第七話 初任務
私達……いや、私を除いた三人が装備を準備する。
私も手伝おうとしたけど、断られちゃった。
どうやら専門的な知識が必要らしい。
「澄乃ちゃん、もうすぐ準備終わるから、車のところで待っててくれない」
「あ、わかりました」
これ、私いらないんじゃ…?
―――――――――
準備ができたようなので、出発する。
私は話題の提供なんてできないから、黙って待っていると……あっ、そういえば質問あった。
「……あの……。皆さんってもともと知り合いだったんですか?」
すると、結弦さんが答えてくれる。
「いや?まったくの初対面だったよ。昨日は澄乃が来るまで時間があったから、自己紹介とか雑談して暇をつぶしてたけど」
えぇ……。初対面であんなに仲良さそうにできるの?
そのコミュ力分けてほしい……。
その後もたまに雑談をしながら車の中で過ごす。
「それにしても、初任務が三室峠なんて、ついてないな」
「え?そこってそんなにやばいんですか?」
「ああ、やばい。前に行った時は相手の霊力が強すぎて、封印することしかできなかったからな」
陰陽師の悠臣さんでも封印しかできないって相当やばいんじゃ……。実力知らないけど。
「ほら、もうすぐ着くぞ」
私達は山道に到着した。
「結弦さん、ここの情報って何かありますか?」
「足元に気をつけてねーぐらい?」
心霊現象について聞きたかったんだけど。
「……ここの曰くはね。実際に起こった事件だと、誘拐、殺人。霊現象は、女の霊、人食らいって感じかな」
なんかヤバイの混ざってるって!
―――――――――
「――ッ!?」
私は突然、尋常じゃない気配を感じる。
霧の深い森道は、夜中で薄暗く、風が揺れるたびに何かが潜んでいる気配がした。
私はぎゅっと杖を抱えた。
「……ゆ、悠臣さん。何かいますよね……?」
私は緊張で声が上ずる。
「いる。かなり強い気配だ。澄乃は準備して。俺らが時間を稼ぐ」
悠臣さんも気づいたようで、警戒態勢に入る。
「え?もういるの?全然分からないんだけど」
……え?もしかして、紗夜さんって霊感ない?!
「紗夜、すぐに結界を張る。戦闘準備をしておいて」
「わかった!」
紗夜さんが刀を構える。
結弦さんが悠臣さんに御札をもらう。
「紗夜!気配はかなり近い。こちらが見つけ次第攻撃する!」
「えぇ!?私まだ見えてないんですけど?!」
紗夜さんが戸惑ってる。
私もはっきりと霊が見えるわけではないから、早く結界を張ってほしい。どのくらい効果があるのかわからないけど。
「結弦!早く結界を張って!見えないと斬れないから!」
このメンバーの戦いは至って簡単。
皆さんが時間を稼ぎ、私が魔法で決める。それがこのメンバーの戦い方だ。
その時、森の奥で黒い影が震え、音もなく膨らんだ。
空気が冷え、鳥が一斉に逃げる。
「来るぞ!」
悠臣さんが叫ぶ。
影は突然現れ、人型のようにゆらゆらと揺れ、どす黒い手を伸ばした。
「っ、霊視結界!認識疎外結界!」
結弦さんが御札を地面に張り、地面に印を描き、半透明の膜が瞬時に広がる。
「こいつっ!人食らいだ!澄乃が浄化できなかったら、俺が再封印する!いいな?!」
「「「了解!」」」
視界がはっきりする。霊がはっきり見える。結界の威力がこれほどとは。
結界が張られたことで、紗夜は霊が見えるようになる。
紗夜が前に躍り出て、霊の攻撃を受け止め始める。
すごい…!普通の刀じゃ触れることもできないはずなのに、妖刀ってこんな事ができるんだ……
「澄乃!詠唱を始めておけ!放つときに合図してくれ!」
悠臣さんが叫ぶ。
「は、はいっ!」
「顕現せよ。焔龍っ!」
悠臣さんも戦いに参加するようで、式神を召喚する。炎をまとった龍を。
