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一五〇人強の一年生全ての覚醒が終わると、座学での守護霊と異界についての研修が始まった。
…………始まる前に仁志と美玲は教師に「一番後ろの席に座ってくれる?」と震える声で言われ、他の会議室から持って来たらしいパイプ椅子への移動を強制されたが、まあ些細なことだろう。
プロジェクターで映される研修の内容は、基本的に既知の退屈な情報ばかりで欠伸が出る内容だった。特に『異界で死亡した場合、異界に入場した時点の状態で戻される』ことは強調され、自分が戻されるベッドの場所を事前に確認するように耳にタコができる程に注意喚起された。記憶の連続性が途切れるため、ベッドの上で混乱して暴れ出す人も少なくないようだ。
つまり、異界初体験から死亡するのは珍しくないのだろう。初心者訓練用の危険度の低い人工異界ではあるが、全員が初心者であるが故に事故も多発する。統計的には最も死亡率が高いのが最初の異界体験であると講師がグラフを何度も指していたのが印象的だ。
きっと、誰もが自分は生き残る側だと思っているに違いない。
そんな二時間程度の研修が終わると、待ちに待った異界での実地研修が始まった。
教師に名前を呼ばれた六名の生徒が会議室の出入口へと向かい、退魔庁が用意した腕利きの探索者と合流。七人一組となって会議室を出て二階へと向かう。
異界に入る際の人数に制限や規則はない。ただ七人は平均的な人数であると座学で説明がされていた。これよりも人が少ないと手が足りなくなることが多いし、これよりも多いと何もしない人間が出て来るようだ。人員にもよるが、五名以上一〇人以下が望ましいと、退魔庁は発表している。
仁志は中盤当たりで名前を呼ばれ、美玲の直後であったことから渋い表情を浮かべる。その様子を見て美玲は楽しそうに笑い、対照的な表情の二人は肩を揃えて講師役の探索者の元へと足を進める。
講師役の探索者は五〇代に見える恰幅の良い女性であった。もっとも十五歳の高校一年生の仁志には一定以上の年齢の人間は全員おじさんやおばさんにしか見えないので、彼女の年齢予想は随分と怪しい。ただ見た目の貫禄は凄まじく、彼女に逆らおうと言う気は微塵も起きない。
そんな肝っ玉母さんと言った風貌の講師の元に六名の生徒が集まり、簡単な自己紹介を行いながら移動を開始する。同級生の名前なので、仁志はきっちりと頭にそれを刻み込んでおく。
歴戦の探索者。講師。奄美歌恋。守護霊は【雲曜蹄:黒麒麟】。
次に前科一犯。鬼塚美玲。守護霊は【刎頚公:ラヴィラヴィ】。
吐く息がミントの香り。爽やか好青年の二階島連。守護霊は【太陽槍:ドゥ・ルー】。
快活そうな坊主頭。星野兼茂。守護霊は【木漏日:簪花梨】。
美人だが神経質そうな委員長系女子。百目鬼菜々緒。守護霊は【灼熱鱗:千里号】。
サムライポニーテール。剣道部期待の新人。間島憂。守護霊は【幻鋼打:アオスズ】。
そして自称ダークヒーロー(予定)。只野仁志。守護霊は【鏖魔人:ベルゼルガ】。
守護霊の詳細は不明。何故なら同級生四人が仁志と美玲を恐れ、二人から少し離れた後ろを歩いているからだ。どうやら背後に二人がいると怖気が止まらないらしい。そう言った事情でチームは早速分断されており、歌恋もそれを指摘も批判もしない。
それどころか、
「危険に近付かないのも探索者の仕事だからね」
わけのわからないことを言って四人組の行動を肯定する有様だ。研修が終わった後、アンケートに名指しでマイナス評価入れてやると仁志は決意した。
そもそも、歌恋ではなく生徒である二人が先導するのが間違っているだろう。まあ、通路には看板が沢山出ているし、他の研修チームも歩いているので迷うことはないのだが、それでもやはり釈然としない。
このような不遇扱いが、所謂『ざまぁ展開』の布石であることを祈るばかりだ。
妙に距離感の近い美玲と、異様に疎外感を感じる五人と共に歩くこと五分ほど。幾つかの階段を上り、辿り着いたるは転移フロア。高校の体育館を二つ合わせたよりも広いくらいのスペースに、合計で一二の石造りの鳥居が几帳面に並んでいる。『門』だとか『ゲート』だとか言われる魔術的な装置で、その下をくぐることで魔物の生息する異界へと転移することができる。
転移先は門ごとに決まっており、毎回必ず同じ場所に降り立つことになる――のだが、厳密には同じだが違う場所、或いは違うが同じ場所に辿り着くと言うのが正しい。何を言っているかわからないが、そもそも異界だとか魔物だとか守護霊とか言っている時点で意味不明の理解不能なのだから、気にする必要はないと座学の講師が言っていた。
仁志達が向かうのは、『三の二』と名付けられた門で、森林地帯へと繋がる門である。この門の先で指定の魔物を倒して帰って来るのが今回の研修の目標として設定されている。失敗した場合はまた後日、貴重な放課後や休日を使って挑戦しなくてはならないので一発でクリアしたいものだ。
「緊張してる? わかるよ。私達の伝説の始まりだもんね」
「わかんねーよ。私達の伝説って何?」
勝手に同類扱いしてくる美玲の態度に辟易しながらも、仁志は確かな胸の高鳴りを覚える。何者でもない平凡な自分が、魔物と戦う戦士として立ち上がる記念すべき日なのだ。勉強も運動もぱっとしない自分だが、ベルゼルガに目覚めた自分は魔物との戦闘でこそ輝けるはず。
そんな期待を胸に、仁志は門の前でクラスメイトの到着を待つのだった。
「きっと君は気に入るよ、異界のこと、魔物のこと、自分の才能のこと」




