④魔石獣狩りと狂気?
「サーシャ様、この魔石も売ることができるんですか」
「はい。二重構造になっているので、磨けば売れます」
「この石の下から出た湧水も売れるのかい」
「はい。魔石から出た魔水は、ペット用魔石獣の高級フードなので高く売れます」
今、ゼロとサーシャがいる場所は結婚初日にいた本邸とは離れた領地にある採掘場だった。
この場所は魔石獣も出没しやすいため、狩人としてゼロは監督役も兼ねて普段はここで生活している。
今日はサーシャの紹介もかね領民達の疑問に答える場になっていた。
最近急激に新種の魔石が発掘された、ストーンウォール採掘場で働いている者達にとってはありがたい場だった。
ゴツゴツした採掘場を背に労働者達に囲まれ質問に答えるサーシャを見つめ、ゼロは考えていた。
『おばあ様は魔石箱にいると思ったのですが、いませんでした。
お母様も、早く見つけてあげたいです』
先日のサーシャの言葉に、ある種の狂気と怖さを感じたゼロは、詳細を聞きたくても聞けない状況にいた。
(クリスティル家の人間は、死が恐ろしくないのだろうか。
人が魔石になる……聞いたことがない)
それ以来、どうにもゼロはサーシャから距離を取っていた。
良くないとわかりつつも、どうしても踏みこめなかった。
ついには学校が休みになってストーンウォール家本邸に滞在中のルクスの子ども達にまで
「ゼロ叔父様どうしたの?変な顔してるよ」
と言われた。
心配したルクスの質問攻めに逃げるようにして、サーシャを連れて採掘場に来た。
いずれサーシャを採掘場の皆に紹介するつもりだったとはいえ、自分の弱さに思わずため息が出た。
「おやゼロ様、新婚早々にため息とは。
あんな可愛い嫁さんになんか不満でもあるのかい」
「からかわないたでくれ。別に何も……、
……何か音がしないか」
サーシャを見つめ突っ立っていたので、採掘場で働く馴染みの領民に話しかけられたゼロだったが、遠くでする音に、眉間に皺を寄せる。
「魔石獣だ!」
凄まじい音を立て、一体のサイ型の魔石獣がこちらに向かっていた。
「皆は離れろ!」
そしてゼロは前に出て腰にある剣で一閃、魔石獣の喉元を搔き切る。
魔石獣は足元からぐらつき、そのまま地に伏した。
「ゼロ様お見事!」
「ステラサイか?食べ物がなくなって山をおりてきたのか」
「ステラサイってたしか、毒持ちだよな。さばいて魔石とるのは無理か」ぁ
通常なら、仕留めた魔石獣を捌いて得た魔石をギルドに売買するが、今回は無理だと皆諦めていた。
ゼロも声を張り上げ、注意喚起する。
「ギルドに連絡して引き取ってもらうようにする。
皆、ステラサイには触れないでくれ」
ゼロは採掘場の職員の1人にお願いし、ギルドに行くよう指示した。
「ゼロ様、ステラサイなら私がさばけますよ」
サーシャが倒れたステラサイの前へと立ち止まる。
「いや、いいサーシャ。
ステラサイは毒持ちだ。
経験者でも毒を浴びて死に至るケースも聞く。」
「毒は対処できます。
ステラサイなら何度もさばいたことがあるので問題ありません」
「そういうことじゃないサーシャ。
私は、君に万が一でも死んでほしくないんだ」
会話の雲行きが怪しくなり、ゼロは強く出て制止する。
だがサーシャは、驚くべきことを告げる。
「心配ありません。
万が一死んでしまったとしても、私はステラサイの魔石の中で生き続けます」
その言葉に、さすがに採掘場の周囲の人間がざわつく。
ゼロも心臓を鷲掴みにされたような寒気に襲われる。
サーシャはというと、自分の言葉に違和感は持っていない様子だった。
(やはり……クリスティル家は私達とは違う死生観を持っているのか……)
ゼロはとてもではないが受け入れられず、平静を装いながら、反論する。
「大問題だ。
私は君達クリスティル家の在り方はわからない。
だが、君が肉体を簡単に捨てるのを容認できない」
「肉体など器にすぎません。
器が魔石に変わるだけで、私の本質はわかりません」
ゼロは、サーシャの汚名である''魔石狂い''の意味が分かった気がした。
それでも引くわけにはいかなかった。
ゼロは、感情のままに、想いを吐露しぶつけることにした。
「ああ もう!
君に触れられなくなるのが悲しいと言ってるんだ!
私は、君の小さな手に触れられるのが、結構好きなんだぞ!」
自分の顔が赤くなるのがわかったが、サーシャをなんとか思い留まらせるため、正直な気持ちを伝えた。
「そんなに簡単に、肉体を捨てないでくれ」
「ゼロ様……」
今はまだ伝わらなくていい。
けれどもサーシャの行動に心を痛める、その事実を認識してほしかった。
「わかりました。
ゼロ様を悲しませたくはありません」
サーシャはステラサイから離れ、そのままゼロの腕に手を絡めた。
「うん?!」
「さっき触れられるのが好きだと言っていたので。
嫌でしたか?」
「……嫌じゃない」
ゼロは激しく心臓が鳴るのを感じながら、ギルド職員の到着を待った。
ああ、私ばかり心を乱されるなあ、とゼロは思った。




