夏休み ⑥
どうも、雪木です。
今週はちょっと風邪をひいてしまい、更新できるかなぁと思ってましたが、なんとか更新できそうで良かったです。
では、楽しんで読んでもらえれば。
夏の大会が終わり、先輩らからの引き継ぎも終わった僕らに、いよいよ一夏の楽しみがやってきた。のだが─。
【ああ…なんでこんなことに…】
「どうしたんです?そんな顔して」
「ーーーーっ!誰のせいだと思って…!」
「どうしたの?勇希奈と従姉妹のお姉さんのマシロさん?」
「すみません、ちょっと勇希奈がボーッとしてたので」
【なっ!この人は…!】
ここで今のこの状況が一体どうなっているか、少し時間を遡って見てみるとしよう。
それは、無人島へ数日前の事だった。
「え、ウソ…!?」
無人島へ行くメンバーのLimuグループに、ある一通のメッセージが届いた。
『ほんとごめん、引率で一緒に行く予定だったママが、超大事な仕事が入っちゃったみたいでさぁ…。一緒に行けなくなっちゃった…』
今回行く無人島の宿泊施設は、親族である相川さんだけであっても泊まれる。
しかし、僕らはあくまでもまだ中学生にすぎない。
流石に大人が一人はついておかないと、もしもという事もあるので、提案した相川さんのお母さんが引率を名乗り出てくれたのだ。
それが行けないとなると、当然代わりを探さなくてはいけないが、こんな直前で誰か引き受けてくれるだろうか。
グループチャット内では、早速両親らに相談してくれたようだが、結果はみんな惨敗である。
そういう僕も、父は凄腕の弁護士なので相変わらず忙しいし、母も栄養管理士の仕事があるので無理なのだとか。
【どうする…このままじゃ…】
せっかくみんな楽しみにしていた無人島のバカンスが無くなってしまう。
焦燥感が増していく中、今ではすっかり我が家に溶け込んだ、白い物体が僕の前を優雅に座る。
《おやおや、何かお困りのご様子ですね》
人の心読めるくせに、今更何を言うのかこの猫は。
《はぁ。事情は知ってますでしょ?解決できるんならしてくださると嬉しいんですがねぇ》
無理だとは思うが、一応こんな事を言ってみる。
すると、何かマシロの様子がおかしい。
《どうしたんです?そんなニヤニヤして》
《実を言うとですね。私の上司がこの間訪ねてきまして、この世界に来て力の一つも使えないのは、流石に不便だろうと力を一つだけ使えるようにしてくれたんですよ》
《それって、まさか…!!》
《はい、変身が出来るようになりました》
これは朗報だ。
この力でマシロが誰かに変身してさえくれれば、問題は万事解決である。
《すみません、変身出来るようにはなりましたが、いくつか注意事項がございまして》
早速グループチャットに報告しようとした僕の手が止まり、その注意事項とやらを聞くのだった。
そうして当日。
「いやぁ、助かったよ勇希奈!」
「ほんとだよな。代役の大人が来れないってなった時はどうなるかと思ったからな」
「で、どちらの方なんですか?」
「え、ええっと…もうすぐ来ると思うんだけど」
何とかなるにはなった。
しかし、準備があるとのことで遅れて登場するとは言っていたが、果たして誰に変身してくるつもりだろうか。
そんな時である。
白銀の髪を靡かせ、まるでどこかのモデルを思わせるような抜群のプロポーションを携えた美女が近寄ってくるではないか。
【ま、まさか。アレじゃない…よね?】
だが、そういう時に限って悪い予感は的中するもの。
こちらに気が付いたその美女は、僕に向かってウインクした。
【ああ、そう。そうですか。マシロさん…】
よりにもよって滅茶苦茶目立つ出で立ちで登場したマシロに、僕の心はずしんと重くなった。
けれどもマシロは中々近づいては来ない。
すると離れたところで、いつものように頭にメッセージを送ってくる。
《こんな感じでやってみましたが、いかがですか?私的には、もう少し美しさを表現したかったのですが…》
《いやいや、結構ですって!もう十分目立ってますから!!》
彼、いや今は彼女か。
彼女はその常人離れしたルックスで、空港の人々から視線を独り占めしていたのだ。
羨望の眼差しを一身に浴びながら、ゆっくりこちらへと近づいてくるマシロ。
「ね、ねぇ。あの人こっちに来るんですけど!?」
「鞘師さん?ま、まさかあの人ですか?」
若干の申し訳なさを持って僕は一回頷いた。
マシロはみんなの前でピタリと止まるが、何も言葉を発さない。
《ほら、無言で突っ立ってないで、ほら!自己紹介とか!》
《すみません、変身の姿にこだわりすぎて全く考えてませんでした。なんとかしてください》
《これだよぉ!!!》
あまりの無茶ぶりに思わず大きく目を見開いてしまった。
目の前には未だに口を開かずに立っているマシロに、動揺する陽川さんらがいる。
これ以上この場の空気をカオスにしてはならないと、僕の頭は、期末時テスト以上にフル回転してマシロの設定を練り込んだ。
「え、ええっとね、この人は父さんの妹さん…つまり叔母さんの鞘師真白さん!ちょうど仕事が空いてたから来てくれたんだ…!」
父とはあまりにも外観が違いすぎるので、若干苦しいかと思われたが、そんな人もいるよねと軽く流されて受け入れられてしまった。
そんな感じで今に至るのである。
幸いにも飛行機は相川さんのお母さんのプライベートジェットであるので、マシロの注目を浴びずに済んだのは、ひとまず良かった。
席順は、まぁ順当といったところで僕の隣には十百那が座るのだが──。
