そして、高等部
どうも、雪木です。
今回も頑張って書いてみましたので、楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。
季節は廻り、桜がまばらに咲き始める頃。
「ねぇ、見て見て!!鞘師先輩よ!」
「鞘師先輩、いつ見ても綺麗よねぇ」
「高等部の制服も似合うんだろうなぁ」
あれから二年の時が経ち、三年生となった僕は今日中等部の卒業式を迎える。
そんな僕にも後輩ができたりと、色々感慨深いのだが──。
【なんか…落ち着かないなぁ】
校門を潜るなり後輩らの注目にさらされている僕は、はにかんで手を振ってあげる。
すると彼女らは「きゃー!」と黄色い声をあげて喜んだ。
「いつも注目されてご苦労なことね」
「おはよ。そういう万理華だって、今や生徒会長だから憧れの的でしょ」
「いやぁ、『桜の騎士』ほどじゃないって」
「やめてよ、恥ずかしい」
まったく誰が付けたのやら。
この卒業までの間に、剣道の大会で優勝して部も全国区に押し上げた。
その卓越した剣道の腕前や、凛とした佇まい、道着が桜色なのもあっていつしか『桜の騎士』などという通名が付いていた。
「おかげで部活にも見学者が来て大変なんだから」
「隠れファンクラブもあるみたいだし、人気者の宿命ね」
「なにそれ、初耳なんだけど!?」
自分の与り知らぬところで、そんなものができていたとは。
そんな事実に目を丸くしていると、校門の方からひと際大きなざわめきが聞こえてくる。
「きゃー!西川様よ!!」
主は登校してきた十百那だった。
すらりとした長身に一つに纏めた長い黒髪の出で立ちは、後輩らの目を惹くのには十分すぎる。
そういう彼女も、剣道部のダブルエースの一角として僕に並ぶ成績を収め、学業でも必ず上位三人には名があるなど文武両道ぶりも健在である。
【相変わらず凄い人気だなぁ。武道館にもファンが来てるし…あ、それは僕もか】
そんな時だった。
「あっ…」
遠くから眺めていた僕と十百那の目が合ったのだ。
彼女は周りに気付かれないように、こちらに向かってウインクをしてきた。
そうして何事もなかったかのように、去っていく。
「大丈夫?顔赤いよ」
それだけではない。
彼女のウインクを受けてしまった僕の心臓が、ドクンと大きく一回跳ねた。
頭を横に二回振り、気持ちを整える。
「大丈夫、大丈夫。なんでもないからさ」
「ならいいんだけど。それよりもあの件はいいの?」
「今その話するぅ?」
へなへなと顔を覆ってその場に座り込む。
「もしかして…」
「いやいや!それはないって、さすがに」
二年間という期間は、答えを出すのには十分すぎるほどの猶予だった。
あとはLimuでもなんでも呼び出せばいいだけ。
なのだが──。
「その様子だと…」
「そうだよ!まだ誘えてないんだよ!!悪かったね!チキンでさ!」
「ああ、自覚はあるのか」
部活など普段でも良き『友人』として振舞っていたから、その時になったら言えるだろうと思っていた。
しかし、いざ昨日の夜に送ろうと思っても、送信のボタンが押せなかった。
「送信文は書けてるんだよ。あとは送るだけなんだけど…」
「…ちょい、見せてみ」
僕は彼女とのトークルームを開き、万理華に見せた。
すると彼女は、無情に送信ボタンを押そうとする。
「ちょいちょい!待った!」
「この意気地なしめ。だったらさっさと送信ボタンを押す!」
「うぅ…」
万理華に見守られながら送信ボタンを押した。
言い方はどうかと思うが、彼女なりに背中を押してくれたくらいは分かる。
その親友の為にも、二年も待ってくれた十百那の為にも逃げてはいけない。
それはあの時心に誓ったではないか。
そうして僕は、中等部最後の教室へと向かう。
準備を済ませ、僕らは卒業式の会場である第一体育館に行く。
そして、いよいよ卒業生入場の時がやってきた。
入場と同時に満場の拍手が体育館内に響き渡るのが、外で待機していた僕の耳に届く。
【うわぁ。ま、あれだけ人数がいればね】
いよいよ僕たちの入場順がやってきた。
体育館に入り、拍手喝采の中を歩んでいく。
【あ、父さんと母さんだ】
僕の晴れ舞台を見に来た母と父が保護者席に座っているのが見えた。
周りの保護者らと一緒になって拍手を送る姿に、僕の肩の力は自然と抜けていった。
式は順調に進んでいき、いよいよ終わりがすぐそこまで迫ってきている。
そんな中、僕はと言うと──。
【やばい。心臓のバクバク止まんないよぉ】
