勉強会です
どうも、雪木です。
今回も書いてみました。
良ければ、楽しんでもらえれば嬉しいです。
そんなこんなで三か月が過ぎ、満開だった桜も散り、青々とした茂った葉を心地よい風が揺らす頃。
「頼む、勇希奈!!この通り!」
お昼ご飯を食べていると、クラスメイトの陽川さんが切実な表情で頼み込んできた。
「な、急になにさ?」
「勉強だよ!今月だろ?期末テスト」
早いことで、もうそんな時期なのである。どうやら彼女は勉強があんまり得意ではないようで、入学して間もない頃にやったテストでは、思うような点数が取れていなかったとのことだ。
「なぁ、頼むよ。もし赤点取ったら追試だし…林間学校も行けなくなっちゃうよ」
このテストさえ終われば、僕ら一年生にとっては初のお楽しみイベントである林間学校が待っており、内容もかなり良いと言える。しかし、あくまでそのお楽しみは、テストをちゃんと頑張ったらのお話である。もし、赤点でも取ろうものならば、学園に残って追試と追加の勉強が待ち受けている。
「私は別にいいけど」
「マジ?ありがとう!助かるよぉ」
困っている人を見かけたら、つい助けてしまうのは勇者だった頃から変わらない。しかも、教えることで勉強の振り返りができるし、こちらにもお得なのだ。
「よく妹や弟に勉強は教えてるからね。同い年の子に教えるのは初めてだけど」
「お取込み中のところ、ごめんなさい」
背後から声をかけられ振り向くと、八嶋さんと神崎川さんが立っていた。
偶然僕らの後ろに座っていたから会話が聞こえてきたらしく、彼女らも混ぜてほしいと申し出てきたのだ。
「いいけど、八嶋さんたちは別に成績悪くないんじゃ?」
「今はそんなに困ってませんよ。ですが、前のテストで学年トップだった鞘師さんと勉強できるなら、もっと上を目指せるのではと思いまして」
【なるほど。現状維持は望まないか】
向上心からの申し出であることを知った僕は、この上なく嬉しい気持ちになった。
一緒に切磋琢磨して刺激をもらえれば、自分も更に伸びるからだ。
「でも、神崎川さんは大丈夫なのですか?いつも寝てるイメージですが…」
そう言うと神崎川さんは、無言で前のテストの結果を見せてきた。
「なんだよ。お前も数学と理科赤点じゃん」
「しかも、そんな満面なドヤ顔で見せるんじゃありません」
「…理数系は苦手」
僕はその光景に「あはは」と苦笑いを浮かべるが、悪い気は全くしていない。
【温かい。向こうの世界とは、いや、向こうにいた時の僕は…】
色んな想いが交錯し、複雑な気持ちを抱えたままお昼の時間が終わり、とりあえず授業が終わったら図書館でやろうとだけ約束して教室へと向かった。
そうして今日の授業が全て終わり、陽川さんらと勉強会に行こうとしたのだが、彼女らは鵜川先生に呼び出されてしまい、僕だけが先にいくことになった。
いざ図書館に着くと、さすがテスト週間ともあってかなりの生徒が勉強をしにきていた。しかし、だからといって慌てて席を取ったりはしない。
「しかし便利だよな。このタブレット。図書館の席すら事前に予約できるんだもんな」
そんなことを小さな声で呟きながら予約している席に向かう道中に、ふと、僕の視線の先にとある人物が勉強している姿が映った。
【あれは…姫岡さん…だよな】
彼女だと分かった僕は、また見つかったら色々面倒くさいしと本棚の影に身を潜める。幸いにも通りかかったのが彼女の後ろであったので、恐らく気付かれてはいないだろう。
すぐにその場を離れてもよかったのだが、なぜか気になってしまい、そのまま静かに様子を伺ってみる。すると、彼女の目の前にいた生徒との会話が聞こえてきた。
「朱菜ぁ~。ここわかんないんだけど…」
「うん?ちょっと見せて。…ああ、ここね。ここはこうやって…」
「あ、なるほどね。ありがとう!」
「流石は学年三位ね」
「ふん。三位じゃまだダメよ。次こそは必ず一位の鞘師さんと二位の西川さんに勝つ!」
「「よっ!!それでこそ、私らのクラス長!」」
そう意気込む姫岡さんの気合は、少し離れたところにいた僕のところにも届く勢いだった。
会話を聞いて分かったが、どうやら彼女もまたクラスメイトに勉強を教えているようで、聞いている分にはかなり分かりやすい。
そこへブーブーと、ポケットに入れていたスマホがバイブで揺れる。
