いざ、高等部
どうも、雪木です。
今回も書いてみましたので、楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ。
一ヶ月後。
春を待ちわびた桜の蕾は、膨らみを抑えられずに花を開く。
入学式も無事終わり、晴れて僕も高等部の一員となったわけであるのだが──。
「はぁぁ…」
式が終わった僕らは、クラス分けの発表を聞くために校舎入り口に移動している最中だった。
「やめてよね、入学早々そんなデカいため息」
「だってさ、万理華。クラス発表緊張するぅ…」
中等部からの顔なじみばかりなら、こんなにため息は出ない。
「それに見た?」
「外部新学生?確か、3クラス分くらいはいたけど、それがどうしたのよ。まったく、根本は何も変わってないじゃないのよ」
誰にでもすぐに打ち解けられる万理華だからできる発言である。
僕は少しは成長したはずだが、やっぱりこの感じは苦手なのは変わらない。
「ああ、新しい子ばかりのクラスだったらどうしよう…」
「ほら、シャキッとしなさいよ。アンタはいつもの通りにしてればいいの!」
万理華の言う通りであると、僕は顔を二回ほど叩いて気を引き締める。
すると、校舎の入り口付近に人集りができているのが見えた。
集まっているのがほぼ全員一年生であることから、どうやらあそこがクラス分けの発表されているところで間違いなさそうだ。
「よし、私らも見てみよう」
僕らも自分たちのクラスを確認しようと、人集りの方へと駆け寄る。
するとなんだろう。
その人集りの視線を一手に集めてしまっている気がするのは、気の所為なのか。
「気の所為じゃないわよ。アンタ本当目立つから」
そんなに目立つのだろうか。
みんなよりも少しだけ背が高いだけじゃないのか。
こういう光景も散々経験してきたから、今となっては昔ほど気にはならなくなった。
若干目線が泳ぐも、自分のクラスを確認すると──。
「あ、あった。私は…Cクラスか。あれ?万理華と同じじゃない?」
「ほんとね。てか、ちゃんと見なさい。驚くのはそこじゃないわよ」
そう言われて、改めてもう一度よくクラス表を確認してみる。
【うん?待って待って!このクラス、万理華以外ほとんど知ってる人いないんだけど…】
これこそ神のいたずらなのかと言わんばかりに、僕の配置されたクラスには、顔なじみと言える人物はほとんどいなかったのである。
中等部からの子もいるにはいるが、ほぼ関わり合いのない子ばかりだ。
「でも、良かったぁ。万理華がいてくれて」
「ま、不幸中の幸いね。さて、どんな子がいるのやら」
そこが一番の問題である。
そんな中、僕は自分の名前とは別にもう一人の名前を探していた。
「どう?想い人さんの名前はあった?」
万理華が背伸びして耳打ちしてきた。
軽く咳払いをした僕は、そっと指をさす。
「Bクラス…ね。頬緩んでるわよ」
「もう!からかわないでよ」
「少し残念だけど、それでも僕は嬉しいよ」
「っ!?」
そこにはいつの間にか、口角をわずかに上げて隣に立っている十百那の姿があった。
「いつからそこにいたの?!」
「ついさっきからだよ。尾野さんはとっくに気が付いてたみたいだけど、悲しいなぁ」
「ほら、大事な人が傷ついてるわよ」
こういう悪ノリはよくないと思うな。
「もう!からかわないでよ!」
「ごめんごめん。しかし、見事に散らばったものだな」
彼女の言う通りで、僕と仲の良かったメンバーはことごとく他のクラスに散ってしまっている。
【まぁ、でも会えなくなるわけじゃないしな。あとでどんな感じか聞いてみよっと】
「勇希奈…!!寂しいよぉ…!」
「ちょっ!陽川さん!?」
クラス発表を見た陽川さんが泣きながら僕に抱きついてきた。
「おやめなさい。はしたないですよ」
そんな彼女を少し離れたところで冷めた目で見る八嶋さんの姿もある。
「ええっと、八嶋さんたちのクラスは…」
「私はAクラスで、雛乃はDクラスですわ。ほら、とっとと行きますわよ」
そう言って八嶋さんは、陽川さんの襟を掴んで僕から引きはがしていった。
気を取り直して僕らは早速、自分らのクラスへと足を運ぶ。
「じゃあ、僕はここだから」
「うん、じゃあまた」
そして十百那は小さく手を振ってBクラスへと入っていった。
外から様子を見ていると、さすがは十百那といったところで、教室に入った瞬間からクラスメイト達の視線を一身に浴びている。
