4-4:太陽が呼んでいる
久しぶりに戻ってきた自室に入り、適当に片付けながらサナムを座らせる。
「結構汚れているな。シャワーでも浴びるか? いや、着替えがないか」
「浴びてくる」
「使い方分かるか?」
「任せろ」
まぁ、大丈夫だろう、たぶん。適当に俺の服とタオルを脱衣所に置いて、中でシャワーを浴びているらしいサナムにそれを伝えてから部屋に戻り、埃っぽい部屋に掃除機をかけていく。
狭い部屋のためすぐに掃除が終わり、布団が一つしかないことに気がついた。ありがちなのはソファで寝るというやつだが、うちにソファはない。一日二日なら床でもいいだろうけれど、早めに買った方が良さそうだ。
軽く換気をするために窓を開けると不機嫌そうなリリィが遠くに見えて、手を挙げて居場所を伝える。
扉を開けて招き入れると、それと同時にぶかぶかな服を着たサナムが奥から出てくる。
「……あなたのことだから疑ってはいないけど……あまり良くないと思うわ」
「仕方ないだろ。組織には置いていけず、事情も説明出来ないとなると預けることは出来ないし、お前らは組織の部屋を間借りしてるだけだからな」
「分かってるけど……あまり良くないと思う」
それはそうなので否定出来ない。リリィはキョロキョロとしながら中に入り、サナムを見て口を開く。
「リリィ・アダムズよ。よろしくね」
「……?」
「よろしくでいいんだよ」
「よろしく」
リリィは首を傾げながら「この子変ね」と口にする。
「そうだな。金色の眼は珍しい」
「いや、そこじゃないから」
「ヘンネって名前ではなく、サナム」
「そういう意味でもなくて」
ほとんど濡れたままの金色の髪をタオルで拭いてやっていると、リリィが首をかしげる。
「あれ、ドライヤーはないの?」
「ないな。自然乾燥だ」
「……ええ……」
ぼーっとしているサナムが退屈しないようにとテレビを点けると、真っ直ぐそれを見始める。
人間味がなく……心が壊れている、という風に見えてしまう。
話しかければ答えは返ってくるが、その答えも自分に関することは分からないようだ。
「……晩飯何が食べたい?」
「食べ物」
「適当に買ってくるか」
「いや、ちゃんとしたものを食べさせなさいよ。これだから男の一人暮らしは……私が作ってあげるわよ」
断ろうとしたが、フンと言われて抗議が通じない。リリィはほとんどの調理器具がないことに呆れながら、作るものを考えていく。
「……今日作ってもらっても、毎日というわけにもいかないからな」
「別に毎日でもいいけど?」
「そういうわけにもいかないだろう」
「栄養偏るから、仕方ないわよ。他に世話を焼いてくれる人がいるわけでもないでしょ?」
「いや、赤木がよく食べ物を持ってきてくれたな」
「……そう」
リリィはつまらなさそうに話を打ち切って、調味料があるかを探していく。
「事情を話さなくても、二つ返事で預かってくれるような人がいればいいんだがな」
「そんな人いないでしょ」
「それもそうか……いや、赤木ならあるいは」
「流石に無茶でしょ」
とりあえずこの時間なら赤木は風呂だろうから、メールで頼んでみるか。サナムと一緒にテレビを見ていると、しばらくしてから返信が返ってくる。
『いいよー(^O^)』
軽い。続いてまた着信音が鳴る。
『でも、部屋を開けないとダメだから今日は難しい(><) 明日からでも大丈夫?』
本当に大丈夫なのだろうか、まともに説明せずに、小学生か中学生ぐらいの外国人の少女としか説明してしていないのだが……。
「……赤木が、預かってくれると」
「えっ、説明したの!?」
「いや、説明なしで」
「それはそれでダメな気がするんだけど……いいの? 赤木ちゃんは」
「たぶんな、まぁ今日はここで預かることになるが」
「……あの子すごいね」
「そうだな」
赤木は俺と友達でいられることからもわかるように……度量がとんでもなく深い。マリアナ海溝よりも若干深い。
また赤木に大きな借りが出来て、正直借りが多すぎて返せる気がしない。
サナムに事情を説明すると、何か言うこともなく頷く。あとでセーラにも連絡をした方がいいだろうな。
そんなことを思っていると……突然、プツリと音がして照明とテレビが消えた。雷もなかったが、停電か。
突然暗くなった室内で、急に背中に痛みが走る。
襲われたのか、急いで離れようとすると服を掴まれていて逃げることが出来ない。ほとんど暗闇の状態では能力が使えず、久しぶりに腕力でどうにかしようとして、掴んでいる腕を掴む。
「きゃっ! な、何よ!?」
「……リリィか」
「何が!?」
「落ち着け。……とりあえずスマホのライトを使うか」
服を強く握られたままポケットからスマホを取り出して、ライトを点ける。サナムは変わらずそこにいて、リリィは怯えた表情で俺を見ていた。
「突然暗くなったからビックリしただけ」
「……別に何も聞いてないんだが」
「うるさい」
警戒しながら外を見てみると、この家だけではなく、地域全体が真っ暗になっているらしい。街灯の灯りすらなく、星明かりぐらいしか光源がない。
たとえ素手であっても生半可な相手には屈しない自信はあったが、能力が使えるに越したことはない。確か災害用に纏めていた鞄に懐中電灯を入れていたはずだ。
点くことを確かめ、最低限の光源を得たことに安心しながら、未だに掴まれている服を引っ張る。
「は、離さないからね!」
「いや、何かあった時に対処出来ないだろ。とりあえずスマホは使えるから、停電の原因を調べてくれ」
「……懐中電灯は置いていって」
「失くすなよ?」
「失くさないわよ! ……ヨミヒトはどうするの?」
「外で何か来ないか警戒しておく、まぁ……杞憂だとは思うが」




