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いつもの市バスは、異世界行き  作者: チーム エボンヌ
第一章 サバイバル編

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第9話 探索

 その夜は、長いとも短いとも言えない、奇妙な夜だった。

 桃矢は、見張りを終えてから何度か目を覚ました。瞼を開けるたびに、空の明るさが違う。最初に目を覚ましたときは、あたりは銀色の薄明かりに包まれていた。

 次に目を覚ましたときに、真っ暗で何も見えない、本当の暗闇になっていた。けれどその暗闇は、地球の夜よりもずっと短かったらしい。

次に目を覚ましたときは、再び橙色の光が差し込み始めていた。


「眠れた?」

 隣で同じように寝返りを打っていた陽翔が、小声で聞いてきた。

「ぜんぜん。お前は?」

「俺も。なんか、いつ夜が明けるのか分かんなくて、逆に目が冴えちまった」

「それに、せっかく暗くなったと思ったら、あっという間にまた明るくなるし」

 桃矢がそう付け加えると、陽翔も頷いた。

 地球なら日が沈んでから昇るまで、たっぷり眠れるだけの時間があったはずだ。けれどこの星では、本当に暗い時間がほんのわずかしか続かない。ろくに眠れないまま、また明るい時間が始まってしまう。それが2人の体に疲労を蓄積させていた。


 桃矢たちだけではなかった。今泉さんも何度か寝返りを打つ音を立てていたし、麗華たちのいる方からも、誰かがひそひそと話す声が、夜の間、断続的に聞こえていた。

 誰もが地球の体内時計のままこの星にいるせいで、いつ眠ればいいのか、いつ起きればいいのか分からなくなくなっていた。

 やがて、ひときわ強い橙色の光が密林の隙間から差し込み始めた。今度こそ、本格的な朝が来たらしい。

 けれど桃矢には、それが本当に「翌日」と呼ぶべき時間なのか、それとも昨日からまだ続いている長い一続きの時間の一部なのか、判然としなかった。

 少なくとも、誰もがひと眠りしたことだけは確かだったので、とりあえず「2日目の朝」と呼ぶことにした。

 空には橙色と青白い色の2つの太陽が昇っていた。

 地面には、足元から2方向に伸びる薄い影と濃い影が重なっていた。複影、誰が言い出したわけでもなく、いつの間にかそう呼ばれるようになっていた現象だった。


 火はまだ燃え続けている。誰かが交代で薪をくべ続けてくれていたのだろう。

 周囲を見渡すと、まだ眠っている者、すでに起き出して身支度をしている者、それぞれの朝が始まっていた。

 完全に休めたとは言えない者がほとんどだったが、それでもほんの少しずつ慣れ始めているようだった。

 長田さんの小言が早々に車内から聞こえてくる。それすらも、もはや日常の一部になりつつあった。

「おはよう」

 声をかけてきたのは麗華だった。見張りの順番で隣り合わせになったのか、すでに起きて髪を軽く整えている。クラス委員長らしく、近くにいた何人かにも次々と同じように声をかけて回っていた。

「お、おはよう」

 桃矢はぎこちなく返事をした。こんな状況でも、彼女と言葉を交わすだけで心臓が落ち着かなくなる自分が少し情けなかった。もっとも、麗華にとっては、桃矢と他の誰かに特別な違いがあるわけではない。それは桃矢自身、よく分かっていることだった。

「みんな、おはよう。今日も頑張ろうね」

 麗華はそう言うと、すぐに別の場所にいる友人たちの方へと歩いていった。それだけのやり取りだったが、桃矢にとっては十分すぎる出来事だった。


 朝食として昨日の果実が少しずつ配られた。量は少ないが、何もないよりはましだった。

 1人当たりは、ほんの一口分にも満たない量だったが、それでも口にできるものがあるという事実が不思議と心を落ち着かせてくれた。

 武田が改めて今日の方針を発表する。

「今日は本格的に食料を探しに行こう。水場の方角に向かって、もう少し範囲を広げる。あと、川の魚取りにも挑戦したい」

「俺も行きます」

 山田さんが真っ先に名乗り出た。山崎、石原、田崎も続く。

「お前らも来るのか」

 山崎が少し意外そうに石原たちを見た。

「いや、まあ……武田さんが行くし、俺らも」

 石原がそう答えると、田崎も頷いた。武田への忠誠心からなのか、それとも何もしないでいることへの後ろめたさからなのか、2人の表情からは判然としなかった。

 大沢さんは少し離れた場所で、輪に加わるべきか迷うように立ち尽くしていた。誰かに強く誘われるわけでもなく、かといって自分から名乗り出る勇気もない。

結局、大沢さんはその日、誰にも気づかれないままバスの周辺に残ることになった。


「危険な動物がいるかもしれない。何かあったら無理せず、すぐ戻ってくること」

 武田の言葉に、山田さんは頷いた。

「俺たちも行く」

 桃矢の隣で陽翔が手を挙げた。桃矢も釣られるように手を挙げる。誰かの役に立てるなら、それに越したことはない。

「みんな、無理しないでね。何かあったらすぐ戻ってきて」

 麗華が探索組全体に向けてそう声をかけた。特別、桃矢に向けられた言葉ではない。それでも桃矢は、その言葉が自分に向けられたかのように、内心、嬉しかった。我ながら現金なものだと、自分でも呆れる。

「分かった。じゃあ、何組かに分かれて探そう」

 武田が手早く組分けを決めていく。複数のグループに分かれ、それぞれ別の方角を担当することになった。

 武田と山崎は北側の森。石原と田崎は他の生徒たちと共に水場周辺。桃矢と陽翔は、山田さんと一緒に東側の密林を担当することになった。

 大沢さんは、結局どのグループにも加わらず、バスのそばで荷物の整理を手伝う役に回った。

誰かに指示されたわけでもなく、ただ自然とそうなった。


 密林の中は、外から見た以上に深く、静かだった。

 地面はふかふかとした腐葉土に覆われていた。一歩進むごとに、見たこともない虫や小さな生き物が、葉の陰からさっと姿を消していく。頭上の木々は高く、空を覆うほどの密度で枝を広げていた。

 木々の多くは、幹がらせん状にねじれたていた。中には、まるで呼吸でもしているかのように、樹皮の表面がゆっくりと膨らんだり萎んだりしているように見える木もある。

 陽翔がその幹に触れようとすると、山田さんが慌てて止めた。

「やめとけ、何の木か分からないだろ」

「あ、はい」

 陽翔は素直に手を引っ込めたが、「地球とは生態系が大きく違うなぁ」と興味深そうに、周囲を見渡しながら呟いた。足元にあるキノコは傘の部分が透き通っていて、内側に小さな光の粒のようなものが見える。

「気をつけろよ。何が出るか分からないんだから」

 山田さんが前を歩きながら、2人に声をかけた。手には途中で拾った木の棒を持っていた。武器と呼べるほどのものではないが、何もないよりはましだった。


 3人は慎重に足を進めながら、周囲を観察していった。鳥のような生き物が頭上を横切り、遠くで何か大きな動物の鳴き声らしきものが響く。そのたびに3人は立ち止まり、しばらく様子を窺ってから、また歩みを進めるということを繰り返した。

 しばらく歩くと、水場で見た川とは別の小さな池のような場所に出た。

周囲には何本かの木にたわわに果実が実っていた。

「お、たくさん実がなってる」

 陽翔が嬉しそうに駆け寄ろうとした、その時だった。

 茂みの奥から低い唸り声が響いた。

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