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いつもの市バスは、異世界行き  作者: チーム エボンヌ
第二章 交流編

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第46話 遺跡の中へ

 アカが岩山の向こうから顔を出した時、すでに全員起きていた。

 マジ暗の間、よく眠れなかった者が多かった。朽名が「なんか、興奮して眠れなかった」と言った。山田さんが「俺も」と頷いた。川原さんだけが「私はよく眠れました」と言って、中嶋さんが「さすがだな」と笑った。

 中嶋さん自身はどうだったのか、桃矢には分からなかった。ただ、中嶋さんは誰より早く起き、一人で遺跡の外観を眺めていた。その背中からは、昨日と同じ、あの嬉しそうな顔が想像できた。

 いよいよ今日は全員で遺跡の中に入る。

 麗華が「行きましょう」と言った。その声にはいつもと少し違う硬さがあった。さすがの麗華も緊張しているな、と桃矢は思った。自分も同じだった。

「あのゲームでもダンジョンに入る前はこんな気分だったな」と陽翔が言った。

「現実の方が、ずっとリアルだけどな」

「当たり前だ」

 朽名が小さく笑った。その笑いが、少し場の空気をほぐした。

 7人は遺跡の入口の前に立った。

 肩の上のボルンの様子がいつもと違う。光が弱い。消えているわけではないが、普段の明滅と違い、ゆっくりと、まるで息を潜めているような光り方だった。

「大丈夫?」と桃矢は心の中で聞いた。

 ボルンは一度だけ、小さく光った。

 怖いわけではないのかもしれない。ただ、何かを感じている。桃矢にはそう思えた。

「ボルンを灯りにして進もう」と桃矢は全員に言った。「手を壁につけながら、ゆっくりと」

 全員が頷いた。7人が一列になって、入口をくぐった。

 前方は、真っ暗で何も見えなかった。

 外の光が完全に遮られ、本当の暗闇だった。ボルンたちの弱い光だけが7つ、ぼんやりと浮かんでいた。暗さに目が慣れてくると、少しずつ輪郭が見えてきた。

 天井は思ったより高く、桃矢の背丈の3倍近くはありそうだった。左右の壁に挟まれた一本道。床は平らで、石畳だった。

「思ったより広いかもな」と山田さんが小声で言った。

「声を抑えなくていいと思いますよ」と川原さんが言った。「こういう石造りの建物は音がよく響くから、小声でも遠くまで届く」

「分かりました」と山田は言ったが、それでも声のトーンを上げなかった。

 中嶋さんは壁に手を当てて、指先で石の表面をゆっくりとなぞっていた。

「壁も同じ積み方だ。内側も外側も同じ技術で作られている。手を抜いていない」

「天井の石はどうやって積んだんでしょう」と朽名が上を見ながら言った。

「アーチ構造を使っているかもしれないな」と中嶋さんが答えた。「古代ローマも同じ方法で大きな建物を作った。石を扇状に積み上げることで、重さを分散させる。そうすると柱がなくても天井を支えられる」

 桃矢は天井を見上げた。確かに、表面が弧を描いていた。

 通路を進むと、左右に小さな部屋が現れ始めた。

 最初の部屋は空だった。床に何かが積まれていた痕跡のようなものがあったが、今は何もない。

 次の部屋は違った。

 壁一面に、文様が刻まれていた。外の石柱よりも細かく、密度が高い。中嶋さんがボルンの光を壁に近づけ、じっと見た。

「外のものと同じ文字体系だ。でも、ここの方が量が多い。外は入口の案内のようなものだとしたら、ここは本文にあたるものかもしれない」

「読めないのは同じですが」と川原さんが言った。

「読めなくても、量が分かれば何かの手がかりになる。記録しておこう」

 二人は黙々と布切れに文様を写し始めた。陽翔が「同じ記号の頻度を数えておくと後で役に立つかもしれない」と言って、中嶋さんの記録を手伝い始めた。

 記録し終え、通路を先に進むと、広間のような空間に出た。天井がさらに高くなり、ボルンの光だけでは全体が見渡せないほど広かった。広間から更に4つの通路が続いていた。迷路のように分岐している。