取り出して確認すると、陽川さんからメッセージが届いており、どうやら用事が済んだようで今みんなで図書館に向かってるらしい。
ついでにスマホに表示されている時間に目線を向けてみたら、少し様子を伺うつもりだったのが、それなりの時間が経ってしまっていた。
いくら予約を取っているからといっても、流石に先に来ていて遅れてくるのもさすがに悪い気があったので、迷惑にならない程度に予約席へと向かった。
「よかった。まだ来てない」
まだ一行が到着していないことに、ほっと肩をなで下ろして席の背もたれに手をかけた時だった。
「ん?勇希奈…?」
そこには隣の席に手をかけている西川さんがいた。誰が予約を取ったとかの情報はタブレットには表示されないため、恐らくは偶然だろう。
「偶然だね。西川さんも勉強?」
「まぁね。二点差で君に負けちゃったからさ」
【なんか、ゲームのラスボス?みたいになってるな僕】
「あ、いたいた。ごめん、遅くなって…あれ?西川さんじゃん」
「やぁ。僕も偶然隣の席を予約しててね」
「そうなんですね。じゃあ、せっかくですし私らとご一緒しませんか?」
「ああ…いいよ」
八嶋さんの突然の提案だったのにも関わらず、なぜだか一瞬間を置いてOKしてくれた。
そうして勉強会が始まり、陽川さんや神崎川さんの苦手分野を教えつつ、自分らの勉強も順調に捗っていく。
だが、僕の指先はいつもより動きが鈍かった。
【西川さん…。あの日以来でも特に変わった様子はなかったはずなのに。ほんとにあれは何だったのだろう】
あの帰りの日の翌日。僕は部活の時に、ケガはなかっただろうかと心配になり、いつものように声をかけてみようとした。しかし、あの時の表情が脳裏に浮かぶ。
それでもと声をかけると、彼女がどう思っているのかわからないが、少なくとも普段の西川さんだったのでとりあえずは安心したのだが。
【でも…なんだろう。あの時の西川さんの指。なんだか妙に熱い気がしたけど】
心の中で謎の違和感が拭えないまま、時は流れて勉強会は終わりを迎えた。
陽川さんらはバスで、西川さんは別に用事があるらしいので今日は珍しく一人で帰ろうと自転車を押しながら歩くと、校門に見慣れた人物が立っていた。
「あれ?万理華じゃん。どうしたの?」
「いや、私もテスト勉強しててさ。帰ろうかなって思ってたら勇希奈の自転車がまだあったから、ちょっと待ってみたんよ」
万理華とは別クラスになってしまったし、彼女にもクラスで友達ができたから、このところ直で話す機会がめっきり減ってしまったこともあってかなり嬉しかった。
せっかくなのだしと僕らは、自転車には乗らずにそのまま押して歩きながら歩く。何せお互い話すことがいっぱいだからだ。
「なんだか、しばらく話してなかったみたいだね」
「Limuじゃそこそこ話すんだけどね」
「そういえばさ、生徒会どう?」
あれから生徒会に立候補した彼女は見事に選出され、日々生徒会の仕事にまい進している。
話を聞いていると、最初は大変だったみたいだったけど、先輩らが教えてくれたりしてなんとかやっているらしい。
その後も話は盛り上がった。そんな時──。
「勇希奈さぁ。なんかあったでしょ」
万理華の唐突な問いかけに思わずギクッとしてしまった。
慌てて話題をすり替えようと試みた僕だったが、そこはしっかり逃がさない万理華にあっけなく白旗を上げて白状したのだった。
話を聞いた彼女は、少し考え込んだ後に口を開く。
「私は多分だけど、西川さんの気持ちを知ってる」
「ほんと!?じゃあ…」
「待って。私は教えないよ」
僕はなぜだと困惑し、すぐに問いただそうとするが彼女は続ける。
「いじわるで言ってるんじゃない。それは。その感情は自分で気が付いた方がいいと私は思うよ」
万理華がそんなことをする子ではないのは、幼なじみである僕が一番よく知っている。
しかし、最後まで彼女は教えてはくれなかった。
家に着き、玄関のドアを開けるが、そのドアもいつになく重い気がした。
帰ってみれば舞依華と桜士郎はまだ塾から帰っておらず、父も仕事から帰ってきていない。母だけが、キッチンで夕食の準備をしていた。
母に「ただいま」といつものように言うと、母も普段と変わらずに返す。
