存在
――シグルは地面を強く蹴り上げた。
右腕を振り抜き、砂を巻き上げながら勢いよく駆ける。
へたり込むリュウジを一瞥しながら、その横をすり抜け、大鎌を高く掲げた。
しかし、『彼』もまた反応は早かった。身を捩らせ、鋭い動きで斬撃をかわしてみせる。
シグルは追撃に迷いなく右脚を突き出す。
だが、それすらも読まれていたかのように軽くいなされる。
だが、シグルの瞳には焦りの色はなかった。
彼は体の流れを止めず、回転の勢いを利用して次の一撃――回し蹴りを繰り出した。
鋼鉄のごとき力が乗ったその蹴りは、確実に『彼』を捉え、空中へと弾き飛ばした。
『彼』の身体はまるで風に煽られた木端のように宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「ノワール、お前とも腹を割って話をすべきだな」
その声にはどこか躊躇いが宿っていた。
だが、言葉とは裏腹に、シグルの動きは止まらない。
攻撃の一撃一撃に容赦はなく、ノワールを追い詰める執念すら感じさせる。
鋭い刃が軌跡を描き、空気を裂く音が響く中、その瞳には微塵の迷いもなかった。
「言ってる事とやってる事が逆じゃな~い? どゆこと、こゆこと? お? お? 怒ってる? 泣いてもいいんだお? こゆ時こそ、感情爆発、どっ⭐︎ばーん!! と爆発させなよー! マグマみたいにドロドロの感情ってやつ、たまんないぜ……♡ さあ、思う存分殺ろうゼェ!! 俺にだけぶつけてくれちゃっていいんだぜ……お前のキ・モ・チ……♡」
「黙れ」
シグルの鋭い蹴りが再び命中し、ノワールの体が吹き飛んだ。
彼はノワールが立ち上がる前に距離を積めるため、再び駆け出したが、突然足を絡め取られて転倒してしまう。
「もう、いい! もういいんだ!! 止めてくれ頼むから!!」
リュウジはシグルの脚に縋りつき、必死の思いで懇願していた。
その姿は、命乞いにも似た悲痛なものだった。
恐怖に飲み込まれた彼の瞳には、目の前のシグルがどのような存在であるかを見極める余裕すらない。
だが、シグルはその哀れな叫びに一切動じることなくリュウジを見下ろすと、その肩に手を置き、低く静かな声で言葉を紡いだ。
「リュウジ。俺はコイツと、もう一度正面から向き合わなきゃならない。……今ここで逃したら、後悔しても遅いんだ」
その言葉に、リュウジは一瞬驚いたように目を見開いた。しかしすぐに、小さく頷いた。
それはシグルの決意を信じるという意思表示であり、同時に彼の覚悟を受け入れた瞬間でもあった。
その刹那――止まっていた二人の歯車が、再びゆっくりと回り始めたのかもしれない。