式が終わりに近づくにつれて、心音が高鳴っていく。
とうとう式が終わり、卒業生退場のアナウンスが会場内に流れるとAクラスから順に体育館を後にしていく。
クラス替えもあり、僕はCクラスであるのに対し彼女はAクラス。
しかも、よりにもよって僕の席は、卒業生が通る通路の真横である。
だが、視線は真っすぐ向いたまま逸らさない。
【だって、逃げないって決めたんだから】
そうして十百那が僕の横を通り過ぎようとした時。
【あ、まただ…】
チラッと彼女の方に視線をやると同時に、向こうも視線を送ってきており、目がバッチリあったのだ。
またドクンと跳ねる心臓。
けれどそれは、ただ彼女を見たというわけではない。
【今…笑ってた?】
ほんの一瞬だったから定かではないけど、すれ違いざまに見えた彼女の口角は、自分の目には上がっているようだった。
その後、僕は拳を固く握りしめて会場を後にした。
教室で中等部での最後のホームルームも終わり、教室の外にはお世話になった先輩らに挨拶をと、在校生らが待ち構えている。
後輩らへの別れの挨拶や、クラスのみんなとの記念撮影も済ませて、約束の地へと赴く。
【まだ、いない…か】
指定した旧校舎裏に来てみたものの、彼女はまだいなかった。
制服の袖を握りしめ、時折ふーっと息を整える。
「ん?」
視線も泳ぐ中、ふと建物の曲がり角の先で人影が揺らめいているのが見えた。
「…十百那?」
僕の問いかけに、その人影はビクッと反応した。
けれども物陰から姿を現そうとはしない。
どうしたのかと静かに近づいてみると。
「そんなとこにしゃがみ込んで、どうしたの?」
そこには顔をうずめて小さくしゃがむ十百那の姿があった。
「だって…」
顔をうずめたままの彼女は、ほんのり耳を赤らめて言った。
そんな彼女に対し僕は──。
「ごめん、待たせちゃって」
小さくなる彼女の上から、そっと抱きしめた。
「勇希奈…」
「どうかした?」
「なんというか…この二年間ですごい成長したよね。どこがとは言わないけど」
何を言い出すのか、この子は。
確かに二年生の後半から急に成長しだしたのは事実だが。
「もう…!こんな時にバカ言わない!」
「ごめん、ごめん。でも、ありがとう」
やっと顔を上げた彼女は、いつものカッコつけた笑顔ではなく、年相応の少女のそれだった。
その一瞬、それまで高鳴っていた僕の鼓動が鳴りやんで──。
「好きだ…」
気持ちよりも先に言葉が出ていた。
口にしたことに気が付いた僕は、一気に全身に熱が駆けまわり口を抑える。
【いやいやいやいや!!何言ってんの僕!?今言うところじゃなくない?】
「ねぇ…」
そう言った彼女は、真っすぐに僕の方を見つめている。
ふーっと大きく息を吐き、身体の熱を冷まして口を開く。
「…考えたんだ、ものすごくね。十百那との関係性が『恋人』から『友達』に戻って、色んなことが分かったんだ。本当に色々あるけど、一番は…」
そんな時、一陣の春風が吹いた。
僕らは思わず顔を隠すが、僕だけは隙間からほんの少し目を開けていた。
【ああ、やっぱりこれだ】
風がやみ、僕は再び口を開く。
「ごめん、途中で言いそびれちゃった。一番はね、あれ以来いつも街並みも風景も、何もかもが色のついてない…ええっと、モノクロ?みたいに感じてさ。でも、不思議だよね。久しぶりに抱きあったとき、すべての景色が色鮮やかに見えたんだからさ」
一息おいて、胸の前に手を置き──。
「私の隣を一緒に歩んでほしいんだ。これからも、ずっと…ずっと!」
やっと言えた。
悩みに悩んで、何度も自問自答をしてたどり着いた答えだ。
「勇希奈…泣いて…」
「ふっ。それは十百那もでしょ?」
互いの目には積年の想いが大粒の涙となって溢れ出してきている。
そして再び抱き合った僕らは、しばらくそのまま互いの肩を濡らすのだった。
少ししてやっと落ち着いた僕らは、繋いだ手を離さずに近くにあったベンチに腰掛ける。
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「ええっと、今更聞くのもアレだけど…僕のどこを好きになってくれたのかな…って」
握った手をもじもじしながら問いかけた。
僕はその手を力強く握り返す。
「色々あるけどね…」
「色々!?」
「そういう私の前だけでコロコロ変わる表情とかも好きだよ」
彼女は、再び顔を真っ赤にしてあさっての方向に逸らしてしまった。
「他には」と言いかけるが、ちょっとタイムと言って制止してきた。
