とある一日
どうも、雪木です。
中々忙しくて更新のペースが上がらないですが、書いてみましたので、どうか楽しんでもらえると嬉しいです。
高等部に進学して、早くも一か月が過ぎようとしていた。
「おはよ」
「おはよう、万理華」
「高等部に進学してもう一か月だけど、もうテストか」
「でも中等部も同じくらいだったじゃん」
「外部進学の子が言ってたの。ウチは他校よりも随分早いって」
中学から星城女子でしか過ごしていないので、他校の事情は知る由もない。
早いとはいえ、その分範囲も狭いし難易度もそこまで高くはないのはありがたいところだ。
「そんなこと言って、対策はバッチリなんでしょ?」
「まあね。一応これでも生徒会なんだし」
万理華は中等部での実績もあって、同学年との生徒会選挙があったものの、相手になる人がおらず結局無投票で生徒会へと選出されたのである。
「ま、適度に頑張るわ。っていうか、アンタ人の心配してる場合?」
「うん、今のところは範囲も狭いしなんとかなりそう」
「かぁ!これだから中等部三年間グランドスラム達成者は!」
僕だって楽をして達成したわけではない。
もちろん楽な試験は一度もないけど、それを達成できたのも多分──。
「あはは。それも多分『楽しい』から出来たんだと思うよ」
「勉強が楽しいねぇ…」
万理華は、微妙な表情だが本当の事なのだから仕方がない。
【教科はどれも好きだけど、やっぱり数学が一番だな。あの難問を解いた瞬間はたまらない】
「ところで、最近はなんで私と登校するのよ。彼女はどうしたのよ、彼女は!」
「ん?彼女?何のことだ?」
「「うわ!!」」
突然背後から話しかけられ、驚いた僕らは咄嗟に振り向いた。
「な、なんだ。富樫さんか」
振り向いた先に居たのは、学校のジャージ姿でほんのり汗ばんだ富樫さんだった。
でも、なんで彼女がこんなところに──。
「富樫さんの家って、確かさ」
「あん?ああ、こっから正反対でめっちゃ離れてるけど、先週からルート変えて走り込みやってんだ。テスト週間で部活がねぇからさ」
それは殊勝な心掛けである。
けれども、それよりも気になる事がある。
「ところで、富樫さん?」
「なんだよ」
「テスト勉強はいいの?」
万理華がさりげなく話題を逸らした。
ナイスな判断に僕は彼女に向かってこっそりウインクを決めたが、ジト目で返されてしまった。
しかし富樫さんの表情は焦りよりも、むしろドヤ顔に近い。
「はっ!そんな事かよ。ちょっと待ってな…」
そう言うと彼女は徐に自分のスマホを取り出して、何かを探して僕らに見せた。
そこには、普段の彼女からは想像し難い写真があった。
「え?うそだ。何この成績…」
「中学三年の期末だよね…ほとんど九十点超えてんじゃん」
「推薦枠取れなかった時の為にな。別にこれくらいはな」
これにはさすがの僕らも、目を丸くせざるを得なかった。
【いやぁ、人は見かけによらないとは言うけどねぇ…】
「そういえば…そっちの奴は確か生徒会の」
「あ、そうか。初めまして、尾野万理華だよ。よろしく」
「富樫狼美だ。こいつとはどういう関係なんだ?」
「まぁ、一応親友?かな」
改めて言うとなんだか照れくさくて頭をかいた。
そんな他愛もない話をしていると──。
ピピー!ピピー!っと富樫さんのスマートウォッチが鳴った。
「お!いけね、ちょっと休み過ぎちまった。じゃあな!」
そう言って彼女は颯爽と駆けていった。
まるで嵐が過ぎ去った後のような静けさに、僕らは無言のまま止まっていた足を前に進める。
「ああっと、ちょいいい?」
しばらく歩いた頃、万理華が口を開く。
「さっき聞きそびれたやつなんだけど」
【さっき?ああ、あの事か】
僕は今こうして十百那ではなく、万理華と登校している事が増えた経緯を説明した。
実を言えば、あの日以来僕は彼女が少し怖いのだ。
なんだか上手くは言えないのだが、一見すれば普段通りの十百那ではある。
例えば僕を見てくる視線だ。
あの日、すなわち僕が富樫さんの教育係に任命された日。
それ以来彼女のこちらを見る目の奥に、なにかゾクッとするものが宿っているんじゃないかと思う事が幾度かあった。
「なるほどね。あんな西川さんにそんな一面があったとはね」
「帰りは二人で帰るんだけどさぁ。距離もいつもより近いし、手も握ってくるのは良いんだけど、ちょっと強いというか…」
それを聞いた万理華は複雑そうな表情の中に、ほんのりめんどくさい感情も織り込ませて口を開く。
