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またの名を

 新聞各社の見出しはこうだ。

 

【反軌道同盟の犯行か? 近郊線で発生した暴走列車事件】

 

 今日も、鉄道界は話題に事欠かない。

 反鉄道同盟のリーダー・リュウジは、コーヒーを片手に新聞に目を滑らせる。

 

「……ノワール、ね」

 

 とある書き込み掲示板のスレッドは、先日起こった暴走列車の話題で持ちきりだ。

 

 何でも、不気味な黒い男が自ら『ノワール』と名乗って各地を回り、存在を喧伝して回っているらしい。

 そして、あの暴走した列車には反鉄道同盟が関与しているとの噂だ。

 

 反鉄道同盟としては寝耳に水だが、世間では既にそんな話が広まっていた。

 

 リュウジは深くため息を吐き、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、部屋の奥にある大きな鏡の前に立った。

 

 そこには、一人の中年男が映し出される。

 

 車社会が栄華を誇っていた時代、両親は小さな整備工場を経営していた。

 

 だが、技術の進展と鉄道社会の発展により、整備工場はあっという間に煽りを受け倒産。

 その災いは息子であるリュウジの人生にも深い影を落とした。

 

 そんな現実を直視したくなくて、鉄道に対して全ての怨みを抱き、今ではそれが彼を動かす動力源となっている。

 

「……親不孝な息子でごめんな。だけど、もう後戻りは出来ないんだよ」

 

 その言葉は誓いか、それとも呪いか。

 リュウジは、謎の存在であるノワールに目をつけた。

 

「アイツは使える、そして俺も……」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるリュウジの顔には、狂気的な光が宿っていた。

 

「こんちゃー! リュウジさん居るっすか!?」

 

 しかし、突如として玄関戸が勢いよく開く音がした。

 ズカズカと入ってくる足音が響き、リュウジは顔をしかめながら振り返る。

 

「この間はどもっす! お陰で身体の調子が良いっす」

 

 チャラついた男だが、妙に人懐っこい。

 リュウジはため息を吐いた。

 

「またお前か。今日は何事だ」

 

「今日の見出し、見たっすか!? ヤベーんすよ!」

 

 金髪男は新聞を手に、目を輝かせながら興奮した様子で話す。

 こんなチャラ男でも新聞を読むんだな、とリュウジは思いつつ、適当に「ああ」とだけ答えた。

 

 ――この男はケンタという。

 年はまだ二十歳かそこらで、リュウジからすると甥っ子に当たる。

 

「SNSも暴走列車の話題で持ちきりっすよー! これで、反鉄も知名度爆上がりっすね!!」

 

 ケンタは自信満々に言うが、その言葉の裏にある狂気をリュウジは見逃さなかった。

 

『こいつは反鉄道同盟を勘違いしていないか?』と思いつつも、若者文化に詳しいケンタを逆手に取ってSNSでの広報を頼み、ネットワークを駆使させていた。

 

 リュウジは新聞を畳みながら、ちらりと横目で男を見た。

 

「な、なんすか? リュウジさん」

 

「……で、お前はノワールをどう思う?」

 

 リュウジは椅子に腰を下ろし、指でコーヒーカップの縁をなぞりながら問いかけた。

 

「ノワール……っすか? 動画見たっすけど、あの黒いヤツ、マジでヤバいっすよねー! 反鉄の仕業とか言われてますけど、そんなセンスあるヤツ、ウチにいないっしょ!」

 

「センス、ね」

 

 リュウジは意味深に笑うと、立ち上がってケンタに近づく。

 

「お前、何か隠してるだろう」

 

「えっ、な、ななんでっすか!?」

 

 リュウジはその様子を見て、次第に確信を深める。

 ケンタの裏の顔について、彼はすでに勘づいていた。

 

「まあいい。ノワールは俺が調べる。お前はSNSで暴走列車の噂をもっと広めろ。そして、ノワールが反鉄道同盟と関わりがあるように仕向けるんだ」

 

「了解っす! お任せください!」

 

 ケンタは軽い口調で答え、部屋を出て行く。

 その背中を見送りながら、リュウジは呟いた。

 

「……ノワール、何者なんだ。上手く操れれば、こちらに有益になり得るが……」


 しかし――ケンタがノワールを意識している様子。

 そして、CA機関隊が一連の事件について、公表しないこと。

 

「まさかCA機関隊のスパイなのでは……そしてノワールの正体について、何か知っているとしたら……!」

 

 それがただの若者の無邪気な好奇心ではないと、リュウジは確信していた。

 

 2

 

 一方、その頃。別の都市ではまたしても事件が発生していた。

 

 黒い影――ノワールという存在が現れて以来、鉄道社会は着実に混乱の一途を辿っている。

 

「……何だ、この寒気は……?」

 

 とある機関者が運転を開始し、間もなく駅に辿り着くという頃合い。

 

 ――背筋を撫でるような寒気が体を駆け巡り、彼は思わず身震いする。

 

 そして、定刻通りに駅に停車した機関者は、安堵のため息を吐く。

 しかし次の瞬間、彼の視界に映ったのは、ホームに佇む不気味な黒い男の姿だった。

 

 最近、全国的に目撃される謎の男。

 音もなく現れ、機関者や人間に不幸をもたらす――それはまさに『死神』の形相そのものだった。

 

「――ヒィッ!?」

 

 機関者は一瞬だが、その死神と目を合わせ、思わず小さな悲鳴を漏らす。

 

「みーたーなー?」

 

 いつの間にか握られていた巨大な鎌が、鈍く光を讃える。

 その刃は、まるで彼の命そのものを刈り取るかの如く、不気味な影を落とす。

 

 誰かが言った――その影は、まるで死を運ぶ黒鳥の翼のようだった、と……。

段々と鉄道とかどっかいってるきがする

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