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いつもの市バスは、異世界行き  作者: チーム エボンヌ
第二章 交流編

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第43話 エボンヌ

 その日もルウが橋のたもとで待っていたが、いつもと少し様子が違った。

 ミウとハナの姿がない。

 代わりに、ルウの隣にはこれまで見たことのない存在が2体いた。

 何者だ、と桃矢は思った。

 ルウたちのどっしりとしたずんぐり感がなく、縦にすっと伸びている。

 頭の形はルウたちと同じ四角みのある形で、耳も同じように三角にすっと立っている。

 でも、印象が違った。

 この2体は服を着ていた。


 1体は、くすんだ緑色の上着に、茶色の幅広のズボン。もう1体は、深い藍色の上着とズボンを着ていた。

 生地はポヨンヌの村で葵が使ったような植物繊維とは質が違う、もっとしっかりした布だった。

 麗華が桃矢の隣で小声で言った。「ルウたちとは別の種族? この星にはルウたちとは別の支配的種族がいたの?」

 麗華の声には不安と恐れが感じられた。

 みんな言葉を失っていた。ルウたちとは明らかに異なる、整えられた服、道具を持つ者の手、文明の匂いがする存在。この星にそんな種族がいたという事実に、しばらく全員、橋のたもとで固まっていた。

 ルウは2体のそばに寄り添うように立っていた。ハラシロがふわりと光っている。

 敵意はない。それは見れば分かった。


 麗華の合図で橋を渡ると、ルウが2体を桃矢たちの前に連れてきた。

『紹介したい』とルウが言った。

『エボンヌ。私たちの、隣人』

 2体は桃矢たちをじっと見た。

 ポヨンヌのような、会った瞬間からハラシロが輝くような無邪気な反応ではなかった。

 慎重に、でも敵対的でもなく、ただ静かに見ている。

『カイ』と、緑色の上着の1体が言った。ボルンを通して声が届いた。低く、落ち着いた声だった。

『ネイ』と、藍色の服を着た1体が続けた。こちらはやや高い声だった。

「モモ」と桃矢は答えた。

 麗華が「レイ」と続け、「ハルト」、「ユイ」、「イツキ」、「マユ」、「ヨウコ」と順番に自己紹介をした。

 カイは、一人ひとりの顔を順番に見た。何かを確認するような目だった。ネイも隣で同じように見ていた。


 カイが口を開いた。

『あなたたちのことは、聞いていた。空から光るものが降りてきた。そこには見たことのない姿をしているものがいると聞いて、確かめに来た』

 桃矢はその言葉を聞きながら少し考えた。

「空から光るものが降りてきた」

 バスが転移する瞬間、何らかの光があったのだろうか。

「確かめて、どうするつもりですか」と麗華が聞いた。

『害があるなら、近づかない。そうでないなら、知りたい』

「害は、ないつもりです」

『ルウもそう言っていた』

 カイはルウを見た。ルウのハラシロがふわりと光った。


「エボンヌというのは、あなたたちの種族の名前ですか。ポヨンヌは、ルウたちのことですよね」と麗華が聞いた。

『私たちはエボンヌ。ルウたちがポヨンヌ。この星に暮らす、2つの種族』

 桃矢はルウを見た。ルウのハラシロが、温かく光っていた。

『この星の名前も、ポヨンヌ』とルウが静かに言った。

『私たちと同じ名前の星』

 麗華が小声で「ポヨンヌ……」と繰り返した。

「ルウたちの種族の名前も、この星の名前も、ポヨンヌ」

「エボンヌとポヨンヌは、どういう関係ですか」と桃矢が聞いた。

「あなたたちは道具を持って、服を作っている。ポヨンヌはあなたたちに従っているんですか」

 カイは少し間を置いた。

『従う、という意味が分からない』

「どちらが上で、どちらが下か、ということです」

『上も下もない』とカイは答えた。

『できることが違う。それだけだ。エボンヌにできてポヨンヌにできないことがある。ポヨンヌにできてエボンヌにできないこともある。どちらが優れているという話ではない』

 麗華が「できることが違う、か」と小声で言った。


 ネイが桃矢たちの服に目を見ていた。

『布の作り方が、私たちとは違う』

「地球という場所で作られた服です。この星のものではありません」

 ネイは少し考えてから言った。

『傷んでいるな』

 桃矢は自分の袖を見た。確かに傷んでいた。

 1着しかない服を転移した日から着続けている。洗って干してを繰り返してきたので、繊維はほつれ、色も褪せていた。

 山田さんのスーツは特にひどかった。ズボンの裾は自分で切り、ジャケットは作業用として別に使っている。

「替えがないので」と桃矢は言った。

 ネイはしばらく黙っていた。