「いやぁ、アンタまた本当さぁ…」
「なんだよ、こっちは至って真剣なんだぞ」
「ごめんごめん。まさか西川さんがそんな嫉妬深い人だとはね」
言葉では知っているけれど、実際にされたのは初めてかもしれない。
【いや、違うな。こうして感情として気付いたのが初めてか】
そもそも僕の前世は勇者だ。
なれなかった者からも無意識のうちに嫉妬の感情を向けられていた可能性だってあるのだから。
「うーん、どうしたらいいんだろう」
「なんか聞いてる限りだと独占欲もそれなりありそうだし、拗れる前になんとかした方がいいけど…うーん」
万理華も難しい表情で考え込む。
考えているうちに学校に着いてしまい、一先ずはまた帰ったら考える事にしたのだった。
時は過ぎていき、早くもお昼休みの時間となる。
「うっしゃ!飯や!勇希奈学食行かへん?」
「いいよ。ちょうどそのつもりだったし」
「んじゃ、冥も行こか!あと…おーい!書記子もどや?」
書記子?そんな子いたっけとなるだろうが、これはとある人物のこのクラスでの愛称なのだ。
その人物は口角に皺を寄せながらも、満更ではないようで──。
「もう、変なあだ名つけて。響きが可愛らしいからまだいいけど」
「ならええやないか。で、学食どないするん?」
「ええよ、行こか」
「おっ!関西弁使いおったなぁ。でもまだまだアクセントがなっとらんから、食堂でみっちり教えたる」
すっかりクラスのムードメーカーとなった拳野さんは、いつもこうやってクラスの誰かしらを誘っては遊んだりしている。
「おーい!クラス委員長!その前にちょっといい?」
クラスメイトの一人が拳野さんを呼び止めた。
「おー、なんや?」
「これなんだけどさぁ…」
「ああ、それな。それは──」
拳野さんはクラスメイトの子から渡された一枚のプリントを見るなり、普段の明るい口調から一変し、冷静沈着な口調へとガラリと変わってプリントの内容について説明している。
「そういう事ね。ありがと!やっぱりウチの委員長は頼りになるわ」
「おーう!またいつでもな」
説明を終えた拳野さん、すっかり元の口調へと戻っていた。
こんな風に頼りになる一面もあることから、彼女は僕らのクラス委員長を務めている。
気を取り直して学食に向かう僕らだったが──。
【あっ…】
教室を出てすぐ、丁度クラスの友達と弁当を食べに行こうとした十百那と偶然にも鉢合わせになった。
友達の後ろを歩いている彼女は、すれ違いざまの目が合った瞬間にほんの僅かだが口角を上げた。
彼女の視線に咄嗟に僕は、首元をギュッと抑えた。
学食に着くと、そこには流石は高等部と思わされる光景が広がっていた。
「いやぁ、高等部に来て色んな違いに驚かされたけど、やっぱ一番は学食よね」
「そうだよね。メニューが一段と増えてるし内容も豪華だし」
「そうなんですか?」
「ウチら外部進学組は違いが分からへんわ」
万理華の言う通り、内部進学組にとって一番違いが顕著に現れるのは学食と言っていい。
「例えばだけど、このステーキ定食ってあるじゃん?」
「中等部だとたまぁにしか出ないレア物だったけど、ここではレギュラーメニューだし」
けれどもやはり人気過ぎるのか、一日に数量が限られている。
【そりゃそうだよな。だって、A5ランクだし】
残念ながら来たのも遅かったので、ステーキ定食は終わってしまっていた。
それでも中等部にはなかった魅力的なメニューがまだまだあるし、ステーキはまたの機会に楽しみとして取っておくのだ。
【どうしよっかなぁ。今は口の中はさっぱりいきたい気分だけど…】
和食を選ぼうとした時である。
【む?この匂いはっ!】
カンカンと鉄を叩く音に、香ばしいニンニクを焦がした匂いが僕の鼻に届く。
厨房に目をやれば、パラパラのチャーハンが中華鍋の中で踊っていた。
その横では定食用に焼いている餃子も目に映る。
そんな光景を見せられれば──。
『ぎゅ~』
お腹は正直だった。
さっぱりしたものが食べたいという欲求はすぐさま上書きされ、僕の口の中は中華一色となっていた。
ニンニクの匂い?それがどうした。
食べたいのなら食べるべきである。
「結局、みんな中華なんだね」
「いや、あれは反則やろ」
「ま、匂いって言ったって皆女の子なんだしいいじゃん」
それもそうかと納得し、いざ実食へと移る。
【うわぁ、チャーハンパラパラ…!】
蓮華でひとすくいしてみれば、まるでお店クオリティである。
そして一口頬張る。
「「「「うまぁ…」」」」
