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つきかげ

 かつて、「つきかげ」という名の豪華寝台特急が、ハルカモトの線路を駆け抜けていた。

 夜の帳を切り裂くように、深い山岳地帯を越え、東のトコウから西の古都キヨへと向かうその列車は、ハルカモトの黄金時代を象徴する存在だ。

 

 豪華な食堂車では、シェフが腕を振るってフルコースを振る舞い、乗客たちは美味しい料理と共に至福のひとときを楽しんだ。

 曲線ガラスで囲まれた展望室からは、湖面に映る月光や、流れる星々の輝きが幻想的に広がり、まるで夢の世界へと誘うかのよう。

 高級ホテルさながらの個室は、柔らかな間接照明が煌めき、どこか懐かしい温もりを感じさせる。

「つきかげ」に乗れば、誰もが一瞬で非日常へと引き込まれたのだ。

 

 しかし、時代は変わり、効率や経済が重視されるようになると、多くの高級寝台列車がその姿を消していった。

「つきかげ」もまた、時の流れに逆らう事も叶わず、歴史の中へと静かに幕を下ろすこととなる。

 だが、その結末は、ただの時代の流れに過ぎるわけではなかった。

 

 「つきかげ」が走り始めた頃、人々はその列車を「夜の旅路を照らす希望の光」と讃えた。

 だが、無情にも時は流れ、技術とともに時代の変革がおき、夜の列車から自家用車の時代へと移り変わっていった。

 

 それは、あまりにも残酷な変化だ。

「つきかげ」がその役目を終えた後も、多くの鉄道ファンや、当時の記憶を大切にする人々が、かつての姿を求めて全国を旅した。

 

 だが、どこにもその姿はない。「つきかげ」は、もうどこにもいないのだから。

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