戦況
戦況図を睨みつける眼差しが、わずかに揺れた。
司令塔の最上階。
CA機関隊大隊長――シゲアキは、戦場を見下ろすその視線の先に、理解を超えた光景を焼き付けていた。
騒乱ではない。暴徒でもない。
そこに広がるのは、内側から生まれた戦火だった。
そして、その渦の中心にいたのが――シグル・ナガツキ。
「……ありない……何故だ……」
これまで数え切れない修羅場を潜ってきた戦士が、初めて声を失っていた。
指揮系統を揺るがすこの反乱が、信頼していた部下の手によって導かれているという現実。
「シグル殿が……まさか」
その言葉を口に出した瞬間、喉が焼け着くようだった。
傍らの副隊長ヒデノリが、普段よりトーンを落とした声で応じる。
「HLC64-1030……いえ、シグルが敵勢力の一部と接触していたようです。あの金髪の男、手配書には記録がありませんが、反鉄道同盟の者で間違いないかと」
シゲアキはモニターに映る男の姿を捉えた。
騒乱の中で、まるで独り芝居の主役のように立ち、何かを楽しんでいるかのような気配すら漂わせる異物。
「外からの侵略ではない。これは、内部から滲み出た膿だ……」
言葉が冷たく重く落ちる。
だが、それ以上の分析は必要なかった。指揮官の使命はただ一つ――決断だ。
「CA機関隊、全戦力前進――制圧ではなく、突撃だ」
短く、鋭い命令が飛ぶ。ヒデノリがわずかに目を見開くが、逆らえなかった。
部隊が動く。鉄の脚が大地を踏み鳴らす。
その音は、かつての「正義」が崩れ落ちていく音にも聞こえた。
戦場を見つめるシゲアキの横顔が、ほんの一瞬だけ、苦悩に歪む。
「……こんな形でシグル殿、貴殿と対峙する事になるとは。誠に残念だ」
その一言に込められたのは、怒りでも正義でもない。
かつて憧れた背中が、二度と戻らぬことへの、祈りにも似た未練だった。