いつもならそのまま自室へと向かうのだが、僕の足は階段の前で止まっていた。
「どうかした?」
キッチンで食事の支度をしていたはずの母が、立ち止まっている僕に声をかけてきた。
「あ、いや。別に…」
「…ちょっと来なさい」
そう言うと母は僕をキッチンに招き、椅子に座らせる。
「安心して。舞依華と桜士郎はまだ塾だし、父さんもまだ帰ってこないから」
「…ありがとう」
「で、何があったの?」
僕は万理華に話した事。そして、万理華の反応について話した。
話し終えると、母は微笑みながら口を開けた。
「母さんも、その西川ちゃんの気持ちは分かる。けどね、それについては万理華ちゃんと同意見よ」
何でかと言うと母は、そっと僕の手を握った。
「いい?勇希奈。その感情はね、人にとってすごく大切な感情なの。そんな大切な感情だからこそ、時間をかけてもいい。だから自分で答えを見つけてほしいの」
「…見つけられるかな」
「大丈夫。勇希奈なら見つけられる。私の子だもん」
母の言葉に僕は「うん」と静かに頷き、その頭を彼女は優しく撫でてくれた。
いつ以来だろうか。母に撫でられるのは。
舞依華たちの前だったならば、恥ずかしくて振りほどいてしまうだろう。しかし、今このひと時だけは、母の優しさに何も思わず甘えた。
翌日──。
僕は一晩考えた末に一旦気持ちに無理やりにでも整理をつけ、今はただ目の前のことに集中するという決断に至った。
テストまで残り一週間。気合を入れ直しながら教室へと足を運ぶ。
「おっす、勇希奈!なんか今日はピシッとしてんな」
「そうかな?まぁ、剣道の新人戦も近いからかも」
「ああ、そういやちょうどテスト明けて一週間後だっけ?」
そうなのである。この期末テストが終われば、一週間後には剣道の新人戦が待ち受けているのだ。
実を言うと、僕としてはその新人戦が楽しみで仕方がなく、テスト勉強のモチベーションの一つとも言える。
「勇希奈も大変だなぁ」
「うーん。でも中々やりがいがあっていいけどね」
【確かに大変かもしれないけど、魔獣の大量討伐よりかよっぽどかマシだよ】
そんな事を思いながら、チャイムが鳴り、今日も学校が始まる。
時は流れ、今日もみんなと勉強会をして学校を後にする。
家に帰ってみれば、なんだかキッチンの方が騒がしい。
なんだろうと思い声の方に行くと、そこには父以外の家族が集まっており、何かを囲んでいるようだった。
「なになに?どうかした?」
「あ、ユキ姉お帰り。ちょっと見てよ」
桜士郎に言われて指差す方に目を向けると、そこには何とも愛らしい存在がいた。
「へぇ、子猫じゃん」
「公園に捨てられてたのをマイ姉が見つけたんだよ」
「父さんにもLimuで許可貰ったし、今日から飼うんだ」
ペットを飼うなんて、もちろん初めてだ。けど、僕はその小さな存在に口角を上げざるを得ないでいる。
【か、可愛い。遠目で見てていいなぁとは思ってたけど、間近で見ると…ダメだ。可愛すぎるぞ】
すっかり夢中になる僕の胸元に、突然その子猫はジャンプで飛び込んできた。
「ふふ。元気ね。洗ってあるし注射も済ませてきたから安心して」
ならば安心だと、心置きなく子猫を抱く。そんな時だった──。
《やれやれ。困りましたねぇ、人間というものは》
唐突にどこからか声が聞こえたのだ。
「…あれ?父さん帰ってきた?」
「いや、まだだけど。どうかしたの?」
「え?でも声が聞こえたような…」
「やだ、怖いこと言わないでよ」
どうやら僕以外に聞こえてはいないようだ。
疲れているのかもと、気のせいにしてとりあえず着替えようと自室に向かう。
【なんだったんだろう。やっぱり疲れてるのかなぁ。でも…】
聞こえてきた声には聞き覚えがあった。しかし、そんなことあり得るのだろうかとの思いもある。
そんな思いがせめぎ合う中、ドアが少し開いていたのか、あの子猫が入ってきた。
そのままちょこんと座ると、ジッと僕の方に視線を送ってきている。
《勇者アラン。いえ、今は鞘師勇希奈さんですか》
確信した。声の主は間違いなくこの子猫だ。
そう思った僕は恐る恐る子猫に、ある事を問うのだった。
いかがだったでしょうか?
今回はこんな感じで書いてみました。
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