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いつもの市バスは、異世界行き  作者: チーム エボンヌ
第三章 対立編

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第55話 不安

 桃矢たちは、相変わらず穏やかな日々を過ごしていた。

 写してきた地図の解読は、少しずつ進んでいた。中嶋さんと川原さんが中心になって、点在する印の位置関係を整理し、地形との対応を考えていた。

 桃矢は毎日、ポヨンヌの村に通っていた。

 ルウと過ごす時間は、桃矢にとって、心が落ち着くひとときだった。ルウは穏やかで、急がず、一緒にいるだけで、桃矢の心は安らいだ。

 高橋は相変わらずマフラーを編んでいた。多くのポヨンヌが順番を待っていた。

 朽名はハナやユウと笑い合っていた。陽翔は、そんな朽名を少し離れたところから見ていた。

 平和だった。

 しかし、ある時、その平和な日々に影が差した。

 数日後、ネイが村に来た。

 以前、高橋に布の端切れを贈ってくれたエボンヌだった。桃矢たちが村に行くと、ネイが先に来ていて、ルウと何かを話していた。

 桃矢たちに気づくと、ネイはゆっくりと近づいてきた。そのハラシロは、いつもと違って光らなかった。

「ネイ、久しぶりです」と桃矢が言った。「何かあったんですか。元気がないみたいだけど」

 ネイは、しばらく桃矢を見ていた。それから、静かに言った。

『私の仲間が死んだ』

「仲間……」

『マナという。私と同じエボンヌの行商人だった。長い付き合いだった』

 ネイが悲しんでいるのが、伝わってきた。

「どうして、亡くなったんですか」

 ネイは少し間を置いてから話し始めた。

『マナは空から来た者たちと、商売をしていた。あなたたちとは違う、別の群れと』

 桃矢の胸が、ざわついた。別の群れ。武田たちのことだ。

『その者たちとマナは、昔の建物に行ったようだ。私たちエボンヌは、ポヨンヌよりも昔の建物に耐性があり、近くまではいける。でも中には入らない。昔、1人のエボンヌが中に入ったが、出て来なかった。だからエボンヌは古い建物を禁忌の場所としてそれ以来、近づかない。でも、マナは行った』

「そこで、何があったんですか」

『分からない。ただ、マナは2度と戻ってこなかった。後になって、古い建物の近くに、石を積んで葬られているのが見つかった。空から来た者たちが、そうしたのだと思う』

 桃矢は、言葉を失った。

 武田も遺跡に行った。しかもマナの案内で。そして、マナはその遺跡で死んだ。

 桃矢たちが行ったのとは、別の遺跡だろう。でも、同じ遺跡群。

 武田たちは、あの遺跡の中で何を見たのか。何があったのか。何を得たのか。

 そして、桃矢の頭に嫌な考えがよぎった。マナの死に、武田たちが関わっているのではないか。禁忌の場所に無理やり連れ込んだのではないか。あるいは、用が済んだから、口を封じられたのではないか。

 桃矢は、その考えをすぐに打ち消そうとした。証拠は何もない。マナは別の理由で命を落としたのかもしれない。武田たちは、ただ亡骸を弔っただけかもしれない。決めつけてはいけない。

 でも、麗華の言葉が頭の中で響いていた。武田は、目的のためなら非情になれる。

 桃矢の中で、点と点がつながり始めていた。つなげたくない点と点が。

 麗華がネイに聞いた。

「彼らは、遺跡で何を見つけたか、分かりますか」

『分からない』とネイは答えた。『遺跡で何があったかは、マナ本人にしか分からない。ただ、遺跡へ発つ前、マナは私に1つだけ言っていた』

「何を」

『「あの群れには、何か嫌な色を感じる。肉を食べているからかもしれない」と』

 桃矢と麗華は、顔を見合わせた。

 嫌な色。マナは遺跡に向かう前から、武田たちの変化を感じ取っていたのかもしれなかった。そして、その予感を遺したまま、戻らぬ人となった。

「ネイ」と桃矢は言った。「マナさんのこと、残念です。あなたの大切な仲間だったんですね」

 ネイのハラシロが、ふわりと光った。弱い光だったが、確かに温かかった。

『そう。マナは、いいやつだった』

 しばらく、誰も何も言わなかった。

 ルウのハラシロが、静かに光っていた。ポヨンヌは争いを知らない。死を悼むことはあっても、誰かを恨むことはない。ただ、失われたものを、静かに悲しむ。その悲しみが、その場に静かに満ちていた。

 帰り道、桃矢は陽翔と並んで歩いた。

「なあ、モモ」と陽翔が言った。「武田たちは、遺跡で何を見つけたのかなぁ。それは、俺たちと同じものなのかな」

「分からんな。でも、何か嫌な予感がする」

「俺も」

 陽翔は少し黙ってから言った。

「ゲームでこういう展開、よくあるよな。古代遺跡の力を得たプレイヤーが、だんだん変わっていく。最初はいいやつだったのに、力に飲まれて、敵になる」

「ゲームの話だぞ」

「分かってる。でも、フィクションって、案外、本質を突いてることがある」と陽翔は言った。「力を得た人間が、どう変わるか。それは、ゲームでも現実でも、そんなに変わらないんじゃないか」

 桃矢は、その言葉を否定できなかった。

 武田はもともと強い人間だった。決断力があって、迷わない。そして、目的のためなら非情にもなれる。その武田が遺跡で力を得たとしたら。

 もし、その力が武田の非情さを後押しするものだったら。

 桃矢の胸の奥が、また、ざわついた。

 その夜、桃矢は一人で写してきた地図を眺めていた。

 大陸に点在する遺跡の印。1つだけ違う、特別な印。

 桃矢たちは遺跡に行った。そして、地図を得た。

 武田たちもどこかの遺跡に行った。彼らは何を得たのだろう。

 桃矢は麗華の言葉を思い出した。武田は目的のためなら非情になれる。

 もし、武田の目的と桃矢たちの目的がぶつかったら。

 その時、何が起きるのか。

 桃矢には、まだ分からなかった。実は何の心配も要らないのかもしれない。ただの杞憂だと思いたかった。

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