第23話 人工物
今泉さんを失ってから、数日が経った。
12人の心の傷は深く、重苦しい雰囲気のまま過ごす日々が続いていた。
麗華は、いつまでも今泉さんのことを引きずっては残った12人が潰れてしまう、何とかしなければと考えていた。
すでにバスの近くの果実は、ほとんど採り尽くしてしまっている。
川魚だけでは、12人分の食事としては、到底足りない。
食糧問題は喫緊の課題だった。
そこで麗華は山田さんに相談を持ちかけた。
「もう、今泉さんのような事は絶対に起こしては成らない。でも、食べ物が足りないのは事実。どうしたら良いと思う?」
「やはり、もう少し範囲を広げて探すしかないかな」
山田さんが答えた。
「でも、密林の中は危ないよね」
「ええ。だから、密林には入らず、川沿いをもっと上流まで辿ってみようと思います。僕と陽翔と桃矢の3人で」
麗華はしばらく考え込んでから、頷いた。
「分かったわ。でも、無理だけはしないで。何かあったら、すぐ戻ってきてね」
「はい」
3人は川沿いを、これまでよりもずっと上流まで進んでいった。
川の流れは次第に緩やかになり、周囲の植生も、見慣れたものとは少しずつ違ってきていた。
見慣れた果実をつけた木も、今までより密集している。
「お、ここ、結構採れそうだな」
山田さんが嬉しそうに声を上げた。
3人は手分けして果実を集め始めた。
しばらく採取を続けていた時、桃矢は川の対岸に丸い石が等間隔で並んでいるのに気がついた。
「……あれ、何だ?」
桃矢が指差すと、陽翔と山田さんも手を止めて、そちらを見た。
自然にできたとは思えない、整然とした並び方だった。
まるで、誰かが意図的に並べたかのように、一定の間隔で川岸に並んでいる。
「人工物……だよな」
陽翔の声には緊張の色が滲んでいた。
桃矢たちは、慎重に川岸へと近づいていった。
「間違いない。これ、誰かが作ったものだ」
桃矢がヒソヒソ声でささやいた。
これまで、誰もこの星に自分たち以外の知的な存在がいるとは、考えてもみなかった。
けれど、目の前にある光景は、明らかに、その可能性を示していた。
「住んでるのか? 誰かが?」
山田さんが辺りを警戒するように見渡しながら、小声で言った。
その時、木々の奥の方で、何かが、かすかに動いた。
桃矢たちは、思わず息を呑んだ。
「今、何か、動かなかったか」
陽翔が震える声で囁いた。
「見間違いじゃ、ないと思う」
桃矢の心臓が、激しく鼓動を打っていた。
これまで遭遇してきた、危険な野生動物とは、明らかに違う気配だった。
「……戻ろう」
山田さんは、小さな声でそっと言った。
「これは、俺たちだけで判断できることじゃない。みんなに伝えてから、改めて考えよう」
桃矢と陽翔も、無言で頷いた。
3人は慎重に後退りしながら、その場を離れていった。
けれど、桃矢は、その場を去る間際、もう一度だけ、振り返らずにはいられなかった。
構造物の奥で、確かに、何かの「気配」があった。
その存在は敵意を持つ者なのか、それとも。
答えの出ないまま、桃矢たちは、足早に拠点への道を急いだ。
拠点に戻った3人の報告に、皆は騒然となった。
「人工物って、本当?」
麗華が信じられないという顔で、桃矢に詰め寄った。
「はい。間違いなく、誰かが作ったものでした。それに、何か……生き物のような気配も」
「この星には、私たち以外の住民がいるってことか」
中嶋さんが低い声で呟いた。
みんなの中に、これまでとは違う種類の緊張感が一気に満ちていった。
「危険、なんでしょうか」
一橋さんが、不安げに尋ねる。
「分かりません。でも」
桃矢は改めて、自分が見た光景を思い返していた。
「敵意があるかどうかはまだ分かりません。でも、こんな近くに住んでいたのに、今まで一度もこちらに接触してこなかったのが気になります」
桃矢の言葉に、麗華はしばらく考え込んだ。
「……今夜はいつも以上に、見張りを厳重にしましょう。これからどうするかは、また明日、改めて考えましょう。」
麗華の決定に誰もが緊張した面持ちで頷いた。
その夜、桃矢はなかなか寝付けずにいた。
頭の中には、あの整然と並んだ石と植物で編まれた構造物の光景が、何度も蘇っていた。
もしかしたら、この星には、自分たちが思っていたよりもずっと、多くの「何か」が存在しているのかもしれない。
頭上には、いつものように、地球では見たことのない星々が瞬いていた。
その時、拠点の少し外れた茂みのあたりで、川岸で見たのと同じような淡い光の玉が飛んでいるのに気づいた。
桃矢はその光を見つめながら、これまで感じたことのない、不思議な感覚に包まれていた。
何かが、近いうちに起こるかもしれない。
根拠はない。ただ漠然とした予感と共に桃矢は眠りについた。




