001
只野仁志は儀式魔術によって開花した自身の才能の形を見て歓喜に震えた。
自身の才能の具現として魔方陣の中に現れた守護霊の姿を一言で表せば、餓狼の鎧。全体的に肉食獣を思わせる細身な鋭角なデザインで、鎧と言う言葉から想像する重厚な印象はあまり感じられない。どちらかと言えば、戦闘機のような現代的で無駄のないフォルムに思える。戦闘と言う唯一の目的の為に作られた遊びのない、しかし何処か下卑た雰囲気を含めて男の子の本能をビンビンに刺激するには十分過ぎる格好良さだ。
「かっけー」
そしてこの鎧姿の禍々しい騎士が自分の魂から現れたと言うのが最高に心を躍らせる。
退魔庁の対魔物講習所の一階、覚醒の間。此処では各個人に眠る戦闘の資質を『守護霊』と言う形で顕現させる。つまり、このグロテスクな捕食者を思わせる餓狼の騎士は、只野仁志に宿る魂の戦いの形なのだ。成績も容姿もぱっとしない平凡な高校一年生と自分自身を半ば見限っていた仁志だが、まさかこのような形で自分に秘められた才能に直面するなんて。人生とはわからないものだ。
だって、そうだろう? この明確に闘争に特化した鎧騎士と言う姿こそが仁志の魂の姿なのだ。人々の為に戦える力をもった偉大な戦士の魂が自分の内にあるのだ。これが喜ばしいことでなくてなんだろうか? これが誇らしくない男子がいるだろうか?
この日を境に自分の運命が始まるのだと仁志は歓喜した。最早、誰も十把一絡げの高校生として仁志を扱う者はいないだろう。人類の天敵たる魔物共と戦う戦士として注目されるに違いない。
「守護霊を確認。能力を確認してください」
禍々しい暴虐さを秘めた鎧に心奪われる仁志の意識を、緊張を滲ませる妙齢の女の声が現実へと引き戻した。学校の教室の半分程度の広さの覚醒の間には退魔庁の職員が三人詰めており、彼等彼女等は少し腰の引けた様子で恐る恐るな態度を隠さずに仁志に次の工程に移るように促す。
仁志はポケットから取り出したスマートフォンを操作して守護霊のデータを確認する。何故か守護霊を得ると、スマートフォンやタブレットに専用のアプリがインストールされ守護霊のデータを確認ができるのだ。
「えーっと、なんとか魔人のベルゼルガって名前です」
スマホを覗き込み、仁志は首を傾げながら守護霊の名前を読み上げる。明らかに常用でない難読漢字が読めなかったため、仁志はスマホの画面を職員へと向けて確認を取ってもらう。
そこに記された守護霊の名は『鏖魔人:ベルゼルガ』。
「なんて読むかわかります?」
「恐らくは『オウマジン』と読むんだと思います」
「『オウマジン』?」
なんだか間抜けな響きだ、少しがっかりした様子の仁志に職員が唾を呑み込んだ後に応える。
「……その漢字は他には『みなごろし』とも読みます」
みなごろしの魔人、ベルゼルガ。
知性を感じさせない下卑た肉食獣の鎧に相応しい名前だろう。ベルゼルガの放つ威圧感――殺気が決して虚仮脅しでないと示す剣呑な銘に、職員達は薄ら寒さを覚える。名前が正しいのなら、渇いた血の色の魔人が殺すのは決して敵だけに限らないのだから。
「…………魔物を全員ぶっ殺―す。みたいな感じ? やべぇ。やっぱり俺って戦士の才能ある感じですかね?」
しかし、職員達の緊張を無視して、仁志はへらへらと調子に乗りながら守護霊のポテンシャルを確認する。
【鏖魔人の呪禍:C】
肉体の損傷に応じ、身体能力や治癒能力が上昇する鏖魔人の呪い。
戦闘時に気分が高揚しやすくなり、昂りに応じて鏖魔人の真価が発揮される。
【鏖魔人の饗宴:C】
自身が倒した魔物を守護霊【鏖魔人:ベルゼルガ】が捕食することで発動する。
食べた魔物の質・量に応じて能力が上昇し、傷を癒す。
その見た目を裏切らない攻撃的で戦闘に関して遊びのないポテンシャルが二つ。
仁志はそれを――
「ピンチに強くなる――物語の主人公のような能力ですね!」
――極めてポジティブに解釈した。
勿論、自己欺瞞だ。
どう見ても、どう控えめに表現しても、正常な人間に発現するポテンシャルではない。
傷付くことを前提し、殺した敵を喰らう異能。
守護霊やポテンシャルは、魔物と戦うために本人の闘争の資質を表現したものだと言われる。自分に眠る本質が、こん凶器のような魔人と認めたいわけがなかった。
だから仁志は自分を誤魔化すように明るく勤める。
例え魂の本質が凶悪な姿をしていても、自分がそれを律して正しく使えばいいのだ。
魔物は人類に対しての試練だと言う人達がいる。これもきっと、自分を乗り越えてより高みに上る試練なのだ。
仁志は自分にそう言い聞かせると職員に礼をして覚醒の間を後にした。高潔な決意とは裏腹に、仁志の背後を追う守護霊の放つ殺気は鋭く、触れるモノ全てを傷付ける危うさが漏れ出ている。
期待と希望、そして殺意が去っていくと職員達は小声でささやく。
「みなごろしの魔人。その言葉に偽りない迫力でしたね。生きた心地がしなかった」
「あの力が魔物に向いている限りは心強い――と思うことにしましょうか」
「そうね。あの子が真っ当な人間であることを祈りましょう。さ。次の子を呼んで」




