夏休み ⑦
どうも、雪木です。
今回もこんな感じで書いてみましたので、楽しんでいたたければ幸いです。
では、どうぞ。
そうして夜が来た。
カーテンから少しだけ外を覗き、辺りを見渡す。
「よし、こっちは部屋の電気は消えてる。そっちは?」
「こっちも大丈夫だ」
みんなが寝静まったのを確認した僕らは、こっそりドアを開けて部屋を後にした。
海辺を歩くと、無人島だけあって雑音は一切なく、凪いだ海が奏でる心地よい波が、月明かりにゆらゆらと照らされている。
すると、おもむろに十百那は僕の手を取った。
その手を握り返すと、彼女の頬が分かりやすく緩むのが薄暗い中でも分かる。
「あ、ほら見て勇希奈!星が綺麗だよ」
彼女の指差す方を見てみると、千葉の林間学校とは比べ物にならないほどの無数の星空が広がっていた。
【…綺麗。林間学校も良かったけど、これは…】
穏やかな海に満点の星空が反射し、まるで星が僕らを包み込んでいるようだ。
息を吞む光景に見惚れていると、突然十百那が僕の腕を引っ張り海へと連れていく。
ひざ下辺りまできたところで彼女は手を離した。
そう思ったら今度は、両手で水を掬って僕にかけてきた。
「冷たっ!やったなぁ!」
対する僕も、お返しに水をかけてやれば、彼女もまた返す。
夜の二人きりの。二人だけの水遊びが始まった。
星々に包まれながらの水遊びは、さながら二人だけの宇宙旅行のようで、時間の流れがこの時だけはとてもゆっくりに感じた。
あらかた遊び終わった僕らは、砂浜に寝転んだ。
「またシャワー浴びないとな」
「うん。でも楽しい!」
「私も!」
「「ぷっ!あはははは」」
心の底から笑った。
ここまで彼女と付き合ってみて僕はまだ、恋愛だとかがわかっていない。
ただ一つ言えるのは──。
「十百那、ありがと」
「どうしたの?急にお礼なんか」
「いや、なんとなくさ」
握られた手をギュッと握り直す。
チラッと彼女の方に視線を向けると、同じく十百那もこちらに視線を向けた。
「ちょっ!なに見てんの!?」
彼女は顔を赤らめながら視線を泳がせた。
その姿に、何でかは分からないけど、とくんと小さく心臓が跳ねた気がした。
【あれ?なんだろう、今の】
今まで感じたことのない出来事に、僕は少しだけ戸惑っていた。
そっと胸に手を当ててみても、特に異常があるとも思えない。
思い過ごしだと自分に言い聞かせて、再び空に目を向けてみる。
「なぁ、勇希奈」
「なに?」
「私からもお礼を言わせて。ありがとう」
「そっちこそ、どうしたのさ」
「べぇつにぃ」
彼女がなぜここで僕に感謝の言葉を述べるのか。
これがどうしても分からない。
砂浜に打ち付けるさざ波が、なんだか妙に耳に残る一夜だった。
次の日、僕らは近くに有名なダイビングスポットがあるというので、中学生でも安心な比較的潮流が穏やかで水深も浅い海域へと向かう。
現地のインストラクターに、ダイビングの注意事項を聞き、早速僕らは海へと潜っていく。
【これは…なんという…!】
本州では見る事ができない色鮮やかな魚たちや、生まれて初めて見るサンゴ礁に心を奪われていた。
すると、陽川さんらがインストラクターに教えてもらったハンドサインで、何かを伝えてきている。
【ええっと、あれは確か…もう少し向こうに行ってみようだったかな?】
OKの返事を返すと、ゆっくりとインストラクターの後に続いて泳いでいく。
途中でフォトスポットが設定されているらしく、立ち止まってはインストラクターがカメラを向けてくる。
それに合わせて僕らも、色んなポーズで撮ってもらう。
楽しい時間は本当にあっという間で、海を満喫しているとすぐにダイビング終了の時間がやってきてしまった。
海から上がり、無人島へ帰る途中に、インストラクターから撮った写真を見せてもらった。
今回のプランは写真の枚数制限はなく、撮った写真は全部貰えるという。
特に気に入った写真があれば、帰ったらすぐに渡せるらしく、僕らは和気あいあいと話し合いながら写真を選ぶ。
そんな中、真っ先に十百那が一枚の写真を選んでインストラクターにお願いしているのが見えた。
「あれ?西川さん、もう選んだの?」
「うん。いい写真があったからさ」
「え?どれどれ?見せてー」
「だーめ。内緒」
その後も周りはどんな写真を選んだのか教えてとねだるも、最後まで彼女は教えない。
