4-5:太陽が呼んでいる
靴を履いて外に出る。家の屋根の上に登り周りを見渡すが、ほとんど灯りはなく、真っ暗だ。怪しい人影がないかと見ていると、屋根によじ登ろうとしている影が見え、それがサナムだと分かり、落ちる前に手を掴んで引っ張り上げる。
予想以上に軽いことが少し不安になるが、赤木は面倒見がいいので預けていたら健康になるだろう。
軽い体を抱き上げて、落ちないように膝の上に乗せると、膝に乗るサナムは軽く身体を動かして深く俺の脚の間に入り込む。
「どうした?」
「……貴様が、ついて来いと」
「ん? ……ああ、昼のことか」
律儀なのだろうか。少女らしい匂いがして、その無機質な表情とは違い生きていることを示しているようだった。
何か気の利いたことを言って笑わせてやろうかと思ったが、そんな器用なことは出来ず、一方的に感じているだろう気まずさを誤魔化すように口を開こうとし、それも出来ずに閉じる。
思えば、彼女がこのようになっているのは辛い経験を誤魔化すために心を自分で閉ざしているからかもしれない。
それを無理矢理こじ開けても、辛いばかりじゃないだろうか。
「どうした」
「……寒いだろ」
上着を被せてやり、溜息を吐き出す。
「……生温い」
「そりゃな」
「何をしたらいい」
「知らん、星でも見てたらいいだろ」
サナムは素直に頷き、空を見上げる。停電のおかげか、この時代ではほとんど見ることも出来ないような真っ黒い空と、そこから溢れるような星々。美しいと思って手を伸ばす。
「何をしている?」
「まぁ、見ていろ」
能力を使う。光の屈折と収束、拡散を操る俺の能力、イデアル・スコープ。おそらく本来の使い方はこれなのだろう。
遠くにある星を手に入れるための能力、可能な限り大きく能力を広げて、俺とサナム中心にして見れるようにする。
言ってしまえばただ星以外の光を遮って見えやすくしただけだが、それだけで劇的だ。彼女は見上げながら、息を吐き出す。初めて見た人間らしい反応に顔を綻ばせながら頭を撫でる。
「綺麗だろ」
「……分からない」
「間違っていてもいいから、思った風に答えたらいい」
「綺麗……とても」
馬鹿らしい感想だが、生きている。と、安心する。可愛らしい笑みは見れないけれど、息をしていて、綺麗だと感じる心がある。
月を大きく見せると驚いたような表情をしたので、色々な星を次々と見せていく。
「すごい」
サナムは俺を真似るように手を伸ばし、立ち上がろうとして屋根から落ちそうになり、思わずその身体を抱き締めて一緒に屋根から落ちる。片手で屋根の縁を掴んで落ちる身体を止めてから手を離して降りる。勢いのついた二人分の体重を支えるにはどうしても強度が足りなかったらしく、手の平の皮が剥けてしまい出血してしまっている。
「あ……」
顔を青ざめさせているサナムの頭を触ると、彼女は身体を震わせる。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「……あ、な……い」
「なら、よかった」
何かしらスイッチが入ってしまったのか、身体を震わせて俺にしがみついている。
「ごめんなさい、怪我、血、させて」
「気にしなくて大丈夫だ、サナムに怪我がなくてよかった。また星を見るか?」
「ん……いい」
サナムは青ざめさせた顔のまま傷ついた俺の手を握り、治れ、と口にする。ズルむけていた手の平は見る見るうちに皮が治っていき、怪我をしていた証拠は手に残った血だけになった。
「すごいなこれは……」
「そんなこと、ない」
傷を治す能力とセーラから聞いていたが、本当にそれを見ると感嘆の声が出てしまう。人体実験をしてでも得ようとしたことを許せはしないが、理解できる程には優秀だ。
皮膚ならまだしも、治らない臓器なども治せるかもしれないのだから、現代医療を大きく超えている。
けれどそれは……その凄さの分、少女の痛みの方が強いのかもしれない思うと褒められたものではない。
「……もう遅いから、サナムは寝た方がいいか」
「分かった」
停電は治っていないが、寝る分には問題ないだろう。




