囚われずに質問に答えているといった様子だ。

 人間らしくない、などと思うのは失礼かもしれないが、そう感じる。

 しばらく食べ続けているサナムを見ていると、駆けつけてきたらしいセーラが駐車場の車から出てくるのが見えた。


「……ノア、運転出来るのかよ」


 この前のあれは完全に運転を押し付けられただけらしい。あとで何かしら雑用でもさせてやろう。

 セーラがコンビニのガラス越しに俺達を見つけて、目を見開く。


「どうしたんだ?」


 サナムも食べ終えたらしく、ゴミ箱に袋やらを捨ててから立ち上がって外に出てセーラと合流する。


「セーラ、呼び出して悪いな」

「……その子? 見つけた子は」

「ああ、無関係ではなさそうだし、無関係だとしても危なかしいから連れてきた」


 セーラは何度か瞬きをしてからサナムの顔を覗き込み、小さな声で、恐る恐る呟いた。


「……サナムちゃん?」

「誰だ?」


 サナムのことを知っている様子のセーラは、少し混乱した様子で周りを見渡す。


「どうしたんだ?」

「……いや、知ってる子でびっくりしたの」

「知り合いなのか?」

「一方的に知ってるだけだよ。……ちょっといい?」


 珍しく真面目な様子で俺の手を引き、サナムが見える程度の場所で小声にしながら話した。


「私、能力の研究が専門って言ったでしょ?」

「ああ、散々世話になった」

「専門って言っても、していることはだいたい能力の発動を観測したり、色々と話したりが中心で……あとは、他の人の研究を調べたりね」

「ああ」

「人を使って実験なんて、やたらめったらに出来るものではないからね」


 その前振りのような言葉でだいたいの想像がつき、胸糞が悪いと顔を顰める。

 口を開いて、閉じて、また開いて、口に出すことすら憚られるようにセーラは先伸ばすように話し始めた。


「まず始めに言うと、その人がやられていたのはサナムちゃんの仕業じゃないよ。サナムちゃんの能力は【治癒能力】だから、そういうことは出来ないはず」

「治癒能力って……すごいな」

「能力がどうやって決まるか知ってる?」

「いや、分からないが」


 かなり昔から使えていたので使えるキッカケのようなものは覚えていない。


「前提として特殊な遺伝子を持っている必要があるんだけど、性質を決める要素は、単純に言えば二つ。知識と、強い思い。分かりやすい例だと、ノアくんみたいに『元々レイピアを習っていて、身体を串刺しにされた経験がある』みたいなね」

「……それで」

「言い方はあれだけどさ、言ってしまえば……やろうと思えば、能力は外からの働きかけで操ることが出来るの、例えば……意図的に火の勉強をさせて、火事を起こさせて死にかけるまで炙るとかね」


 言いにくそうにしているセーラに代わり、続ける。


「つまり、サナムは治癒能力を身につけさせるために意図的に精神的外傷を負わされたってことか」


 セーラは力なく頷き、誤魔化すように笑う。


「単純に怪我を何度も負わせる、友人を作らせて目の前でゆっくりと殺す、人肉を食べさせるとか……。気分を無理矢理高揚させる薬物とかで、はっきり分かるようにさせたり、自傷させたり」

「……非道だな」

「うん。その人体実験の被験体だったはず。……おかしくなって、閉じ込められてるって聞いたんだけど」


 胸糞悪い。想像するだけで気分が悪く、支部が違うとは言えど、自分の所属する組織で行われていたと思えば、吐きそうなほど不快だ。


「……大丈夫?」

「一応聞くが……」

「ちょっと前に読んだだけだよ。その時には凍結されてた」

「疑って悪い」

「疑ってないくせに……連れて帰るのは問題かもしれないね」


 下手をするとバレて隠される可能性があるのか。とりあえず、能力が治癒な以上、あの惨劇の犯人ではないだろう。

 一人で放置するわけにも、知らない人物のところに預けるわけにもいかない……となると。


「俺の家で保護するしかないか……」

「他のメンバーは組織の部屋借りてるだけだからね……。出来たらそれがいいのかな。ずっとそうするわけにはいかないから、当面はになるけど」


 セーラに付けてもらっていた能力の訓練もそろそろ区切りがつくころなので、そろそろ自宅に戻ってもいいだろう。

 尤も、サナムが納得したらだが。

 話は終わり、サナムの元に向かう。


「……何?」

「今日泊まるところはあるか?」

「そこらへん」

「ないんだな。……しばらく俺の家に来るか?」


 少し俺を見て、サナムは頷いた。


「分かった」

「……決まってから言うのはあれだけどリリィたんに怒られない?」

「なんであれが怒るんだ」

「そりゃ……まぁいっか! とりあえず、色々と要り用だろうから、ヨミくんがリリィたんに怒られてから手伝いに行くね。……あっちの、遺体の対処もいるだろうから」


 セーラの言葉に頷いてから、リリィに連絡を入れる。状況と住所を伝えて、手伝いに来てくれると助かると言っておく。

 あれでも性格のいいやつだから助けてくれるだろう。

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