デートです
どうも、雪木です。
今回も頑張って書いてみたので、楽しんで貰えると嬉しいです。
デート当日の朝。
僕はまだベッドの中にいた。
【なんか…心臓がドキドキしちゃって、全然寝付けなかったな…】
それだけではなく、部屋の白い天井を見つめていると、色んな想像が膨らんでしまったのも追い打ちをかけた。
音楽でも聴いてリラックスをしようものならば、流れてくるのは恋愛ソングや失恋ソングばかり。
【ああ、もう!瞑想しても余計に色んなこと考えちゃって結局寝付けないし…】
終いには竹刀を持っている体で、エアー素振りをして無理やり気を紛らわせるという強硬手段に出た。
結果的に落ち着きはしたものの、気が付けば時計の針は、俗に言う丑三つ時を回っていた。
【落ち着いたのはいいけど、汗かいちゃった身体でベッドに行くのもなぁ…】
結局シャワーを浴びるハメになった僕は、絶賛寝不足気味なのである。
大きなあくびをしながらベッドを出て、早速昨日選んだ服に袖を通していく。
着替え終えた僕は、鏡の前に立つ。
「あれ?なんだろう…」
鏡に映っているのはいつもの自分、自分の持っている服であるはずなのに。
【なんで…ちょっとキラキラ?して見えるんだろう】
それだけじゃない。
寝不足であるのにも関わらず、さほど眠気も感じないし、とにかく色々違う。
再び鏡に視線を向けると、今度は十百那の顔が脳裏に浮かぶ。
すると僕の顔は徐々に赤らんでいく。
【なんでぇ…冷めろ冷めろ!】
この服を見た彼女の反応を想像するだけで、口角も緩んでしまう。
「そ、そうだ。確か…あった!」
鏡のすぐ隣にある引き出しから取り出したのは、舞依華からもらった化粧品の数々だった。
【メイクの仕方は大体教わったけど…ええい!うだうだするな!僕らしくない】
意を決して人生初の本格的なメイクに挑戦していく。
そして集合場所。
一歩一歩その場所へと近づく度に、心臓がトクントクンと小さく跳ねる。
時折耳から垂れた髪をかき上げる。
「あっ…」
約束の場所から遠目に十百那が見えた。
その瞬間、僕は視線を下に落としてしまう。
【服やっぱりこれでよかったの?お化粧も派手すぎじゃないかな】
家であれほど自問自答して自分で答えを出したつもりなのに、彼女を見たら一気に不安ばかりが押し寄せてきてしまう。
そうして下を向く僕の視界に、十百那のつま先が入ってくる。
「どうして、下を向いてるの?」
彼女の言葉に身体がびくりと反応した。
僕はゆっくり恐る恐る顔を上げて、彼女の全身を視界に入れていく。
「おはよう…ど、どうだろう…か」
一見いつもの十百那だが、ほんのり赤く塗られた唇や、ポニーテールをやめて普通のロングヘアスタイルなど節々に変化が見られる。
その変化を前にし、僕は言葉を発せられずにいた。
「だ、だだ、黙ってないで…感想とか言ったら…どうなんだ」
「っ!…き、綺麗…だよ」
今思っているすべてのことを言葉にして振り絞った。
すると彼女も顔を真っ赤に染め上げ、視線も泳いでいる。
「わっ!私が言ったんだから、次は十百那の番だよ!」
そう言うと彼女は、若干伏し目のまま「綺麗なんじゃないか」と言う。
【はぁ、まったく…】
そして僕は未だに下を向く十百那の顎に手を伸ばし、そのままくいっと持ち上げる。
「ちゃんと目を合わせて言って。下を向くなんて十百那らしくないよ」
揺れ動く瞳に、口は半開き。
生唾を一回飲み込んだ彼女は、か弱い口調で口を開く。
「き、綺麗だ。とても」
ずきゅんっと、まるで雷に打たれたかのような衝撃が僕の胸に走る。
【自分でやれと言っておいてなんだけど、これは…!】
ダイレクトアタックにより、思考が停止してしまう。
その後、互いに無言の時間が続いた僕らは、そのまま何も語らずに歩き出す。
しばらく歩いた。
車の走る音、周りの人々の話し声がやけに鮮明に聞こえる。
時折チラチラと隣に視線を向けてみるが、彼女はあさっての方を向いてしまっている。
【どうしよう…タイミングが】
口を開けても、言葉が出てこない。
そんな時──。
「えっ。十百那…?」
彼女が伸ばしてきた人差し指と僕の人差し指が軽く触れる。
そのまま十百那は指を絡めていく。
「ずっと…ずっと。こうしたかった」
「…私も」
胸がドキドキしすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