しかし、西川十百那は動じない。
時に髪を靡かせ、胸を張って歩く。
それだけなのに、その堂々とした振る舞いにクラスメイト達の心を掴んでしまっているようにも見える。
そんな姿を外から眺める僕の口角は、気が付けばほんの少し上がっていたのだった。
【さて、次は僕か…】
「緊張するなぁ」
「安心しなさい。見てられなくなった時は、助け舟くらいは出してあげるから」
「万理華ぁ…」
やはり持つべきものは友である。
ふぅっと一息吐き、いざ教室へと入っていく。
【背筋はピンッと!ちゃんと胸も張る!】
僕の外見は嫌でも目を惹くようで、このクラスでも例にもれずに視線を浴びる。
【ええっと、僕の席はっと】
黒板に貼られた席順には、僕は窓際の最後列だった。
それに対して、運悪く万理華は廊下側の最後列でかなり離れてしまった。
おまけに、僕の席の周りは外部進学のしかいないという。
ここまで来ると、もっと前世で徳を積んでおくべきだったかと後悔していた。
そんな時だ。
「よぉ!初めましてやな!」
席に着くなり前の席に座っていた、勝気な性格を現すかのような赤髪がひと際目を惹く子がぐるりと振り返って話しかけてきた。
最初こそ呆気に取られてしまったが、こうして積極的に話しかけてくれるのは悪くはない。
「初めまして。君は…」
「拳野恵茉や!大阪から外部進学でこっちに来たんよ。よろしくな」
初めてのネイティブな関西弁に若干感動を覚える僕であったが──。
「なあなあ!こっちの事色々教えてくれへんか?まだ来て日が浅くてかなわんわぁ。文化も全くちゃうし。それとそれと──」
流石は関西人というべきなのだろうか、次から次へと口から言葉が出てくる。
【すごい。これがマシンガントークというやつなのか】
よくそんなスラスラと言葉が出てくるものだと感心していると──。
「アンタぁ、何黙っとんねん。ツッコミか?ツッコミ待ちか?欲しがりなやっちゃなぁ」
誰もそんなことは言っていない。
「ん?そこのアンタ。さっきっからなにじぃっと見とん?」
彼女がそう言う先には、ただ黙ってこちらを凝視するメガネをかけた地味目な子がいた。
その子は何やら言っているようだが、ぼそぼそ喋っていて上手く聞き取れない。
すると拳野さんは急に立ち上がったかと思えば、その子の机の前に立った。
「よっこいせ。これなら聞き取れるやろ」
彼女はそのまましゃがみ込んで、その子の机の上に両手を置いて顔を近づけた。
「もしかして…うるさかった?ほんなら謝る。すまん」
だがその子は首を横に振った。
相変わらず目線は下のままだが、ゆっくりと言葉を振り絞っていく。
「あ、あの…そう…じゃなく…て。む、むしろ…ぎゃ、逆で…」
「逆ぅ?」
「ど、どうした…ら。そそ、そんなに喋れる…のかな、って」
それを聞いた拳野さんは、目を大きく見開いたあとに盛大に笑ってみせた。
「すまんすまん!そないなこと、考えたこともないわ!あははは」
ひとしきり笑った彼女は、呼吸を整えて再びその子を真っすぐ見る。
「どないしてそんな風に思うん?」
「どうして…って。いやでしょ?こんなぼそぼそ喋るの?」
「ん?別に。そんなん人それぞれなんやから、そんな人もおるんちゃうの」
その言葉にその子の顔がゆっくりと上がっていく。
まだ瞳は揺れ動いている。
「ジブン、名前は?」
「影野…冥…」
「よぅし、影野!ほならウチが話し相手になったる。迷惑かもしれへんが」
「そんなことないです!!!」
影野さんは大きな声を張り上げて首を大きく横に振った。
それまでぼそぼそと喋っていた彼女に、目の前にいた拳野さんは呆気に取られていた。
しかし、すぐに満面の笑顔に変わる。
「なんや、出せるやないか。んじゃ、その調子でアンタのこと教えてぇな。あと、そこの…」
「鞘師勇希奈だよ。よろしく、拳野さん」
その後は若干ちくはぐさも残る中、少しづつ絆を深めていく僕らだった。
キーンコーンカーンコーン。
話していると、高等部で最初に耳にする予鈴が鳴った。
それと同時にガラッと教室の戸を開けたのは、いかにも堅物そうな見た目の女の先生だった。
先生は教壇に就くなり、掛けているメガネをくいっと一回上げてから口を開く。
「えー、今日から君らの担任となった村井潤です。男性の名前みたいで、病院とかで呼ばれると多少恥ずかしいのが玉に瑕です。以後よろしく」
