第九話 京都府北部トンネル
車での移動は長い。ゆーうつー。
私がぼぉーーーーーっとしていたら、いつの間にか着いていた。
「澄乃、着いたぞ。早く降りろ」
眠いよ〜。深夜だって〜。
私の表情を見て何かを察したのか、悠臣さんが、
「霊は深夜じゃないと出ないんだ。眠いのはわかるが、我慢してくれ」
「……はーい…」
私は目をこすりながら車から降りた。
―――――――――
「ここにいるのは低級霊ばっかだな」
確かに、強い気配はまったくない。
結弦さんが地面に陣を描き、御札を貼る。
「結界展開。
霊視結界、認識疎外結界」
「結弦さん、結界を二つにまとめることってできないんですか?」
「ん?ああなるほどね。わかった。やってみるよ」
じゃあその間に……
「魔法展開」
「澄乃、攻撃魔法って使えるか?」
「えっと……私がまともに使えるのは、光と闇と浄化と回復です。水はほとんど使えません」
「なるほどな……じゃあ、光魔法で矢を想像してみてくれ」
私は言われたとおりに光の矢を想像する。
よくあるのは、シャイニングアローとかかな。
「……シャイニングアロー!!」
………………
何も起こらなかった。
「なんでっ!?」
「当たり前だろ、お前アホか?魔法式は◯◯第◯式魔法名だろ!何ファンタジーっぽい名前つけてるんだ」
そうでした!そうでした!完全に頭から抜けてた。
改めて……
「魔法展開」
もう一度イメージして……
「聖き光よ、集え、収束し、形を成して飛翔せよ」
《聖輝式・第一式―――聖光矢!!》
魔法陣が自分の前に現れ、一本の矢が放たれる。
光の矢はある程度飛んだら消えた。
「……よっっわ」
まじですか……。
放った瞬間の手応えもほとんどなかった。光の矢というより、光る棒みたいな感じだった。
悠臣さんが額を押さえる。
「お前な……詠唱と形式は形になってるけど、魔力の流し方が全然追いついてねぇ。式だけ立派でも、中身がスカスカならそりゃ弱いだろ。狙いも、全然真っすぐじゃないし……」
「そんな……聖光矢!って言ったのに……」
「名前を叫べば強くなると思うな。アニメじゃねぇんだよ」
「ですよね……」
私は肩を落としながら、消えていった光の残滓の方を見る。
すると悠臣さんはため息をつきつつ、私の頭を軽く小突いた。
「まあ、初めてで魔法式がちゃんと展開しただけ上出来だ。威力なんて後からどうにでもなる」
「ほんとに……?」
「本当だ。お前、ちゃんと矢にはなってた」
「……光る棒だったけど」
「……言うな。自覚あるなら伸びる」
悠臣さんはそう言って、手のひらを上に向ける。
「見てろ。比較用だ」
「へ?」
私のつまようじと違って、空気を震わせるような密度を持っていた。
《聖輝式・第一式―――聖光矢》
虚空から矢が放たれる。
空気を裂く音とともに、まっすぐ、鋭く、遥か先で霧のように消えた。
「……こっちが普通レベルな」
「いや無理では……?」
「まあこれ、御札を依り代にして出してるんだけどな」
「……ズル」
「ズルとか言うなよ、この御札だって俺が作ってるんだぞ?
それに、才能的にこれぐらいやってもらわないとな。第二式だってそろそろ……」
ぐちぐち言い始めた悠臣さんを無視する。
「…………じゃあもう一回やってみろ。今度は光の矢じゃなくて、魔力の密度に集中しろ」
「み、密度……!」
私はもう一度魔力を集める。
さっきより深く、ゆっくりと。
「――聖き光よ、集え、収束し、形を成して飛翔せよ――」
魔法陣が展開される。
さっきより鋭く、魔力を一点に集中……!
《聖輝式・第一式―――聖光矢!!》
叫んだ瞬間に、光の矢が前方にかなり速いスピードで飛翔する。
光の矢は遠くにあった木にぶつかり、木の中心に大穴が開く。
「す……すごい!あんな大雑把な指導だけでこんなに威力が上がるなんて…!」
「おい、今さらっと俺を馬鹿にしなかったか?」
「シテナイデスヨ?」
「まあいいや。次は第二式の浄化魔法を使ってもらう。そこの霊のまとまりを一撃で浄化しろ」
「へ?」
本気で言ってます?まだ使えたことのない第二式で一撃で?