小さな足が一歩前に出る。震えていても、逃げない。
「《魔法展開》っ……!」
私が魔法陣を展開し、魔力を練り始める。
私の気配を察知した二人は後退する。
「祓い清める光よ……光の律に従い、世を解き、全ての神仏に願う。魂よ、輪廻の輪に還りなさい!」
《天ノ浄環、第一式―――――光葬!!》
澄乃の放った白い光が、仲間の前線を越え、霊の中心を貫いた。
貫いた中心から霊の上下に魔法陣が浮かび上がり、派手な魔法陣が展開される。
もがくように影が揺れ、黒煙がはじける。
光が収まると、周りの空気は澄んでいて、視界も広がっていた。
浄化できたのだろう。
「すごいね澄乃ちゃん!」
「よくやった」
「まさか、あのレベルの悪霊を、第一式で浄化するとは……大した才能だね」
三人の声が、澄乃の震える背中を温かく包む。
「…はいっ!ありがとうございます!」
「いやーそれにしても、作戦を何も考えてなかったのにあいつを倒せるとは、予想していなかったわ」
「……え?」
私の顔から表情が消える。
あの指示って、全部アドリブだったんだ……ハハ……
私が消沈していると、ふと、結弦さんの言葉が気になった。
「あの…結弦さん、第一式って言ってましたけど、私の魔法について、何か知ってるんですか?」
「ん?あぁ。僕は魔法知識なら幾らかあるからね。一番最初の呪文は頭に響いただろ?それを真似て、天ノ上環を考えた」
「まあ……はい」
「呪文の中で特に大事なのが、術式名だ。例えば、天ノ上環第一式光葬。これで一セット。これがあれば最低限魔法は放てる。天ノ上環に関しても、急にその言葉が思いついたのなら、何か因果はあると思うよ」
結弦は腕時計をちらりと見て、軽く肩を回した。
「とまぁ、難しい話はこんなところかな。続きはまた今度、専門の人にも聞いてみるといいよ」
結弦はそう言って、澄乃の頭をポンと軽く叩いた。
「ほら、もう夜明けだし、帰ろう。今日は全員疲れただろ?」
澄乃はまだ胸の奥で、さっきの光の余韻がわずかに震えているのを感じていた。
――さすがに眠い。昼夜逆転の生活なんて初めてだよ。
「澄乃ちゃん、欠伸してるよ?眠い?」
「眠い……です」
私のその言葉を聞くと、紗夜さんが―わかった―みたいな顔をして、私のことをおんぶした。
「車まで運んであげるから、もう寝ててもいいよ」
その言葉に甘えて、紗夜さんの背中で少し眠ることにした。
その姿を、結弦さんは一瞬だけ見つめ、柔らかく目を細めた。
「……さて。後は、成林さんに報告かな」
―――――――――
澄乃が寝ている間の話だ。
「――というわけで、三室峠の霊の浄化、完了しました」
四人は魔法省、京都支部に来ていた。
「なるほど。報告ありがとうございます。澄乃さんは初陣は好調のようで何よりです。悠臣さんが苦戦していた霊をこうもあっさり浄化するとは」
「ええ。私も驚きました。自分の未熟さにも気づかされましたし」
悠臣が複雑な顔をする。
成林さんは軽く頷き、書類を閉じた。
「では、今回の三室峠の件は以上で。澄乃さんには、目を覚ましたら“よくやった”とだけ伝えておいてください」
「はい。了解しました」
「次の任務については、改めて連絡します。今日はもう解散して構いません」
「ありがとうございます」
悠臣が部屋をあとにしたあと……
「澄乃さん…能力もそうでしたが、期待以上でした」
成林は高笑いをしている。
「やはり私は間違っていなかった!
見ているか?魔法省の人事部ども!私を支部長の座から引きずり下ろす?
できるものならやってみろ!
澄乃さんを一人前にして、私をバカにしたヤツらを後悔させてやる!」
説明が多いんじゃーーーー!!!