意外にも村井先生の口から出たひょうきんな口調に、クラス一同は驚きを隠せないでいる。
【そりゃあ、あの見た目でねぇ。人は見かけによらずとはよく言ったもんだよ】
この学校には実に個性的な先生ばかりである。
「それでは、さっそくHRでの自己紹介タイムといきましょう。ですが、ただ単に自己紹介というのも面白みに欠けるので、一つ条件を出しましょうか」
クラスメイト達は一斉に生唾を飲み込む。
「自己紹介をする前に、私がお題を出します。皆さんはそのお題に大喜利で答えてください。私が合格と認めたら自己紹介タイムという一種のゲームを交えます。安心してください、強制するつもりはなく、イヤな人や答えられなかった人には、帰りのHRで再度大喜利なしでの普通の自己紹介の時間を割きます。いかがでしょうか」
先生の無茶ぶりに一部は反発する声も上がるかと思いきや──。
「いいよ!やろやろ!!」
「てか村井ティーチャー面白いこと考えるやん」
一部では確かに不安な声もあるが、大半のクラスの反応は、かなりノリノリのアゲアゲ状態に包まれている。
僕を除いては。
【やばいぞ。だって、もし滑ったりなんかすると…なんて恐ろしいことを考えるんだよ】
お笑いなんて全然見ないからと、どうしようかと思っている最中。
「いよっしゃー!ウチの出番やないか」
前の席にいた拳野さんが両手を上げて、高らかに喜んでいる。
【そっか、拳野さんは関西の人だからこういうのには強いんだ】
隣を見てみると、静かそうな感じが変わらない影野がいて、謎の安心感が芽生える。
が、雰囲気だけが何だか違うような気もするが──。
「はい、皆さん賛同してくれたようなので、早速第一問です」
そう言うと先生はリモコンを取り出して、黒板の隣にある大型ビジョンに、一人の男性が大きく目を見開いているだけのイラストを映し出す。
「こちらの男性は何をしているでしょう。イッツシンキングタイム!」
すると勢いよく真っ先に手を挙げたのは──。
「お、早かったですね。では影野さん、どうぞ」
「はい。『※このコンタクトレンズは本当に乾きづらいのかを検証しています』」
「合格です」
影野さんの答えにクラスは笑いに包まれた。
なんと物静かな彼女に、こんな一面があったのかと感嘆しきりな僕である。
「初めまして…影野…冥…です。いち…おうお笑いが…好きです」
大喜利の後はきっちり元の姿に戻っていた。
どうやらかなりのお笑い好きのようで、大喜利と聞いた時から心の中ではわくわくが止まらなかったようだ。
「良い答えが出たところで、次のお題に参りましょう」と、次々に画面にイラストや写真が映し出される。
白熱するクラスに、僕は未だに一問も手を挙げられずにいた。
【うぅ…もっとお笑いとか見とくんだった…。よし、こうなれば!】
「では、次のお題は──。」
「はい!」
「鞘師さん早かったですね、どうぞ」
半分破れかぶれで手を挙げたお題は、一枚の魚が小魚を捕食する瞬間を撮った写真で、これでボケてというものだった。
【ええい!考えろ!中等部成績総合一位の頭よ!】
その頭から導き出された答えは──。
「はい。『え!?ここから入れる保険があるんですか!』」
かろうじて知っているネタの一つである。
僕とは違ってよくSNSを見る舞依華を、隣で見ていた記憶から引っ張りだしたのだ。
「…まぁ、合格としましょう」
若干空いた間と滑り気味の空気が怖かったが、なにはともあれ合格には違いない。
「ありがとうございます」と一言お礼を言い、自己紹介に入る。
「鞘師勇希奈です。中等部からの内部進学で、部活は剣道をやってましたので高等部でも続けていく予定です。好きなことは──」
そうして自己紹介が終わると、一斉に拍手が沸き起こった。
ほっと肩を撫でおろして着席したら、前の席に座っていた拳野さんが手を後ろに回してグッドサインを出してくれていた。
廊下側に座っている万理華も、わずかに眉間に皺を寄せてはいるものの、同じくグッドサインを出してくれていた。
こうして愉快な僕の高等部生活の幕が上がったのである。
いかがだったでしょうか?
最近は本業の仕事が忙しかったりと、書くのに一苦労でありますが、それでもなんとか書いてます。
まだまだ未熟者ですが、引き続き応援してもらえると嬉しいです。
では、また次話で。