傍らで一枚づつ写真をスクロールしていると、一枚だけだが僕とのツーショット写真があった。
何気ない一枚にも見えるが、彼女と過ごしている時間が一番長い僕なら分かる。
【ふっ、めちゃくちゃ嬉しそうにしちゃってさ】
ほんの僅かに上がった口角に気付いたのは、自分だけだったことに、何故か嬉しく思ってしまう僕だった。
無人島に帰ってきた一行は、一旦お昼ご飯をとった後、少し部屋でゆっくりする。
部活もあるので二泊三日で来ている僕らは、明日が最終日。
もっと遊びたいのは山々ではあるが、流石に少し疲れたのだ。
「いやぁ、もうお昼過ぎちゃったなぁ。早いなぁ」
「仕方がないよ。でも、楽しかったからいいじゃん」
残念がる十百那だが、どこか心の底からはそんな感じは見て取れない。
【まぁ、夏休みはまだあるし、夏祭りだって行くしなぁ】
帰った後の事を考えていると、僕らのスマホが鳴った。
無人島メンバーのグループチャットからで、ダイビングから帰ってきた時にインストラクターから、花火を貰ったらしく、夕食後にやらないかとお誘いがきた。
当然断る理由もなく、僕らはOKした。
夜になり、夕食を終えた僕らは海岸に集まった。
宿泊施設から借りたバケツに海水を汲み、いざ、小さな花火大会の始まりである。
「どれから始める?」
「やっぱ、これっしょ!」
相川さんが手にしたのは、市販品で売られている物としては大きめな打ち上げ花火だった。
早速火を着けて打ち上げてみるが、そこは市販品。
「やっぱ、市販品の打ち上げ花火ってさ…」
「ナシナシ!今のナシ!さ、気を取り直して次々ってナニコレ?」
陽川さんが手にしたのは、およそ花火とは思えない黒くて丸い物体だった。
「これって花火なんですか?」
「いやぁ、違うでしょ。ゴミかなんかが混じったのかも」
「とりあえず、火着けてみるか」
十百那が恐る恐るチャッカマンを近づけて、火を着ける。
その瞬間──。
「な、なにこれ…」
黒い物体に火を着けると、その物体からは長細い不気味な物がぬるぬると出てくる。
しかし、出てくるだけで特に面白みもない。
変な空気になってしまったので、今度こそはと、すすき花火を取り出して着火する。
色とりどりに変化する花火に、ようやく雰囲気もそれらしくなってきた頃。
「楽しいな」
少し離れたところで線香花火をしていた僕に、十百那が同じく線香花火を持って隣に座った。
「どう?新主将になった重荷は、少しくらいは軽くなった?」
「大分ね。ありがとう」
今回彼女も連れてきた理由の大半はこれだ。
引き継いだ後の彼女は、どうにも表情が重たく感じたのでいい機会になればと思ったのだ。
「うん。いつもの十百那だ」
そう言うと彼女は、微かに頬を赤らめて口角を上げた。
みんなと離れたところで、静かに線香花火が僕らを照らすのだった。
翌日、荷物を纏めて帰路に就く一行。
その前に、僕はやる事がある。
「ご、ごめん。今回叔母さんが保護者で来てくれたのは、内緒にしててもらえるかな?」
「なんで?」
「ええっと、仕事の関係でお忍びで来てるからさ!」
なんとも苦しい誤魔化し方である。
しかし、父には妹なんていないし、色々バレては面倒だ。
それでもなんとか押し切ったら一応は内密にしてくれるらしく、一安心ではある。
空港に着き、みんなと別れて外に出ると、母が車で迎えに来てくれていた。
「ありがとう、母さん」
「いいのよ、暇だったし。それにしてもいいバカンスだったようね」
「こんな贅沢、中学生がいいのかな」
「いいんじゃない?せっかく招待してもらったんだから、断る方が無粋ってもんよ」
それならいいのだが。
帰る途中でも母にたくさんの思い出話をした。
運転しながら聞く母も、適度に相槌を打ちながら聞いてくれる中、ある程度話し終えると今度は母が切り出す。
「そういや、お盆休みだけどね。父さんが顧客の人から是非にって北海道旅行をプレゼントしてくれたのよ」
南から帰ってきたと思ったら、今度は北に行くというなんとも忙しいスケジュールである。
当然、北海道も行ったことがないので嬉しいのは嬉しいが。
「いやぁ、楽しみー!見てこれ!」
渡されたパンフレットを開けば、そこには沖縄とはまた違った魅力に溢れていた。
「へぇ、すごいね」
「でしょ!」
「で、何泊の予定なの?」
