第47話 大地の地図
野営地に戻ってから、全員で写した記録を並べてみた。
部屋の壁画を、16枚の布に分けて写していた。それを地面に並べると、所々大きさの違いはあるものの、大地の絵がつながった。
しばらく全員で眺めていた。
最初に声を上げたのは、川原さんだった。
「……これ、地図ですよね」
全員が顔を上げた。
「地図?」と陽翔が繰り返した。
「トルコで遺跡を見た時、ガイドさんに古代の地図を見せてもらったことがあって。古代の地図は、今の地図と見た目が全然違うんです。でも、これを見ていたら急にそれを思い出した」
川原さんは布を指さした。「もしこれが大陸全体を描いた地図だとしたら、この四角い印は……」
「遺跡の場所だ」と中嶋さんが言った。川原さんの言葉を受けて、すぐに言った。「さっき何かに似ていると思ったのは、これだ。古代の地図だ。インカの遺跡でも、建物の配置を俯瞰で描いた石板が見つかっている」
全員が布に描かれた大地の絵を、改めて見た。
四角い印の数を数えた。山田が「12個ある」と言った。
「12か所に、遺跡があるということか」と陽翔が言った。
「可能性として、だけど」と川原さんは言った。「確かめないと分からない」
桃矢は四角い印を一つひとつ見た。ほとんどは同じ大きさで同じ形をしていた。ただ一つだけ、他より少し大きく、中に小さな記号が書き込まれているものがあった。
「この印は他と違う」と桃矢は言った。
「特別な場所を示しているのかもしれない」
「そうかもしれないな」と中嶋さんは頷きながら続けた。「今はまだ分からないことが多すぎる。ここに描かれているものが、この星の地図とは限らない。戻ってからルウ達にも見てもらおう」
アカが完全に沈み、シロだけが低く傾いていた。
布の上の大地の絵が、白っぽい光に照らされていた。
その日の探索はそこで終わりにした。
シロも低く傾いた頃、桃矢は野営地から少し離れたところで1人、さっき見た地図の事を考えていた。
大陸を俯瞰したかのような地図。遺跡かもしれない印が12カ所。そしてその中で1つだけ違う、少し大きな印。
この遺跡に来て初めて分かった事実。でも、これだけでこの遺跡と自分たちにつながりがあるとは思えなかった。今日見たのは遺跡のほんの一部だ。この遺跡にはまだ多くの謎が残されている、そんな漠然とした予感があった。
答えは、まだ見えない。でも、少しずつ。別れ際、ルウも急がないでと言ってくれた。焦らなくてもいい。少しずつ答えに近づければ。
同じ頃、遠く離れた場所では、新たな動きが起きていた。
武田たちの拠点に、再びマナが現れたのは、アカが空の高い位置にあるダブりの時間帯だった。
最初に気づいたのは石原だった。「武田さん、あれ」と小声で言って、草原の端を指さした。
武田が目を向けると、マナが立っていた。以前も接触してきたあの存在だ。あの時の道具や食料の話は、確かに役に立った。いつまた来るかとずっと待っていた。
「ようやく来たか」
武田は振り返って小林を呼んだ。
「前の時みたいに通訳をしろ」
小林が武田の横に来ると、マナが近づいてきた。
小林に言葉が届いた。
『商売の話をしに来た』
小林が武田に伝えると、武田の表情がわずかに動いた。前回も商売の話で来た。道具や布を持ってきた。それは確かに役に立った。
「聞こう」
『あなたたちと取引を続けたい。しかし問題がある』
「何だ」
『あなたたちは、獣を狩っているようだが、私たちは獣の肉は食べない。今後の取引で、あなたたちが獣の肉以外に渡せるものが何もないと、商売が成り立たない』
武田は黙っていた。小林が言葉を続ける。
『でも、あなたたちの為にも商売は続けたい。だからあなた達が交換できる物を手に入れる方法を教えに来た』
「なぜそこまでして商売をしたい?」
『あなたたちを助けるため』
それを聞いても武田の表情は変わらなかった。
「方法とは」
マナは少し間を置いてから続けた。
『この大陸には、私たちのような存在が二種類暮らしている。私のような姿の者と、服を着ない別の種族だ。そのどちらが造ったものではない、はるか昔に作られた石造りの構造物が、この大陸のあちこちに残っている』
「遺跡のようなものか」
『遺跡の意味は分からないが、その中には、古い時代の道具や光る石が見つかる。私たちエボンヌにとって、それは非常に価値がある。もしあなたたちがその中に入り、古い道具を持ち帰ってくれるなら、私は布・食料・道具など、あなたたちが欲しい物と交換する』
武田は腕を組んだまま目を閉じた。しばらく沈黙があった。
「そればどこにある」
『1つ、知っている。ここからそんなに遠くない。案内できる』
「危険はあるか」
『中に入ったことはない。私たちにとってその場所は、近づいてはならない場所とされている。だからあなたたちに頼みたい』
武田は小林を通さず、独り言のように言った。「近づいてはならない場所、か」
山崎が武田の隣に来た。小声で言った。「この話、少し変だぞ」
「変な話でも、メリットがあるなら利用すればいい」と武田は言った。「向こうも同じことを考えているはずだ」
武田はマナを見た。
「道のりはどれくらいだ」
『三日ほどかかる』
「分かった。行こう」
山崎にはマナの話がどうにも引っかかっていた。自分たちは入れない場所に昔の道具や光る石があるという。ではそれを確かめたのは誰だ。
武田が山崎を呼んだ。
「お前はどう思う」
山崎は少し間を置いてから言った。「マナの話には矛盾がある。信用出来ない気がする」
「そうか。でも、行かなければ交易は出来ない。もう決めた」
それから、マナの方を向いた。
「案内はしてくれるのか」
『案内はする』
武田は頷いた。石原が「行くんですか」と言ったが、武田は答えなかった。
武田はすでに動き始めていた。山崎はもう何も言わなかった。




