夏休み ⑧
どうも、雪木です。
今回もこんな感じで書いてみましたので、どうか楽しんでいただけたなら幸いです。
では、どうぞ。
夏の夜風に提灯が揺られ、あちらこちらから楽しそうな音楽や、勇ましい屋台の店主の声が木霊する。
そんな中、僕は慣れない浴衣に戸惑いながらも人混みをかき分けて行く。
【ええっと、確か待ち合わせ場所は…】
十百那と前日に交わした、約束の場所へと向かう。
目的地が近づくにつれ、胸の鼓動がとくんとくんと跳ねる。
この鼓動はなんだろうか。
自分の浴衣を見てもらえるからだろうか、はたまた、それとは別の何かか?
その正体が何か分からぬまま、僕は駆けていく。
そうして約束の場所である、祭り会場の近くの神社に着いた。
【はぁ、はぁ、十百那は…?】
時間に余裕を持って家を出たが、途中で電車が遅延してしまい、予定の時間よりも大分ギリギリになってしまった。
冷静になってみれば、Limuで伝えればいいだけの話なのだが、この時の僕はソレが頭になかった。
「どうしたの、そんな息を切らして」
狛犬の前に立っている十百那が、不思議そうな顔で立っていた。
「ご、ごめん。電車が遅延してて…。ギリギリになっちゃった」
「…そっか。怪我とかない?」
僕はコクリと一回頷いた。
だが、彼女の表情は固いままで、じっと僕の足元に目線を送る。
「ごめん、実はここに走ってきたから…」
慣れない下駄を履いてきてしまったのが仇となり、足の親指と人差し指の間が擦れて痛みが出てしまっていた。
幸いにも血までは出ていないが、このまま歩くには少し辛い。
そんな時、彼女は巾着から絆創膏とテーピングを取り出し、僕に施す。
「これでどうだ?」
「すごい、さっきよりも痛くないよ。ありがとう!」
十百那は顔を赤く染めて小さく頷くと、突然立ち上がった。
「ど、どうだろうか。変…じゃないか?」
彼女も同じく浴衣姿であり、この間のお茶会とは逆に、白を基調とした涼やかな色合いでとても可愛らしい。
「綺麗だね。私も…変じゃないかな…?」
僕も立ち上がって、彼女に見せたかった浴衣を見せる。
期待と不安が入り混じる中、彼女はただ僕を見つめていた。
すると彼女は僕の手を握ったかと思えば、グイッと自分の方に引き寄せ、耳元で一言。
「すごく綺麗だよ」
そう囁いた。
彼女がこちらに顔を向けようとするが、僕は「まだこっち見ちゃダメ」と顔を抑えた。
【十百那に…こんな顔、見せられないよ…】
そう感じている顔は、まるで提灯のように赤く染められ、収めるのにも一苦労だった。
気を取り直して、僕らは手を取り合いながら祭り会場に向かう。
「あ!見て見て勇希奈!あれやろ!」
「アレっていうと…金魚すくい?」
「実はやったことないんだ。ね、やろうよ」
「実は私もなんだよね。よし!やるか!」
そう言って僕らは、人生初の金魚すくいをやってみるのだが…。
「あちゃあ。もう破けちゃったよ」
「中々難しいね」
「お嬢ちゃんたち初めてかい?なら、ポイもう一個サービスだ!これで取れなかったら一匹ずつ持っていきな!」
店主の心意気にお礼を言いつつも、最初のポイでなんとなくコツが分かってしまった僕は、次々に金魚を掬っていく。
明るかった店主の表情が、次第に曇っていくのを察したところで、わざとポイを破いて終了とした。
捕れた金魚の大半は飼いきれないので、お店に返し、残りを十百那と分け合った。
「勇希奈から貰った金魚かぁ。大切に育てるよ」
「可愛がってあげてよ」
「もちろんだとも!一匹一匹に名前を付けて毎日愛でるよ」
そんなに愛情を注いでしまったら、金魚らも大変ではないだろうか。
次の屋台はどれにしようかと悩んでいると、またしても十百那の目が、ある屋台で止まる。
「ねぇ、アレって…」
彼女が指さす先にあったものは、よくカップルがやっている、ハートをかたどった二つのストローで、一つのジュースを飲むやつだ。
【まあ、あれなら確か女の子同士でもやってる人もいるからいいか】
「いいよ、飲もうよ」
「いいの!?やった!!」
そのジュースを買い、すぐ横のテーブルに腰掛けて、早速ストローに口を近づける。
【あれ?思ったより…】
「ねぇ、十百那?」
「こ、これは…ちょっと、なぁ…」
見るのと実際にやってみるのは違うというが、まさかここまで顔が近いとは。
それは彼女も同じらしく、あまりの近さにお互いに目線が泳いでしまう。
