第5話.世界で1番大嫌い
遠藤は俺の手を取り返して言った。「わ、私の…ことを知ろうとしてくれたのは…石原くん…だけ…」「…そ、そうなの…」な、なんか恥ずかしいな…「だ、だから…どうしても…言いたいの」「…嬉しい。嬉しいよ、けど、無理して言わなくても良いんだよ」「…」俺は彼女にどうしても無理をさせてたく無かった。彼女は少し悲しそうな顔をして頷き、教室を後にした。
昨日彼女に言った言葉を後悔した。もしかすると、無理にでも伝えたい!という彼女の前を進もうとしている意志を折ってしまったかもしれないからだ。でも、本当に無理はして欲しくないんだ。彼女が朝教室に入ってきた時に、伝えた。「あのさ…も、もしだけど俺に伝えたいならさ…逆を言ってよ!!」彼女は困惑した顔を浮かべる。「その…好意じゃなくて…逆を言えば…俺には伝えたいって言ってくれたじゃん?それだと俺だけに伝わるし…」彼女は嬉しそうに頷いた。でも、その顔は少しだけ納得のいってないような、そんな顔だった。
俺は、彼女に何かを伝えたいと思った。言葉だけじゃなくて、なにか形に残るものを。俺は、彼女が持っていた可愛いシャーペンを思い出した。ふと寄った店には同じキャラクターのペンがあり、不思議と手に取りレジに向かっていた。
翌日、遠藤サヤカは自分の席に座った。いつもと違い、少しだけソワソワしていて。手紙を持っていた。彼女は少し囁いた。「…文字なら…」
[遠藤SIDE]
1日経っても、彼は学校に来なかった。欠席かと思ったが、なんとなく先生に聞いてみた。先生はいつも口を開かない私がこんなことを聞いてくるのかと、少し不思議そうにしていたが、こっそり教えてくれた。
「石原くんは、事故に合ってしまったの」
その瞬間、世界に光が消えたように思えた。事故?なんで?今日の朝?いつ?すぐに近くの病院まで走った。今までで、1番。彼が生きていることを願って。優しくしてくれた彼を思って。笑顔の彼を思い出して。どうか、生きていてほしい。
病院について、受け付けで聞いて、更に病院内を走って、病室の扉を勢いよく開けた。彼はもう助からないらしい。泣いている私に、小さくて掠れる声で彼は話しかけてきた。「…あぁ、え、遠藤さん…来てくれたの?」私は伝えたいことがありすぎて、何も言葉にできなかった。ずっと口を開けて、書いた手紙をぐしゃっと握って。涙だけを流して。そんな私を見た彼は言った。「…俺さ、遠藤さんの事好きなんだ。きっと初めて会った時から」嬉しい言葉を言われても悲しみしか出てこなかった。嬉しくない両思いだ。そして続けて彼は言った。「…サヤカさんは、どう?…俺のこと、好き?」好きといいたい。けれど、言えない。私は、あの時の言葉を思い出した。逆で言ってという言葉を。「…世界で1番大嫌い…」彼は嬉しそうに、笑顔で言った。「うん、俺も」彼はゆっくりと目を閉じていった。そのまま私は、病室で大泣きをした。声が枯れるまで、今までにないほど。
手紙には、好きという文字だけが書かれていた。けれど、彼には届かなかった。文字ではなく、言葉で届いたから。