「ごめん、嬉しいんだけど、流石に一気はキャパオーバーだ…」
それならば仕方がない。
僕らは手を携えながら、ゆっくりと立ち上がって校舎へと向かう。
家に帰り、卒業式の余韻もそっちのけで僕はスマホを取り出す。
「はぁ…」
上機嫌にベッドに飛び込み、足もパタパタしながらスマホの画面を眺めている。
「ユキ姉入るよ…ってご機嫌だね」
時が経ち、すっかり中学生となった桜士郎が訪ねてきた。
彼も無事行きたかった学校へと進学し、充実した毎日を送っている。
「まい姉がモデル稼業で忙しいから、卒業祝いで渡しといてってさ。あと、これは俺から」
「お、うれしいじゃないの。どれどれ」
まずは桜士郎の方から開けてみる。
片手に収まるほどの小さな箱の中からは、桜の柄があしらわれた手ぬぐいがあった。
「いいじゃん、ありがと」
「まぁ…ちょうど武道具屋に行ったら、似合うかなぁって」
少し照れくさそうにする彼に、僕の頬が緩む。
今度は舞依華の方を開けてみると、万年筆という意外なチョイスだった。
「へぇ、まい姉が珍しいな」
「うん、てっきり美容系かと思ったよ」
それでも嬉しいことには変わりない。
よく見ると万年筆には、僕の名前が掘ってある。
【ふふっ。これは大切にしないとね】
「…ユキ姉、なんだかいつも以上に機嫌良いけど、なんかあったの?」
「さぁねぇー」
僕の言葉に桜士郎は不思議そうに首を傾げた。
その後、卒業祝いでごちそうでも出るかとの期待通り、食卓にはお寿司が並んでいた。
お寿司に舌鼓を打った後は、お風呂に入りながら今日撮った写真をスマホで見返しながら、思いにふけっていた。
【来月から高校生かぁ…そういえば編入生も来るんだよね】
今後に向けての様々な思いが交差する中、ふと湯舟に浸っている足に着けられたミサンガが目に映る。
「十百那…」
彼女の名前が刻まれたプレートを握った。
あの夏祭りからずっと着けられたミサンガは、糸のほつれがかなり目立ってきていた。
そのミサンガを時折指に巻き付けたりして、スマホの指も止まっている。
ピコンッ
スマホに一件の通知が来た。
『やぁ、今どうしてる?』
十百那だった。
彼女だと分かった僕の頬が少しだけ緩んだ。
『今はお風呂に入ってるよ』
『そうか。こっちはやっと家族の卒業祝いパーティーが終わったところだよ』
送られてきた写真には、和気あいあいと家族の時間を送る彼女の姿があった。
【初めて十百那のお父さんの顔見たなぁ。似てる…】
「こらー勇希奈。いつまで入ってんの?後がつっかえてるから早く出なさいよ」
「はーい!」
いつも以上に長湯をしてしまったらしく、手の皮がふやけきっている。
慌ててお風呂から上がり、リビングでスキンケアをしながら十百那とのやり取りを再開する。
『ええっと…もし、都合が合えばでいいんだが、明日一緒に制服合わせに行かない…か』
『いいよ、何時にする?』
『…十時くらいなら…どう?』
『おっけ、十時ね』
ここで僕はある事に気が付く。
【あれ?これって、もしかして…】
もう一度やり取りを見直してみると、彼女のメッセージがどこかぎこちない。
ここでやっと僕は確信する。
【間違いない…!デートのお誘いじゃん!!】
そう意識してしまった僕は、思わず口を覆って自分の部屋へと走っていく。
そのままの勢いでベッドにダイブし、枕に顔を埋めた。
「うぅ…。うぅ…!」
枕に情念をぶつけ、心を落ち着かせようと試みる。
しばらくして落ち着いた僕は立ち上がってクローゼットを開け、何着か服を取り出して自分に合わせる。
【これだと変かな…だったら、こっち?】
一応ファッションセンスもモデルをやっている妹や、クラスメイト達のおかげであの頃よりかは大分磨かれはした。
しかし、デートとなると話は変わってくる。
【うーん、中々決まらないなぁ】
「お姉ちゃん、何やってんの?」
「舞依華!」
モデルの仕事が終わった舞依華が怪訝そうな顔でこちらを覗いている。
「実はさ…と、友達と出かけるんだけど、ちょっとオシャレしたいなぁって思っててさ。中々決まらなくて…」
苦しい言い訳だが、残念ながらこれしか思い浮かばなかった。
「ふーん。じゃあ、これとこれなんかどう?」
「ありがとう!でも、ちょい派手じゃないかな」
「シックなら…そうねぇ」
なんとか誤魔化せたようでなによりである。
こうして舞依華との服選びをして、翌日に備えるのだった。
いかがだったでしょうか?
一応まだまだ続ける予定ですので、未熟者ですが応援してもらえれば幸いです。
では、また次話で。