飲みきった頃には、なんとも言えない空気になっており、そんな空気を打破すべく気を取り直して次の屋台へと繰り出す。
だが、ここで僕はふとスマホを取り出して時間を確認する。
「あ、もうすぐ花火の時間みたいだよ」
「それは大変だ。でも河川敷はもう人でいっぱいだよ」
「それは任せて。私、とっておきのスポットがあるからさ」
そのスポットとは、昔父に教えてもらった花火大会の極秘の特等席である。
河川敷とは真逆の方向に歩き出す僕に、彼女はソワソワし始める。
「十百那、ちょっとここらは目を瞑ってね」
そう言って僕は、彼女の目を瞑らせて手を引く。
しばらく歩いたところで足を止めた。
「さ、目を開けていいよ」
僕の言葉に彼女はゆっくりと目を開ける。
その瞬間だった──。
『ドオン!!』
夏の夜空に満開の大輪が花開く。
最初の一発が打ち上がると、空を立て続けに彩っていく。
「どう?こんな近くで見る花火は?」
「…綺麗」
十百那はすっかり花火の虜になっていた。
夢中になっている彼女に対して僕は、ふと視線を隣に向けた。
その時、一際大きな花火が十百那を照らした。
【あれ?まただ。今度は走ってもないのに】
息も切らしておらず、何もしていないのに心臓がとくんと跳ねた。
「うん?どうかしたか?」
視線に気づいた十百那が、こちらに目を向ける。
「いや?別に」
「…ふーん、変なの」
慌てて表面だけでも平静を装っていたが、内心は全く穏やかではない。
さっきよりも心臓の鼓動が、まるで花火の音のようにうるさいのだ。
それにつられ、表情にも現れないかと僕は必死で花火どころではない。
【花火綺麗だけどさぁ。だけどさあ!!】
チラチラと隣に目を向けるが、幸いにも彼女は花火に夢中になってくれているおかげで、こちらの異変には気づいていない様子。
そんな長いようで短い花火は終わった。
「いやぁ、綺麗だったなぁ。連れてきてくれてありがとう」
「こちらこそ、十百那が喜んでくれたみたいでよかったよ」
この頃にはなんとか心臓も落ち着きを取り戻してくれていた。
【全く、今日の僕はおかしいって】
祭りも終わり、楽しい一時だったはずなのに、僕の心はモヤがまた一つ増えてしまった。
帰りの道中の事。
十百那の足が、とある屋台の前で止まった。
「おじさん、コレってなんですか?」
「ああ、それはね。名入れミサンガさ。カップルだったらここに、お互いの名前を刻むんだ。ま、一種の恋守りみたいなもんだよ」
興味深そうに見入る十百那。
その姿に僕は、巾着の紐を緩める。
「おじさん、それいくら?」
「二つで五百円でいいよ」
「待って、僕も…」
巾着の紐を緩めようとする彼女の手を、僕は止めて顔を横に振る。
「いやいや、悪いよ」
「いいから、いいから」
そうして財布から五百円を取り出して、店主のおじさんに渡した。
名前を刻印してもらっている間に、十百那が語りかけてきた。
「…ありがと」
「どした?あんまり嬉しそうじゃないけど」
「そりゃあ、嬉しいに決まってるよ。でも、なんでかなって」
「うーん。なんとなく?」
本当になんとなくなのだから仕方ない。
だって、買ってあげたらと思うと、自然に手が伸びていたのだから。
「はいよ!お待ちどぉさん!」
完成したミサンガを受け取り、僕は右足に付けるが、十百那はすぐには付けなかった。
彼女はソレを大事そうに両手で持ち、見つめる視線はどこか温かい。
そして十百那も浴衣の裾を少し捲り、それはそれは丁寧に左足へと結んでいく。
しゃがんだ彼女の髪を直す仕草や、後ろから見えるほんのり汗ばんだうなじに、僕の心はまたうるさく跳ねる。
どうして、今日の十百那はこんなにも──。
結び終えたあとは、近くの駅まで彼女を送ろうとしたが、すぐそこに迎えの車が来ているみたいで、そこで僕らは別れを告げた。
それと同時に、心臓の鼓動も落ち着きを取り戻していく。
手に僅かに残る彼女の体温も徐々に失われていき、それを僕は手を広げてただ見つめた。
そんな僕の肩を、後ろから誰かが叩いた。
「よっすー。どうよ、元気ないじゃん」
振り返ると、そこには万理華がいた。
どうやら彼女もクラスの友人と来ていたらしく、丁度別れたばかりという。
「で、帰ろうとしたら、ボケーっと突っ立ってるアンタがいたってわけ」
「なんか、すごい偶然だね」
「まあね。ど?そこらで少し話さない?しばらく会って話してなかったしさ」
「いいよ。どうせ、電車も混んでてしばらく乗れないだろうし」
