第92話 星を管理する者を管理する者
遠い光の点をながめるように、私はその星を見つめている。
私は、管理機構に所属する者。この星を含む1つの銀河を預かっている。
銀河に散らばる無数の恒星系において、知的生命が育まれた星に管理者を配置し、その営みを見守るのが私の務めだ。
知的生命の文明が発達し、そのほとんどは滅んでいく。肉体など物質からなる存在が私たちの様な非物質の存在にまで進化することはほとんど無い。この広い宇宙には、私たちの様な存在は近隣の銀河団にもいる。アッシェンと呼ばれる存在だ。ただ、我々とは理念や価値観が全く違うため、アッシェンとの交流は無い。
その星に生まれた生命体には自力で進化し、発展していく権利がある。何者もその権利を侵害することは許されない。
ゆえに、我々の方針は、ただ見守る、それだけだ。
また、星を管理する者の役目には、その星の生命体が惑星外の生命体からの干渉を受けないよう見守ることも含まれている。
当然、我々が惑星上の生命体に何らかの干渉をしたり、コンタクトを取ることは堅く禁じられている。唯一、担当する惑星に対してできる干渉は、気象のコントロールのみ。その場合でも必要最小限にとどめている。
これまでこの禁を破った管理者は私がこの銀河を担当して以来、1人もいなかった。
この惑星の管理者を除いては。
この星の管理者は、数千年にわたってこの星を静かに見守ってきた。だが、その者は道を踏み外してしまった。
私は全てを知っている。何もかも。
その者が遥か昔に禁を破り、争ってばかりいた祖先たちの心から、負のエネルギーを抜き取ってしまったこと。
地の底に封じ込めた負のエネルギーが、進化して思考する者たちとなったこと。
その存在を消すための生物兵器としてエボンヌを創ったこと。
そして今度は、他の惑星から住民を攫い、自らの過ちを隠すためだけに、地の底の者たちを消し去ろうとしていること。そのすべてを、私ははじめからずっと見ていた。
確かに他の惑星の生命体への干渉は禁じられていない。しかし、原則外とはいえ、よく出来たものだ。本来なら、その惑星の管理者が転移を阻止しなければならない。今回は、その惑星の管理者は警告だけに留めた。2度目は無い。
地の底の者たち。たとえどれほど歪んだ経緯で生まれたのだとしても、あれは間違いなく、この星で生まれた知的生命体だ。思考を生業とし、静かに日々を過ごしている。どのような理由があれ、この惑星の生命体をその管理者が害するなどあってはならない事だ。
私は立場上、見守ることしかできない。
本来であれば、こうなるよりも前に、私はあの管理者を処分しているはずだった。
だが、私は未だに処分できずにいた。
この銀河で私が預かる星は、あまりにも多い。その全てにふさわしい管理者を絶えず配し続けるのは、容易いことではなかった。
通常、惑星の管理者はその惑星の知的生命体から選ばれることが多い。だが、管理者になれる資質を有した者を見つけるのにはいつも苦労している。
この星もそうだ。この星の管理者になれる資質を持つ者が、未だに見つからずにいる。
他で管理者になれる人材も見つかっていない。
ゆえに私は、やむを得ず今の管理者を、処分せずに放って見ているよりほかなかった。
そして今、あの管理者の新たな暴走により、連れてこられた異星の住人たちがいる。
原則は、この星に生まれた者にしか及ばない。星の外から来た者は、その枠外にある。
ならば、私も利用させてもらおう。この星に生まれた生命の未来を、外から来たあの者たちに委ねる。だが、あくまで主体はあの者たちだ。
欺瞞だと言われてもかまわない。私は私に許された範囲内の事だけをする。
あの異星の者たちへ声をかけた。しかし、答えは授けない。僅かな知恵を貸してやるだけだ。
古びた壁のあの偽りの絵に、真新しい彫り跡を重ねて刻んだのも私だ。
答えは示せずとも、違和感の種は蒔いてやれる。あの者たちが、自らの目で気づき、考え、行動するように。
後は、あの者たちが自身の意思で、険しい道を進むよりほかない。
私は、異星の者たちの中の1人の少年が気になった。
星野桃矢。
かけがえのない仲間を目の前で失い、迷い、震えながら、それでもうずくまることなく、まっすぐに前を向いた少年だ。
私はこの星に来てからの彼の行動を見ていた。
答えが見えない難問を抱え、それでも、誰ひとりとして見捨てないと必死に行動してきた。
私はあの少年の中に、あるものを感じ取っていた。それが何であるのかを、私はまだ口にはしない。まだ、その時ではないのだ。
無数の星を等しく見つめてきたこの私が、なぜか、この彼からだけは、どうしても眼を逸らすことができずにいた。
あの管理者は、自分の過ちが私に知られていないと信じている。処分されずにいることこそ、露見していない何よりの証だと、そう思い込んでいる。だが、違う。
私はずっと見ている。地の底の静かな生命のやその生命を守ろうとして、暗い地の底へと進み続けている、あの者たちのことも。
何もかも、ずっと見ているのだ。
だが、見ていることと、救えることは違う。
あの少年たちがリングにたどり着き、あの者の思惑を阻止することができるか、それともたどり着けずに潰えてしまうのか。
私は、ただ見ていることしかできないのだ。
星野桃矢、この者が私の期待通りの者かどうか、私はもうしばらく観察を続けよう。




