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いつもの市バスは、異世界行き  作者: チーム エボンヌ
第三章 対立編

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第63話 1つだけ違う印

 2度目の遺跡探索から戻って、しばらく経った。

 最近はここに来たときの様な蒸し暑さも無くなってきている。この星にも地球のような四季があるかどうかは分からないが、だいぶ過ごしやすくなった。桃矢たちは、今の季節を地球の感覚で「秋の終わりくらいかな」と話したりした。

 日々の暮らしは、穏やかだった。

 葵は相変わらず、毎日のようにマフラーを編んでいた。葵がルウに初めてマフラーを贈って以来、何体ものポヨンヌが順番を待っていた。葵はポヨンヌたちのために、今日もせっせと手を動かし続けていた。

 その日、桃矢が村へ行くと、朽名がハナとユウと遊んでいた。何がそんなに楽しいのか、ずっと笑い声を上げていた。陽翔がその様子を村の入口で静かに眺めていた。

 穏やかだった。でも、桃矢の心は不安でいっぱいだった。

 この穏やかさがいつまで続くのか。すぐ近くで、武田たちが自分たちの知らない何かに向かっている。

 そんな不安を紛らわすため、最近では桃矢も解読に参加するようになっていた。

「解読の部屋」と呼ぶようになったバスの中は、相変わらず布だらけだった。

 二度目の遺跡で写してきた、膨大な文様。それを中嶋さんと川原さんが中心になって、毎日のように読み解こうとしていた。陽翔も山田さんも手が空けば、布とにらめっこをしていた。

 だが、全く進展はなかった。

 知っている文字は、山、川、アカ、シロ、ポヨンヌ、エボンヌ。それと推測の域を出ない「光」。読める文字は未だに一文字も増えていなかった。

「だめだ」と山田さんが布の前で天を仰いだ。「いくらやっても、読める文字の見当が付かない。1つの文字が見つかるのに、何日かかると思ってんだ」

「地球の学者でも、何十年もかけたんだ」と中嶋さんが苦笑した。「私たちが数か月でここまで来ただけでも、上出来な方だと思うがな」

「数か月かけて、7文字ですけどね」と陽翔が言った。

 誰からともなく、ため息が漏れた。

 その時だった。

 川原さんが手を止めて言った。

「ねえ。私たちこれまで文字を読む事だけに集中しすぎてると思うの」

「というと?」と桃矢は聞いた。

「地図があったでしょ、大陸の地図。あれ、2度目に行ったときにも、もう一度丁寧に写してきたでしょう。なのに、ここしばらく、誰もちゃんと見てない。文字の解読に夢中になってて」

 川原さんは壁に貼られた、今回新たに写し直してきた地図の前に立った。

 大陸が俯瞰で描かれている。草原。森。川。山。そして、12個の四角い印。

「文字はなかなか読めない。でも、この地図は文字じゃない。絵なの。絵なら、文字が読めなくても、分かることがあるんじゃないかしら」

 中嶋さんが立ち上がって地図の前に来た。

「川原さんの言う通りだ」と中嶋さんは言った。「私としたことが、文字にばかり気を取られていた。地図は地図として、読めることがある」

 桃矢も地図の前に立った。

 12の印。それらは、おそらく遺跡を表している。桃矢たちが2度行ったのは、そのうちの1つだ。

 そして、その12個の印の中に、一つだけ違う印があった。

 他の11の印は、すべて同じ形だった。シンプルな四角い印。

 だが、1つの印だけには四角の中に小さな記号が書き込まれていた。他のどの印にも無い、特別な記号。

「これだ」と桃矢は言った。「この1つだけ違う印。前から気になってた」

「ええ」と川原さんが頷いた。「私もずっと、引っかかってたの。なぜ、これだけ違うのか」

「考えられることは限られてる」と中嶋さんが腕を組んで言った。「地図を作った者が、わざわざ、これ1つだけを、特別に描いた。ということは、この印が指す遺跡は、他とは違う特別な意味を持つ遺跡なんだ」

「特別、というと?」と山田さんが聞いた。

「そこまでは、分からん。ただ、他と区別して描かれている以上、他とは違う何かがある。それだけは、間違いない」

 陽翔が横から口を開いた。

「ゲームだと、マップに1つだけ違うマークがついてる場所って、大抵、特別な場所なんだ。ボスがいるとか、最重要アイテムがあるとか、ストーリーの鍵になる仕掛けがあるとか」

「ゲームと一緒にするな、と言いたいところだが」と中嶋さんが苦笑した。「今回ばかりは、その勘が当たってるかもしれん。古い記録を作る者が、一つだけ特別な印をつけたなら、そこには特別な何かを残した、と考えるのが自然だ」

「ただし」と中嶋さんは付け加えた。「特別、というのがいいものだとは、限らんぞ」

「どういう意味ですか」と桃矢は聞いた。

「地球の遺跡の場合、特別な印は宝の在りかを示すこともあれば、逆に『近づくな』という警告のこともある。ここには危ういものがあるから触れてはならない、そういう意味でわざわざ目立つ印をつけることもあるんだ。だから、この印がいいものを指しているのか、よくないものを指しているのか。それは、行ってみるまで分からん」

 桃矢はその特別な印をじっと見つめた。

 他とは違う、特別な遺跡。そこに何があるのか。宝なのか、それとも、近づいてはならない何かなのか。

「そこに行くのにどれくらいかかるのかな」と朽名がいつのまにか後ろから覗き込んで聞いた。

「この間行った遺跡までの距離と比較すれば分かるかもしれない」と川原さんが言った。

 桃矢たちが2度行った遺跡は、岩山の裏手にあった。地図の上で、その岩山がどれかは見当がついた。川の流れと山の連なりを照らし合わせれば、ポヨンヌたちの村から行った遺跡のおおよその位置が分かる。

「俺たちが行ったのは、この印だ」と桃矢は、地図の一点を指した。

「で、特別な印は……」と山田さんが指さした。「ここか」

 その印は、地図の右上の方にあり、この地図に描かれている山や川、遺跡の位置が実際の位置とほぼ同じなら、桃矢達が行った遺跡までの距離の何倍もありそうだった。

 大陸を大きな川が横切っている。その向こうの遙か先。桃矢たちが一度も足を踏み入れたことのない、未知の方角だった。

「遠いな」と中嶋さんが、低く言った。「私たちが行った遺跡より、はるかに遠い。それに、途中には大きな川がある。渡れるかどうかも、分からん」

 遠い。それに間には大きな川もある。簡単に行ける場所ではなかった。

「いつか、行ってみたいな」と桃矢は、地図の方を見て言った。「この1つだけ違う印の遺跡に」

「本気か」と山田さんが言った。「川の向こうだぞ。近くの遺跡ですら片道7日。この遺跡までは何日かかるかわからんくらい遠い」

「すぐに、とは言わない」と桃矢は言った。「でも、武田たちが何を掴んだのか、この星に何が眠っているのか。それを知ろうと思ったら、いつかは、あそこに行くしかない気がするんだ」

 桃矢は特別な印をもう一度、見た。

 1つだけ違う印。それが何を意味するのか。そこに何があるのか。

 分からないことばかりだった。でも、すべての答えが、あそこにあるのかもしれない。

 あの特別な遺跡が、桃矢には謎を解く鍵のように思えた。

「焦る必要はないよ」と麗華が桃矢の隣で言った。「文字も、遺跡も、武田くんのことも。私たちにできることを、1つずつやれば良い」

 桃矢は頷いた

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