その一方で空いた時間の隙間を埋めるかの如く積極的になっていく彼女の指は、一本また一本と、徐々に絡める指の本数を増やしていく。
やがて僕の手を包み込んだその手は、優しく握ったかと思えば掌をこすり合わせたりしてくる。
それに反応するかのように僕の方も握り返したりする。
だが、目線だけはお互いに逸らしたままという、なんとも不思議な光景である。
それでも今の僕らには、それでも十分だった。
そうしているうちに、目的地である制服屋へと到着した。
「いらっしゃいませ。高等部の制服の採寸でよろしいでしょうか」
そうだと伝えるなり店員の女性は、早速手際よく僕らの背丈などを測っていく。
【ふぅ、やっと制服が変わるのは嬉しいな。だって成長早いんだもん】
流石は母の遺伝子というべきなのか、あれから身長は六センチ伸びたなど随所に成長が見られるが、とりわけ目立つのは──。
「あら、ご立派なものをお持ちで」
「あ…あはは。それはどうも」
入学当初の慎ましかった双丘は、この卒業までの間までに急激に成長を果たし、それは見事なものへと育った。
「いやでも、すごいな」
「重いし肩凝るだけだよ。剣道でも防具着けるの大変なんだから」
「まぁ、大変そうではあるよな」
それだけではない。
なまじ豊かに育ったおかげで、羨望の眼差しを向けられることもあれば、嫉妬混じりの目を向けられることもしばしばなのだ。
【てか、またきつくなってきたな。つい半年前に一つ上のサイズで買ったのに…】
未だに成長の兆しを見せる双丘に困惑の色を隠せない。
そして採寸が終わり、試着をしてみる。
「へぇ、高等部だとこんな感じなんだ」
「良くお似合いですよ。お客様の場合は脚も長いですし、パンツスタイルの方が見栄えします」
これ以上見栄えを良くしても困るのだが。
「まあ!こちらも素敵ですね」
試着室から出てきた十百那だった。
彼女も僕と同じくパンツスタイルという出で立ちであるが、肩から流れる美しく黒髪も相まって、まさに王子様という感じだ。
「お二人とも良くお似合いですね。記念にお写真でもお撮りしましょうか」
僕は十百那の方に目をやると、彼女は静かに首を縦に振った。
僕は店員の女性にスマホを渡して、こちらに向ける。
「はい、では撮りますよ」との合図と共に、パシャリとシャッター音が鳴る。
そうして僕らは新制服の記念撮影として一枚撮ってもらった。
二人並んだ写真は、表情も硬くぎこちなくて正直良い出来栄えとは言い難い。
それでも僕らは、その写真をお気に入りのフォルダに大切にしまい込むのだった。
無事制服の発注も終わり、店を出た僕ら。
「さて、どうしようか」と尋ねる僕に十百那はスマホの画面を見せてきた。
「なになに。『絶品!いちごたっぷりのデラックスパフェ』?これ食べに行きたいの?」
「だって、美味しそうだし」
確かに美味しそうではあるし、いかにも女の子が好きそうな装飾でもある。
良さそうだなと思い始めていたが、下にスクロールしていくと、可愛らしくない数字が現れた。
【ええっと、今日いくら持ってきたっけ?】と、恐る恐る財布の中を確認してみる。
悲しいかな、我が財布の中は年相応に寂しいものだった。
これでは仮に食べれたとしても、帰りの運賃でほぼ消えてしまう。
【お小遣いの日までまだあるしなぁ。でも…】
彼女の食べたそうな無邪気な顔に、財布の中身などどうでもよくなってしまった。
「いいよ、行こうか」
「本当に!?やった」
幸いにもそう遠くはなく、歩いてほどなくして着いてしまった。
当然ではあるが、並んでいる大半は女性客で十代がほとんどを占めている。
【うわぁ、みんな可愛い子ばかり…】
列の最後尾に並ぶが、どう見ても周りとは浮いている。
「ねぇねぇ、あの二人」
「うん、すごいスタイルだよね」
なんだか、周りの視線を集めてしまっているようで落ち着かない。
店内に入って席に座った僕らは、早速パフェを注文するが──。
「申し訳ございません。こちらの商品は数量限定となってまして、あとお一つしか…」
確認してみると確かに数量限定と書かれている。
「じゃあ、その一個ください」
僕は迷いなく残りの一個を注文する。
「ま、二人で分ければいいかなって。ダメだった?」
「僕は別にいいよ。それに二人で食べた方が楽しいだろ」
言われればそういう楽しみ方もあるか。
てっきり自分としては、食べたがっていた彼女に全部食べてもらうつもりでいたので正直嬉しい。
「お待たせいたしました。『いちごたっぷりのデラックスパフェ』でございます」
