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召喚の間での覚醒が終わると、仁志は案内のままに足を進めた。ベルゼルガは仁志の魂へと戻りその姿は消失したが、一度目覚めた力の本質まではそうはいかない。全てを傷付ける暴虐の魔人の放つ殺意を留めることは不可能。漏れ出す剣呑な気配は、別の覚醒の間から出て来た同級生や、通路を歩く職員達は見るのも恐ろしいと視線すら仁志を避ける有様だ。
仕方ない。周囲の人間にとってベルゼルガは恐ろしい怪物なのだ。その外見や力が故に偏見を持たれ差別される。悲しいが、人間として当然の反応だ。
しかしこの悲劇性も主人公っぽい要素だと仁志は自分に言い聞かせる。まずはマイナスから始まりゼロを目指す。魂の性質だけではない、自身の意志と努力が人生を切り開くのだ。
そんな風に自分の物語を組み立てながら歩いていると、『南葉月高校新一年生様』と看板の出ている会議室が見えて来る。魔物の脅威に対抗すべく、高校一年生になると守護霊を得る制度が確立されたのは仁志の両親が産まれるよりも昔のことだ。国民の自身を守る権利の行使の為だとか、公民の授業で習った覚えがある。
パイプ椅子が並ぶ会議室に入ると同時、既に覚醒した生徒によって半分程の席が埋まっていた。その同級生の視線が一斉に仁志へと集まり、次の瞬間には全員が目を逸らす。他の生徒の気持ちを表現するなら『日本刀を舐め回す不審者が入って来た!』と言った所だろうか? そんなはずもないのに、血の匂いの錯覚を覚える者もいたかもしれない。
流石に傷付くぜ。
言葉を飲み込み、今は助走期間なのだと言い聞かせる。この周囲の無理解は主人公への試練なのだ。主人公――いや、ダークヒーローとして華々しい評価を得るまでの潜伏期間。そう甘んじて受け入れるフェイズなのだろう。
理想のストーリラインを脳内ででっち上げて精神を立て直した仁志が適当なパイプ椅子に座ろうとすると、「ひっ!」と小さな悲鳴が上がった。殺人鬼から逃げるように周辺の生徒が去っていくのは、空いてラッキーだと思うしかない。
キッチリ六秒、固く目を閉じて心を落ち着かせると、目を閉じたまま着席。安っぽいパイプ椅子の座り心地の悪さに溜息を吐くと同時、右隣の席に人が座る気配があった。
「仁志君。やはり君はこっち側だったね」
可愛らしい少女の声が耳朶を打ち、うんざりした気分で仁志は瞼を持ち上げる。
「鬼塚先輩、それはどう言う意味?」
不躾な台詞に疑問符を返しながら、仁志は嫌々視線を右へと切る。
そこには、わざわざ隣の席にやって来た鬼塚美玲の人形のように整った――作り物染みた小さな顔があった。平均的な小学六年生程度の体格をした美玲のことをこの学年で知らないものはいないだろう。
なんと、高校一年生にして十九歳と言う逸材なのだ。小学生と見紛う小柄な体躯、しかし年上と言うギャップ。そして二度目の高校一年生をやっている理由が、四年前に痴漢してきた不届きもに対して守護霊を用いた過剰な反撃を行った結果、一度退学を喰らっていると言うロックンロール性。被害者が加害者でもあり命に別状はなかったことから、三年の魔物討伐の奉仕活動を命じられ、任期を終えて改めて高校一年生に挑戦中だと言う。
そりゃ噂の的にもなるだろう。
「私と一緒。魔物を良心の呵責なしに殺せる側の人間ってことだよ、仁志君は」
そして、そんな美玲がわざわざ隣の席にやって来て伝えたいことは『私達は同類項。一緒にまとめておこうね』みたいな仲間意識のようだ。
冗談じゃなあない。自分の尻を触った相手の手の皮を剥ぐような残忍な人間と一緒だと思われるなんて、名誉棄損だろう。真っ当な正義と倫理から、尽忠報国の為に魔物を狩ることはあっても、殺しを楽しむような性質を仁志は持ち合わせていない。
「先輩とは違うさ。俺は喧嘩をしたこともない、平和主義のハトのような男だから」
「かもね。でも、君の魂はどうかな? その殺気、どんな守護霊が眠っていたの?」
「例え魂がそうだったとしても、俺は俺ですよ。人を決めるの魂じゃあなくて、意思でしょう?」
「うんうん。じゃあ、その意思が何を見せてくれるのか楽しみにしておくよ」
ニヤニヤといやらしく美玲が笑う。まるで過去を見て来たかのように、未来を予想する態度が仁志には益々面白くない。不機嫌そうに腕を組むと再び目を閉じて対話の拒絶を示す。
「仁志の奴、うすうす思っていたけどやべー奴だったな。あいつが来てから震えが止まらねえ」
「あの鬼塚先輩は平気そうだし、類は友を呼ぶって奴?」
「時間まで外にいようぜ。あー。実地研修、あの二人とは絶対別にして欲しい!」