そうして僕らは、近くの比較的空いているコンビニに寄り、アイスを頬張りながら近況報告をする。
しばらくぶりの親友との会話は、トントン拍子に弾む。
そして会話の流れは、僕と十百那のことに向いていく。
「で?どうなのよ。最近のアンタらは」
「それがさ、今は──」
付き合い始めてから、夏休みのことまでを包み隠さずに話した。
途中からなぜだか万理華の眉間にシワが寄っていき、口もどんどんへの字に曲がっていく。
話し終えた頃には、彼女のくちから大きなため息が漏れた。
「もうさ…どこから突っ込んでいいのやら…」
突っ込む要素がどこかにあっただろうか。
思い当たる節が全くない。
「アンタ、もしかして全く心当たりがないの?」
「え?!」
図星である。
暑さとは別に変な汗も出てきた。
「まあ、一々指摘しないけどさ。これだけは言っとくよ。あんまし、待たせちゃダメだよ」
どういうことだろう。
確かに付き合っているとはいえ、未だに[恋]というものが分からないではいるが。
それに十百那だって──。
そんな僕に、彼女は軽くチョップをお見舞いした。
「考えるのは結構。けど、またアンタの悪い癖!もっと広く視野を持ちなさいよ」
僕はただ頷いた。
まだ[恋]はわかりそうにはない。
けれども、着実に核心には近づいていってる感じはある。
あとは何か一つのピースがハマっていないだけなのだと思う。
まあ、そんな簡単な話であれば、こんなにも悩む必要はないのだが。
「ま、じっくり悩みなさいな」
「そうするよ。だけど、久しぶりに話せてよかった」
「また困ったらいつでもLimuしな。夏休みでも生徒会で学校にはいるんだから」
持つべきものは友とは言うが、まさにこの事だ。
祭りの喧騒が落ち着いてきたので、そろそろ駅へと向かう。
その道中の僕の心は、祭りのときよりも少しだけ軽く感じたのだった。
家に帰り、祭りの余韻がほんのり残る中、お風呂の中でふと、買ったミサンガを見つめる。
刻まれた名前を見ると、彼女との思い出が脳裏に浮かび、また僕の心臓にさざ波が波及するのだった。
──翌日。
新生剣道部が正式に動き出して数日が経過していた頃。
新たに部長となった十百那は、以前にも増して視線が鋭く、それは竹刀にも乗り移る。
【気合い入ってるな。僕もうかうかしてられない!】
副部長となった僕は、慣れない部長の彼女を支えるのが役目である。
支えると言っても、前面にというわけではなく、足りない部分などを補うくらいに留めている。
滑り出しはなかなかに順調で、いいスタートが切れてなによりだ。
休憩に入れば、その間に祖父と十百那の三人で話し合いもする。
「午前お疲れ様」
「「お疲れ様です!!」」
「午後からは、ある程度できる者とで分けてやってみよう。そうでない者はこちらで受け持とうと思うが、どうだろうか」
もちろん異議はない。
祖父の指導は的確でわかりやすく、経験のない部員には、かなり心強い。
そんな中で、剣道部にも良い変化が生まれた。
「秋川コーチ、私もよろしいですか?」
顧問の先生である。
彼女もこのままお荷物になるのはと考えていたようで、顧問に就任してからも勉強はしていたが、祖父がコーチになってからは、より積極的に学ぶ姿勢を取っている。
剣道の知識も増えるのは勿論だが、一番良いのは、初心者目線で物事が言えることだろう。
「それではこちらは良いとして、勇希奈たちの方は、私が考案した練習を軸として頼む」
「「はい!!」」
休憩が明け、早速二手に分かれて練習が再開された。
祖父の方は一人一人じっくり、できないところを教えるのに対し、僕らは対戦方式である。
だが、ただの対戦ではない。
まず、一人とその他で分かれ、その一人はその他と交代なし休憩なしで三分間ずつ全力で戦い続けるのだ。
一周を一セットとし、それを一人六セットである。
即ち約三十分は常に動きっぱなしという、地獄のメニューなのだ。
「はぁっ…!…っ!」
大体半分の三セット目辺りから、みんな声が出なくなってくる。
しかし、それを後ろで聞いている祖父は──。
「おいおい、どうしたぁ!!そんなんでへばってちゃあ、全国なんて夢物語だぞ!!」
「「「「「はい!!」」」」」
祖父の発破に気合いで返す僕ら。
全国の夢の道のりは、未だ始まったばかりだ。
いかがだったでしょうか。
未熟者ではありますが、もし良ければ応援してもらえるのならば、励みになりますし、モチベーションアップにもなりますので、よろしくお願いします。