ようやく来たパフェは、その名の通りたっぷりのいちごが使われた豪華絢爛というべきにふさわしい装いである。
店員さんがパフェをテーブルに置こうとした時であった。
「ええ!売切れちゃったんですか?」
「申し訳ございません。本日はもう…」
恐らくこのパフェが目的だろうか。
斜め向かいの席に座る若い親子が、残念そうにしているのが見えた。
「せっかくちばのおうちからきたのに」と駄々をこねる子供を母親が必死に宥める。
その姿を見てテーブルの上にあった拳を握りしめていた僕だったが──。
「すみません、僕らはいいのであちらの親子にあげてください」
「よろしいのでしょうか?」
「私らは別のを頼みますので」
そう言って店員さんは、パフェを斜め向かいの親子に持って行く。
事情を聞いた親子らは目を丸くして驚いていた。
早速手を付けようとする子供だったが、母親が制止する。
その母親が席を立ち上がり、こちらに向かってきた。
「若いのにありがとう。良かったら、あなたたちの注文するものを奢らせてくれないかしら」
予想外の申し出に今度はこちらが目を丸くしてしまう。
「いえいえ、そんな!僕らはそんな!ね?」
「そうですよ。私らは別に…」
「いいのよ、これは私からの気持ちなんだから。気にしないで」
こうしてご厚意に甘えることとなった僕らは、レギュラーメニューのパフェを二つ頼むのだった。
パフェが届き、何口か食べ進めていくと──。
「よ、よかったらなんだが…その…勇希奈のを一口くれないか?」
僕はいいよと言ってパフェを差し出すが、彼女は首を横に振る。
「ええっと、そうじゃなくて…」
【はっ!まさか!?】
やっと彼女の言っていた意味を理解すると同時に、頬が熱くなっていく。
「はい、あーん」
スプーンでひと掬いして僕の口に向けてくる。
それを【ええい!どうにでもなれ!】と思いきって口に運んだ。
口の中ではさくらんぼの甘みが広がるが、僕の知っている味よりも、なんだか甘い気もした。
「ねぇ、僕にもちょうだい?」
両手の上に顎を乗せた彼女は、今度は僕の番だと言わんばかりである。
僕もスプーンで自分のパフェをひと掬いし、彼女の口へと向ける。
差し出されたスプーンをパクリと頬張った十百那は、その味を噛みしめる。
そして、もう一口と言わんばかりに再び口を開ける彼女に対し「調子にのらないの」と軽くスプーンでコツいた。
「ちぇ。いいじゃないか別に」
「よくない。ほら、周りをよく見て」
周りを見渡すと、店内の女の子らの視線を僕ら二人が独占してしまっている。
それもそのはずで、ただでさえこの可愛らしい空間にミスマッチな凛々しい僕らが、互いのパフェを食べさせ合っているのだ。
注目されない方がおかしいというものだろう。
あまりに自分らの世界に入り込んでしまった反動で、急に恥ずかしさが襲って来た僕らは、パフェを食べる手を早めるのだった。
パフェも食べ終わり、さっきの母親に再びお礼を言って店を出た。
さて、ここでさよならしてもいいかもしれないが、まだその時間には早い。
「次、どっか行きたいところある?」
「そうだなぁ。色々あるけど…ここはどうだ?」
次に彼女が行きたがった場所は、いつも僕らがお世話になっている武道具店だった。
「高等部に上がるんだから、竹刀も高校生用のやつ買っとかないとな」
「まだ買ってなかったから丁度いいね」
こうして次は武道具店へと足を運ぶ。
お店に着くなり僕らは早速、高校生用の竹刀を手にとってみる。
「やっぱり中学生用に比べて重いね」
「長さも違うからな」
何振りか素振りをして感触を確かめてみると、やはり重いせいか、いつもよりも剣筋が鈍い。
【ふぅ、また筋肉付けないとなぁ】
対する十百那も、慣れない竹刀に振り回されているようだ。
「それだけじゃないよ」
僕らの素振りを見ていた部道具店の店主が、店の奥から出てきた。
「高校生にもなれば、中学生にはなかった技の一つである、突き技が増えるから気をつけなさい」
中学生までは禁止されている突きや二刀流だが、高校生から解除となる。
そんな新しいステージに僕らは、自然と心が踊るのだった。
いかがだったでしょうか。
ちょっと遅い更新には訳がございまして、実は自分、ぎっくり腰をやってしまいまして。
座るのも寝るのもキツいですが、なんとか書きました。
まだまだ未熟ではありますが、応援していただけると嬉しいです。