「あのゲームの第三ダンジョンと同じような感じだな。確かあのダンジョンでは、中央の広間からいくつもの通路が伸びていて、正解の通路にだけ特定の文様が刻まれてい。ここも同じかも」と陽翔が言った。

「確かにゲームではそうだったかもしれないけど」と桃矢は言いながら4つの通路の入口を順番に見た。それぞれの入口の上部に、何かが刻まれている。同じ文様ではない。それぞれ違う文様が刻まれていた。

「陽翔が言っていることが当たっているかもしれない。記号が通路の目印になっているかもしれない。今日だけで全部は探索できないから、どの通路に入るか、文様を見て決めた方がいいと思います」

「中嶋さんはどう思いますか」と麗華が聞いた。

「それでいいと思う。問題は文様が読めない中、どれを選ぶかだが」

 その時、4つの入口を順番に見ていた川原さんが一番右端の入口の前で声を上げた。

「この通路にしましょう」

「え、なんで?」と陽翔とが聞くと「他の3つより、この入口の文様の刻み方だけ丁寧なの。力を入れて刻んでます。重要な場所への入口ほど、丁寧に作るはず、という仮説だけど」

「仮説でも、今はそれで十分だ」と中嶋さんが言った。

 1番右の通路を進むと、すぐに部屋に出た。

 その部屋は、これまでとは違った。

 壁に絵が描かれていた。

 文様ではない。明確に、何かの情景を描いた絵だった。顔料が使われているのか、暗闇の中でも色が使われているのがわかる。橙、白、青色……。

 桃矢はボルンが乗っている肩を壁に近づけた。

 上の方に、2つの円が描かれていた。大きさが違う。橙色と青白い色に塗られている。アカとシロだ、と桃矢は思った。

 その下には大地が描かれていた。草原と森と川と山。起伏があり、地形を俯瞰したように描かれている。その上に、小さな生き物たちがいた。ずんぐりとした体型の生き物たちだ。

「ポヨンヌだ」と朽名が言った。

「ポヨンヌが描かれている」と麗華も言った。

 ポヨンヌたちの群れの中に、いくつか違う姿が混じっていた。ポヨンヌより背が高く、細長い。明らかに異なる形をしている。

「これはエボンヌか」と山田さんが言った。

 絵は壁の端から端まで続いていた。川原さんが横に移動しながら、全体を眺めた。

「大きい絵ですね。部屋全体が1枚の絵になっている」

 ところどころ、小さな四角い記号のようなものが描かれていた。色々なところに散らばっているが、それらは全て同じ形をしていた。

「この四角い記号は何だろう」と陽翔が言った。

「建物じゃないですか」と朽名が首を傾げた。「ここ、みたいな」

 誰かがその言葉を受けて、周りを見渡した。確かに、四角い印の形は、この遺跡の石造りの構造に似ていなくもない。でも、それ以上のことは今の段階では分からなかった。

 中嶋さんがじっと大地の絵を眺めてから言った。「この絵、何かに似ている気がするんだが、今は思い出せない」

「全員で手分けして写しておきましょう」と川原さんが言った。「後でみんなの絵を合体させるので、なるべく、原寸大で写し取るようお願いします」

 7人はそれぞれ壁の前に立ち、持っている布切れにペンを使って絵を写し始めた。朽名が「こういう細かい作業、苦手だけど頑張ります」と言いながら、絵の横に布を置いて少しずつ描き始めた。時々、布を絵の下に持って行って大きさを確認する。結構、手間と時間がかかる作業だった。みんなが黙々と作業する中、川原さんはざっと全体のラフスケッチを描いて、みんなが写している箇所を確認しながら、几帳面に区画割りをして、上下の位置関係が分かるよう番号を振った。そして、みんなが描いた布にその番号を追加していった。

 しばらく、壁画を写す音だけが部屋に響いた。

 全員がある程度、壁画の記録を終えた頃、桃矢はボルンの光がだいぶ弱くなっているのに気がついた。

「ボルンの光が弱くなってますし、今日はここまでにしてもう戻りましょう」

 桃矢の言葉に全員うなずいた。

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