迷い
一方、ノワールはまるで舞台に立つ俳優のように状況を楽しんでいた。
「なんだよ、シグルぅ! お前、やっぱ最高じゃん♡ 俺のこと大好きだよなァ!? ヒュー! やだ……俺には心に決めた人がもういるのに……♡」
ふざけた調子で茶化すノワール。
しかし、その言葉にシグルは答えなかった。
返答は言葉ではなく、大鎌による意思表示だった。
振り下ろされた刃はノワールには向けられず、地面を貫き、硬いコンクリートを粉砕する。
その一撃には威嚇の意図すらない。
ただ、心の奥底に隠された感情を示す一歩――武力ではなく、決意で踏み込むための一撃だった。
シグルの瞳は静かに、しかし確かな意志を宿してノワールを見据えていた。
その強い視線を受け止めたノワールもまた、冗談めかした表情を緩め、真剣な目で向き直る。
言葉ではなく、動作だけで交わされた無言の対話。
だが、それだけで十分だった。
互いの思いは、確かに伝わっていたのだ。
「俺は、自分自身に向き合うことから逃げてきた。だからこそ、今度こそお前と一対一で向き合いたい。自分の気持ちに、終止符を打つために」
静かながらも揺るぎない口調で語るシグル。
その声には迷いはなく、これまで避けてきた過去と向き合う覚悟が滲んでいた。
「セイジ」
低く静かな声が響いた瞬間、セイジは反射的に身を強張らせた。
だが、自分の名前が呼ばれたと気づくと、すぐさま立ち上がり、シグルの元へ駆け寄る。
「セイジ、アカリを追え」
短く端的な指示。それでも、その言葉に込められた意図をセイジは瞬時に悟った。
「……シグル」
名前を呼び返したセイジの瞳には迷いがあった。
しかし、シグルの視線は違った。そこには一片の狂いもなく、確固たる覚悟が宿っている。
セイジは何も言わなかった。
ただ、シグルの意志を受け止め、静かに頷くと、背を向けて走り出す。
その足取りには迷いはなく、その背中には彼自身の覚悟が乗っていた。
遠ざかるセイジの姿が視界から消えるまで見届けたシグルは、ゆっくりとノワールへ向きなおす。
その眼差しには、全てを賭ける者だけが持つ凄まじい決意が浮かんでいた。