一同は口をそろえて言い放つ。
口の中に入れた瞬間に広がる焦がしニンニクの匂い。
それだけではなく、もっと他に色んなうま味が口いっぱいに溢れ出し、幸せに包まれる。
続いて餃子にも手を付ける。
口に運ぶと、パリッとした食感の後に中から肉汁が溢れ出してきた。
【このひき肉とキャベツの配分最高!学食のレベル超えてるよね】
美味しすぎて手が止まらない僕らは、あっという間に完食してしまった。
「ふぅ、美味かった。なぁ冥?」
「はい!もう最高でした!」
すっかり学食にご満悦の二人。
「いやぁ、これも弁当を忘れた甲斐もあったってもんや」
【なるほど、いつもは弁当の拳野さんが珍しいとは思ったが、理由はこれだったか】
「まぁ、影野さんは購買だから融通が利くもんね」
「そうですね。母に負担はかけたくありませんし」
ここでお気づきかもしれないが、影野さんの口調が大分改善されている。
入学初日から拳野さんと共に行動するのが多く、それにつれて人見知りな部分も次第に影を潜めていった。
なんと驚くことに、部活まで拳野さんと同じボクシング部へと入部してしまったのだ。
【ま、入部って言っても影野さんはマネージャーだけどね】
けれど、彼女の性格を考えれば大きな一歩だ。
教室に戻り、席に着こうとした時である。
「あれ?拳野さん…それって」
前の席の拳野さんのカバンから、いつも見かけるお弁当の包みがチラッと見えてしまったのだ。
不思議に思った僕は思わずその事を尋ねようとする。
しかし、彼女は人差し指を口の前に一本立てた。
くるりと前を向いた拳野さんは、タブレットで一通メッセージを送ってきた。
『すまん、ちょいそれはだまとってくれへんか』
そのメッセージにOKスタンプで返す僕だったが、その後にもう一通メッセージを送ってきた。
『あとなんやけど、放課後時間ある?ちょい相談したいことあんねんけど』
すぐ目の前の席なのに、わざわざメッセージで言ってくるという彼女らしくない状況に、心がざわっとした。
僕は『いいよ』とだけ返信すると、彼女はお礼を言って場所を送信してきた。
【なんだろう…話って。あ、十百那に連絡しとかないと】
そう思ってスマホを取り出し『ごめん、今日先帰ってて』と送る。
すぐに既読は付いた。
けれども、メッセージは中々送られてこない。
しばらく間が空いた後『わかったよ』とだけ返信してきた。
間が空いた割にはやけにあっさりであったが、ひとまずは胸をなでおろす。
時間は過ぎていき、放課後。
指定された場所である、校舎裏に僕らは足を運ぶ。
「すまんな、ほんとは昼の時にさりげなく言い出そうと思ってたんけど、タイミングがなぁ」
「いいよ、とりあえず対策は出来てるからさ。それより、どうしたの?」
いきなり本題に切り込むと、彼女は頭を掻いて視線を泳がせる。
「あぁ、その…な?実を言うんとな…その…これ貰ってん」
拳野さんはカバンから一通の手紙らしきものを取り出して僕に渡した。
「中を見ても?」と確認し、頷く彼女を見て封筒を開ける。
丁寧に折りたたまれた紙を広げてみると、そこには拳野さんへの想いを綴った一通の手紙があった。
「これって…」
「ああ、そうや。ラブレターってやつや」
「送り主は…聞いたことがない子だね」
「他所の高校の子で、前に偶然変な男子高校生に絡まれとってな。困ってそうやったから、追い払ったってんけど、それが理由みたいなんや」
惚れるには十分な理由ではある。
手紙にはそれがきっかけでボクシング部にも行き、度々こっそり見学もして彼女の闘う姿に一層惚れてしまったのだとか。
「良い話じゃない。で?肝心の悩みどころは?」
「…本音を言うんやけど、ウチはこれまで恋なんてしたことがあらへんねん。だから、どう返事したらええか分からへん。そこで中等部でもモテとった勇希奈なら、いいアドバイスが貰えるんとちゃうかって思うてな」
なるほど、そういう事情か。
なんとか力になりたいが──。
【僕にできるかな…】
自分だって前までは恋なんて知らない側だったのに、アドバイスなんて。
「拳野さんの気持ちはどうなの?」
「ウチは…ごめん、分からへん」
いつも元気な拳野さんが萎れている。
まるで過去の自分を見ているようで、心がずきっと痛む。
刻一刻と時間だけが過ぎていく中、僕は言葉を振り絞るのだった。
いかがだったでしょうか?
徐々に更新ペースを戻せればいいのですが。
まだまだ未熟ですが、応援してもらえたら嬉しいです。
ではまた次回で。