 それから、カイに何かを言った。その声はボルンを通しては届かなかった。エボンヌ同士の言葉は、桃矢たちには聞こえないようだった。

 カイがネイの言葉を受けて桃矢を見た。

『私たちは布を持っている。よければ、分けることができる』

 桃矢は少し驚いた。

「なぜ、そこまでしてくれるんですか」

『あなたたちは、この星で穏やかに暮らしている。ルウがそう言っていた。穏やかに暮らす者には、手を貸す。それがエボンヌの習わし』

 山田さんがカイに近づいた。

「ちょっと聞いていいですか」

 カイは山田さんを見た。

「みなさんは、自分たちで布を作るんですか」

『作る』

「どうやって作るのですか?」

 カイは少し頭を傾けた。その動作はポヨンヌと似ていた。

『水の力を使う。流れる水に合わせて糸を重ねていく。それで布ができる』

「すごいな。この星独特の作り方だ」

『昔から、そうしてきた』

「素材は何を使うんですか」

『風布。風の力を編み込んだ布。軽くて丈夫で、複合光をよく通す』

 山田さんは目を輝かせた。

「複合光を通す布って、どういうことですか」

『体に当たる光が均一になる。日差しが強い時間も、体への負担が減る』

「それはすごい」


 ネイはその会話を黙って聞いていた。

 山田さんの反応を見て、彼の小さなハラシロがわずかに光った。

 桃矢はネイに少し近づいた。

「あなたたちエボンヌとポヨンヌは似ているところもあれば、大きく違っているところもあります。不思議ですね」

『昔、この星に何者かが来て、私たちの祖先を変えた、と言い伝えられている。でも、それが誰なのかは分からない』

 何者かが来て、変えた。それが誰なのか、この星の住人たちは知らない。

 その「何者か」は、もしかしたら、はるか昔にこの星を訪れた高度な文明を持つ異星人だったかもしれないなと、桃矢は以前読んだSF小説を思い出していた。

 カイが、桃矢に向き直った。

『1つ、聞いてもいいか』

「どうぞ」

『あなたたちは、どこから来たのか』

「別の星からです」

『どうやってこの星に来たのか』

「いきなり光に包まれて、気がついたらこの星にいました。どうやってここに来たのか自分たちも知りません」

『無理矢理連れてこられた、ということか』

「はい。だから、帰り方も知りません」

 カイは少し間を置いてから言った。

『帰れないことを、どう思っているか』

「困っています」

 会話を続けていたカイのハラシロが、静かに光った。

『正直に答えてくれた』

「聞いてくれたので」


 カイは続けた。

『私たちには伝承がある。空から光り輝く者が降りてくる日が来る。その者たちは、この星に変化をもたらす』

「変化をもたらすとは?」

『詳しくは分からない。ただ、それが今かもしれないと、私は思っている』

「変化をもたらす」それが良い変化なのか悪い変化なのか、カイも分かっていないようだった。

 でも、この話をここでしたのは、カイなりの意図があってのことだと思った。


 帰り際、ネイが高橋を呼び止めた。

 高橋が振り向くと、ネイは布の束を差し出した。光が当たるとキラキラ光る青い布だった。

『マフラーを編んだと、ルウに聞いた』

 高橋は少し驚いた顔をした。

『村中で話題になっていた。空から来た者がポヨンヌに身につけるものを贈ったと』

 ネイは高橋の手に布を置いた。

『これで、何か作ればいい』

「ありがとうございます。大切に使います」

 ネイのハラシロが、ふわりと光った。

 エボンヌのハラシロは、ポヨンヌのものより少し小さい。

 でもハラシロが示すものは同じだった。


 拠点への帰り道、陽翔は桃矢と話しながら歩いていた。

「カイって、ポヨンヌより慎重な感じがしたな」

「確かに」

「でも悪い感じはしなかった。なんか、ちゃんと考えてから話す人って感じだった」

 桃矢は頷いた。

 カイの話し方には、言葉を選んでいる丁寧さがあった。

 ポヨンヌのように感情がそのまま出てくる感じではなく、頭の中で1度吟味してから言葉にしている。それは慎重さでもあり、誠実さでもある気がした。

「伝承の話が気になったな」

「俺たちのことだろ、どう考えても」

「そうだよな。でも、変化をもたらすっていうのが気になるな」

「良い変化じゃないの?」

「そうだといいけど」

 伝承のことを聞いて、桃矢は、自分たちがここに来たことは、もしかしたら偶然ではないかもしれないと、そんな思いが頭をよぎった。

 今の自分たちにはこの世界を変える力は無い。それでも、これから何かが始まるのかもしれない。

 そんな漠然とした予感が桃矢の頭の片隅に生まれていた。

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