「うん?お盆休みは全部向こうで過ごせるみたいだから、そのつもりだけど」
太っ腹な顧客がいたものである。
【まぁ、お盆休みなら部活もないし、課題も終わったし。まぁいいか】
こんなに遊んでいいのかと思われるかもしれないが、ちゃんと学力に支障がないように隙間を見つけては自習をしているので問題はない。
しかも、たまに学校に行って鵜川先生に自習内容も確認してもらうほどの徹底ぶりである。
【勉強が面白いから続けられるだけなんだけどね】
またとない一家での旅行が決まり、心が弾む。
家に帰るなり、舞依華がいの一番で迎える。
「お姉ちゃん、ちょっと肌見せて」
そう言われ腕を差し出すと妹は、じっくりと何かを確認している。
「うん、まぁ合格ね。ちゃんと日焼け止めクリーム塗ったみたいで安心したわ」
どうやら僕の肌状態の確認だったらしい。
あれだけ口酸っぱく言われて、やらなかった後のことを考えるとそっちの方が面倒くさい。
と考えた結果、渋々塗ってはいたのだった。
「いくら面倒くさいからって、女の子たるもの紫外線には細心の注意を払わないとね」
およそ小学生の発言とは思えない美容意識の高さに、毎度ながら感服するばかりだ。
妹の年齢離れした美しさの秘訣は、こういうところにもある。
リビングでは寝転がって漫画を読む桜士郎がいた。
「あ、ユキ姉お帰り」
「ただいま」
「あれ?ユキ姉なんだか…まぁいいか」
【なんだよ、途中で言いかけてそれはないだろうに】
若干もやっとしたが、まあいいかと流して荷ほどきを始める中、カレンダーが目に映った。
【あ、そっか。来週だっけ、夏祭り】
舞依華も友人たちと行くらしく、カレンダーには花丸マークがあしらわれていた。
「なにボケェってしてんのよ。早く洗濯物!って、アンタも夏祭り行くの?」
「まぁ…友達とね」
それを聞いた母は、おもむろにある事を思い出したようで駆け足で二階へと向かう。
しばらくすると一個の箱を手に戻ってきた。
「それは?」
「母さんが昔着てた浴衣よ。いい奴だからまだ痛んでないと思うけど」
早速取り出してみると、青色の綺麗な浴衣が姿を現す。
上から合わせてみれば、驚くことに僕の背丈とピッタリである。
「うん!思った通りね。その浴衣は母さんがアンタと同じくらいの歳の頃に買ってもらったやつでね。舞依華にはまだ背が足りないし、一回着てみる?」
母に手伝ってもらいながら初めて着てみた浴衣は、道着の無骨さとは真逆で、凛とした美しさに見惚れてしまう。
「バッチリね。どう?これ着てく?」
「うん!これが良い!ありがとう母さん」
母からの贈り物に嬉しく思った僕は、しばらく家の中を浴衣姿で過ごした。
だが、一緒に行く十百那には見せない。
【驚くだろうなぁ。どんな顔するかな】
早く見せたい感情を必死に堪える。
いつの間にか夕方になっており、いつまでたっても浴衣を脱がない僕に母から「夕飯には脱ぎなさい」と言われてしまい、渋々着替えるのだった。
お風呂から上がり、寝るまでまだ時間があるので自習をすることにした。
「お姉ちゃん、ほんと勤勉よね」
「うわっ!びっくりした!ノックは!?」
「したよ。でも気付かないんだもん」
それほど集中していたのか。
そんな事よりも、妹の要件はなんだろうか。
「で?なんの用なのさ」
「それがさぁ──」
話を聞くと、以前桜士郎をスカウトしていた芸能事務所の人が、今度は舞依華をスカウトしてきたのだという。
あまり乗り気ではなかった弟に対し、妹は実は少し興味があり迷っているらしい。
もちろん両親にも相談したが、モデルと勉強が両立できるならいいと言われ、そこも不安の一抹を担っているみたいだ。
【まぁ、父さんたちからすれば、大学までは行ってほしいだろうからなぁ】
両親の気持ちも分かる。
だが、ここは──。
「舞依華は本気でやってみたいの?」
すると、妹は一回だけ頷いた。
それを見た僕は、そっと妹の頭を撫でた。
「だったら、私からは何も言う事はないよ。やるんだったら全力で応援するからね」
僕の言葉に彼女は思いっきり抱き着いた。
誰かの背中を押した後の心の重さを身に感じながら、夜は更けていくのだった。
いかがだったでしょうか?
未だ未熟な身ではありますが、どんな形でも応援していただければ励みになりますので、是非ともよろしくお願いいたします。