「悠臣さん、第二式がどんな魔法がわかるんですか?」
「いいや?全く」
しばいていいかな。
「それだと、一げモゴモゴ……」
「喋ってないでやるんだよ」
悠臣さんが私の口を手で覆う。
「理不尽!」
私は霊に向く。
一撃で倒すなら範囲魔法だよね。
じゃあそのイメージで詠唱考えて…………こんな詠唱をすぐに考えられる私って厨二病だよね?
…………
「魔法展開」
空気を変える。魔力で空間を震わせる。さっきの会話を頭の中から消去し、集中する。
魔法はイメージが全て。……これなら、いける!
「――光よ巡り、穢れを抱いてほどけよ。
静けさの輪よ、すべてを清めて還れ」
魔法陣を平らにして、浄化属性を付与。
座標を設定して……よし。
さらに魔力を込め、広い範囲に浄化の力をみなぎらせる。
《天ノ上環・第二式―――清環》
魔法陣を設置している場所が光り出す。
第一式と違って、かなり地味だ。
でも、清めるっていうところなら合ってるのかも。
ふと気がつくと、魔法陣の近くにいた霊はいつの間にか消えていた。
「上出来だ。このまま第三式もいけ」
「テンポが速すぎません?」
「極めるのはあとだ。今はとにかく覚えろ」
あああぁ〜頭がキャパオーバー(?)しそう。
「おそらく第三式も範囲系の魔法のはずだ。もっと広範囲のな」
私は悠臣さんの言葉を聞き流しながら、詠唱を考える。
そんなポンポンと厨二病的な詠唱は思いつかないんだけどな…………と、言いながら思いつくんですけどね。
「魔法展開」
「――万象に満つる穢れよ、光の環に融け還れ。
巡り、重なり、澄み渡れ――天地の調和、ここに開け」
落ち着け……さっきより集中しろ。杖に魔力を込めるんだ。
《天ノ上環・第三式――浄て…》
―――ッツ!?!?
「――っがはッ!」
急に頭が………
私はその場にうずくまる。
「大丈夫か?」
悠臣さんが心配してなさそうな顔で覗き込んでくる。
「急に頭に激痛が走って……」
「あぁ。多分自分の魔力量より魔力消費量のほうが上回ったんだろ」
「……え?」
「つまり、自分の限界を超える魔法を使ったから、拒否反応がでたんだ」
自分の……限界……?
「おーい。今日はここまでにしようぜ。ここの霊をあらかた一掃したら帰るぞ」
向こうの方で結界の練習をしていた結弦さんに声をかける。
「終わったのか?……ちょうどいい、見せたいものがあるんだ」
手にしているのは、悠臣さんから渡された結界札――ただし、紋様が以前より細かく追加されている。
「改良版だ。前のは展開に時間がかかってたからな。
霊視結界と認識疎外を“ほぼ同時に”張れるように構造を組み直した」
結弦さんが札に軽く触れると、紋が一気に光り出す。
霊視の結界が薄い膜のように広がり、ほぼすぐに認識疎外が重なった。
「……うわ、すごい。前よりずっと安定してます!」
「うん。霊視の式に霊脈の流れを作って、そのまま認識疎外へ引き継ぐようにしたんだ。並列は不安定だから、連鎖させる方が楽だったよ」
結界に、ふっと小さな影が通りかかる。
ただ――霊の方は、ただ興味がなくて通り過ぎただけのように見えた。
「……あれ? 霊は認識疎外にひっかからないんだね」
「当然だよ。認識阻害じゃなくて、認識疎外は“人間の知覚”に作用させてるだけだしね。霊からの認識を消すのは高等術だし、短時間だったし、御札がこれしかなかったら、今じゃ無理だよ」
結弦さんは淡々と説明したが、霊視と認識疎外の連鎖展開だけでも十分に難しいはずだ。
というか、時間をかければその高等術を使えるんだ……へぇ~。
悠臣さんも腕を組んで感心する。
「この展開速度なら実戦で十分通用するな。すぐに紗夜が戦闘に入れそうだ」
「まぁ、戦闘であまり役に立たない代わりに、こういうところで補うしかないからね〜」
結弦さんは肩をすくめた。
「よし、霊もほぼ片付いたし今日はここまでにして帰るぞ」
悠臣さんの声にうなずきながら、私は光の結界の残滓を見上げた。
……霊には効かなくても、ここまで正確に扱えるのすごい。
私も、負けてられないな。
その後、サボっていた紗夜さんを回収して、その日は撤収した。




