↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
只野仁志と鏖の魔人ベルゼルガ  作者: 安藤ナツ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/11

007

 生徒の受けは悪いが、講師たる恋歌が肯定してくれている。よりプロフェッショナルな意見が正しいに決まっているので、同級生のノリが悪いのは彼等がまだ初心者で、魔物との闘争と日常を切り離すことができていないだけなのだろう――と仁志は自分を納得させる。

 鮮烈なデビューとは言えないが、堅実で悪くない滑り出しだと言えるだろう。

 一仕事終わったのだから、後は帰り道に備えて体力を回復しておきたい。当たり前だが、帰りも山道を歩く必要がある。虫一匹殺すよりも、そっちの方がよっぽど重労働だ。

 その辺で座って時間を潰しても良いだろうか? 恋歌に確認を取ろうとした時――


「いやあぁあああ!」


 ――絹を裂くような悲鳴が上がった。

 その絶叫の発生源は委員長系女子の菜々緒。彼女は仁志の背後を振るえる指で示し、顔を真っ青にしている。

 しかし良く見れば顔色が悪いのは彼女だけではなく、他の面子も同様だ。一様に、仁志の後を見て、まるで悍ましい姿の恐怖の大魔王が降臨したかのように、目を逸らすこともできない脅威に慄いているようであった。

 まあ、巨大な虫の死体が動いたとか、その程度のことだろう。昆虫の身体には神経節と言う簡易な脳のようなものが部位ごとに存在し、頭を失っても神経節によって命令を出すことが可能だ。昆虫観察をしたことがない素人は驚くかもしれないが、頭のない虫が動くなんて仁志にとっては常識の範疇である。

 まったく、仕方ない奴等だ。元昆虫博士志望として、蘊蓄を披露してやろうじゃあないか、と仁志はゆっくりと振りむいて背後を確認して――絶句した。

 ばりばり。むしゃむしゃ。もぐもぐ。

 そんなオノマトペが聞こえてきそうな気分だ。

 いつの間にか顕現した鏖魔人:ベルゼルガが、大きなおにぎりを食べるように、転がり落ちた頭部を拾い上げて食っていた。いや、貪っていると表現した方が良いかもしれない。まるで洗練されていない野蛮人の所作だけでも気分が悪くなるが、前述の神経節のおかけで元気に動いている虫の顎や短い触角は生きながら食われていると言う悲劇的な死を演出している。

 昆虫は好きだが、昆虫食には興味のない仁志も目の前の光景には流石にドン引きだ。


「え、えぇ。食う必要ある?」


 勿論、ある。仁志の持つポテンシャル【鏖魔人の饗宴:C】は、倒した魔物を守護霊【鏖魔人:ベルゼルガ】が捕食することで様々なメリットを得るポテンシャルだ。皆殺しをするための腹ごしらえと言った所だろう。

 親切なことに、このポテンシャルは仁志の意志とは無関係に発動するらしい。戦闘中に死体を食って補給を行ってくれる素晴らしい力だが、絵面が最悪過ぎた。ショッキングな光景に場の空気は凍り付いたように張り詰め、時が動き出したのはベルゼルガが胴体部分に手を出した頃になってだった。


「あ、馬鹿!」


 無造作に脚を引き千切って食べようとするベルゼルガに気が付き、慌てて仁志が駆け出す。そうしてベルゼルガの隣に立つと、その頭を叩いて手の中から脚を取り上げる。


「売り物を食うな! 胴体だけにしろよ?」


 アルツハイマー型認知症の特効薬になるかもしれない、人類の希望の物質が詰まった脚を食われたら未来の損失だし、報奨金も下がって皆の顰蹙を買ってしまうだろう。


「奄美講師。買取は足だけなんですよね?」

「え、ええ」


 念のために確認を行うと、仁志は蟹の脚を食べる時のように太い脚を?いだ。そうした後で、ベルゼルガが誤って食べないように少し外れた所にまとめて置いておく。

 これで良し。余計な仕事を増やしやがって。

 自身の守護霊が浴びるように虫を食う姿に顔を顰めた後、仁志は同級生に向き直って軌道修正を図る。流石に今回は自分の不徳の致すところだと考えているようだった。


「騒がしちゃってごめんね。あ、昆虫の体節には神経節ってのがあって――――」

「貴方! 頭おかしいんじゃあないの!?」


 自身の過失を埋めようと、ピクピクと痙攣する足の一本を片手に昆虫雑学を披露しようとした仁志であったが、それは菜々緒のつんざく声によって遮られてしまった。


「もう嫌! こんな奴と一緒になんて耐えられない!」


 ヒステリックに叫び声を上げる菜々緒に、仁志は表情を引きつらせる。こんなことを言うと男女差別だと炎上してしまうが『女ってこう言う所あるよな』と吐き出したい気分だった。

 ちょっと見た目が『悪い』ことと、道徳的な『悪』は別だ。見た目が不快でも、それは裁かれる悪ではないのだが女子にはそれがわからない。泣く泣く自室の引き出しに封印した、昆虫の写真が表紙の学習ノートの事件を思い出す。

 あの学級会以降、仁志は女子に強い偏見を持っていた。


「今回は失格で良いわ! もう本当に最悪!」


 涙混じりに叫び、菜々緒は仁志に背を向けると駆け出した。門に戻って帰る気なのだろう。

 いきなり切れて叫んで勝手に帰り出す菜々緒の行動は、仁志を除く生徒達にも少々面食らったようで咄嗟にその動きに対応できない。恐らく、皆「急にヒスって恐っ~」とでも思っているに違いない。

 真面目そうな委員長系女子の緊急サボタージュは、しかし失敗した。


「いや、そっちじゃあないけど」


 錯乱しているため、自分がどっちからやって来たかもわからなかったのだろう。菜々緒はまるで見当はずれの方向へと走り去っており、仁志を呆れさせる。

 が、それも僅かな時間のことで、菜々緒が雑木林に踏み込もうとした瞬間、彼女の足元が爆発炎上し、その身体が蹴飛ばした空き缶のように宙を舞ったのだ。


「あー。講師の後ろ以外は歩くなってそう言うこと?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。