芽吹-配給輸送
「君、この仕事どれくらいやってるの? 今、何歳なのー?」
新車配給の任務は久しぶりだった。
廃車回送とは勝手が違う。
動かなくなった亡骸を運ぶのではない。今回は、“これから走る側”を運んでいる。
当然、口も利く。
……しかも、よりにもよって。
こういう、ピーチクとうるさいタイプだ。
シグルは小さく息を吐き、視線を遠くへ向けた。
見慣れた山々が、ゆっくりと後方へ流れていく。
遠くに見える淡い黄緑の稜線は、季節の訪れを告げるように鮮やかだった。
だが、その色彩の中を走る自分自身を思うと、シグルには妙に現実感が薄かった。
「……俺はもう、こういう景色に馴染む存在じゃないのかもな」
そんな考えが脳裏を過った、その時だった。
「ねーねー!」
後方から、場違いなほど明るい声が飛んでくる。
「おじさんって呼んでもいい?」
その瞬間。
シグルは無言で舌打ちした。
「……誰が、おじさんだ。このクソ垂れ」
吐き捨てるような声。
相手は、つい最近製造されたばかりの新造機関者だ。
言ってしまえば赤ん坊同然。
だが、機関者である以上、外見は人間の成人と大差ない。
しかし、相手はそんなシグルの態度にもまるで怯まなかった。
むしろ面白がるように笑っている。
その笑顔は妙に無邪気で、まるで本当に人間の子供のようだった。
「おじさん、昔は寝台特急とか牽いてたんでしょー? すごーい!」
場違いなほど明るい声。
「花形機関者だったんだね!」
シグルの眉が、ぴくりと動く。
――なんで知ってる。
危うく口に出しかけて、寸前で飲み込んだ。
だが、相手はまるで気にした様子もなく、相変わらずにこにこと笑っていた。
その無防備な笑顔を見ていると、妙に毒気を抜かれる。
「エンジニアのお爺ちゃんから聞いたの」
新造機関者は口元へ指を当て、悪戯っぽく笑った。
「内緒だよ? 言っちゃダメって言われてたもん」
……だったら本人の前で喋るな。
そこまで込み上げた言葉を、シグルは黙って飲み込む。
代わりに、深く溜息を吐いた。
どうにも調子が狂う。
「……はぁ」
疲れを滲ませた息が漏れる。
「いつまで、お前みたいなのに振り回されりゃいいんだ……」
ぼやきながら、シグルは空を仰いだ。
薄い雲が、春の空をゆっくり流れていく。