飛行機が離陸した後、空を眺める僕の手を十百那がそっと手を乗せてきた。
わざとそのまま反応せずに外を見ている僕だったが、次第にその手は、いわゆる恋人繋ぎのように絡めていく。
【もう、調子乗り過ぎだって。バレても知らないからね…】
チラッと隣に視線を向けてみると、彼女もイヤホンをして音楽を聴いていて、足を組んでいるので一応は影に隠れて手元は見えない。
彼女もまるで何事にもないように、至って普通に目を瞑って音楽を聴いている感じを装っているから、周囲は気付く素振りもない。
そんな空気を察したのか、十百那の手が更に積極的になり、手をにぎにぎしてきたり様々なアクションを加えてくる。
表情に関しても、どことなくニヤついているようにも見えているが、僕の手はそれを拒まなかった。
あっという間に飛行機は沖縄に到着し、そこから船に乗る事、約一時間。
ようやく着いた無人島は、まさに常夏の楽園というべきに相応しく、満点の青い空に透き通るような海が広がっていた。
【うわぁ。千葉の海も素敵だったけど、これは…】
あまりの感動に、言葉が出ない。
「おーい、勇希奈!ボーッとしてないで、行くぞ!」
目の前の光景に見惚れていた僕は、顔を赤くしながら先に行ってしまった皆んなを追いかけるのだった。
早速今回泊まるところのチェックインを済ませ、各自割り当てられた部屋へと荷物を置きに行く。
まあ、僕の相部屋は勿論──。
「いやぁ、勇希奈と相部屋になれて良かったよ。これも日頃の行いが良いからかな!」
だったら、僕だって良い自信はある。
今回の部屋割りは、くじ引きで決めたのだが、流石に出来過ぎな結果に思わずマシロの工作かと疑った。
しかし、彼女を問い詰めても一貫して否定するので、一応は信じてみることにした。
ちなみにマシロは丁度、引率で来る予定だった相川さんのお母さんが使う予定だった、一人部屋が空いていたので、そこを使わせてもらっている。
【正直一人部屋があって良かったぁ…。まさか変身が一日持たないなんてなぁ…】
彼女の変身の注意事項の一つは、変身時間の短さである。
曰く、一度あの姿になれる時間はおよそ半日が限度で、変身が解けてもう一度変身するには、最低でも二時間はチャージが必要なのだとか。
そんな事を考えていると、十百那が僕の腕を掴んで、一緒にベッドに倒れ込む。
「もう、二人きりになるとすぐに甘えるのやめなよ」
「いいじゃん。バレやしないよ」
確かに部屋といっても、一部屋一部屋がコテージのようになっており、間隔もそれなりには開いているのでバレはしない。
これを好機と見た彼女は、ここぞとばかりに甘えてきて、室内では距離感もいつも以上に近い。
「そんなに見ないでよ…!」
「なんでさ、別にいいじゃん。減るもんじゃないしさ」
「マジマジ見られるのが嫌なの!」
みんなと海へ泳ぎに行こうと、水着に着替える時でも、見られるのは別に構わない。
だけど、じーっと直視されるとなると、流石の僕でも恥ずかしいのだ。
「待って!」
着替え終えて部屋を出ようとすると、彼女は待ったをかける。
「今度はなに?」
「日焼け止め。塗るの忘れてるよ。ほら、塗ってあげるから、こっち来て」
自分でも塗れるからと断ろうともしたが、背中などは自分でも塗れないので、素直にお願いすることにした。
ベッドにうつ伏せになると、水着の細紐を十百那がゆっくりと解く。
手で広げた日焼け止めクリームを満遍なく塗り広げていく手つきに、僕は妙にドキドキしてしまう。
【バカ!なにドキドキしてんの!ただ日焼け止め塗ってるだけじゃん!】
「背面はこれでよし!じゃ、次は仰向けになって」
「うん…って!正面は自分でできるよ!」
「ちっ!バレたか…」
どさくさに紛れて危うく正面もやらせるところだった。
「じゃあ、次は私をお願いね?」
「…へ?」
「だって、私も塗ってほしいし」
【いやいや、そういう問題じゃなくて!】
一応、僕は中身は仮にも男だ。
今までスキンシップはあれど、これは僕でも戸惑ってしまう。
だが、そんなことはつゆ知らずの彼女は、既にうつ伏せになって準備万端である。
こうなればヤケだと、日焼け止めクリームを手に広げて背中から塗っていく。
【こ、こんな感じでいいのかな?】
手に伝わる彼女の体温に、僕の顔は段々と赤みを帯びていく。
背中を塗り終えて、いいよと言うが彼女は起き上がらない。
すると、自ら仰向けになった彼女は──。
「コッチもお願い」
普段考えられないような甘えた声でねだる。
だが、そこはちゃんと理性が残っていた僕は、彼女の頭を軽くコツいて早く起き上がるようにと諭す。
部屋を出てみんなと合流すると、不思議そうな顔で陽川さんが近づいてきた。
「勇希奈?耳赤いけど、なんかあった?」
彼女の指摘に大きく目を見開く僕は、なんでもないと誤魔化して、これ以上問い詰められないように海へと飛び込むのだった。
一通り泳いだので海から上がると、上手く周りと溶け込んだ十百那はまだ陽川さんたちと遊んでいる。
砂浜に立てられたパラソルで一休みしていると──。
「隣いい?」
同じく海から上がってきた相川さんが、隣に座ってきた。
彼女はスマホを取り出すなり、自撮りを始めるが、それらをSNSにアップする様子はない。
【今時の子にしては珍しいよな。なんでだろ】
「ねぇ、相川さん。ちょっと聞いても良い?」
「どした?」
「その撮ってる写真って、SNSには上げないの?」
「上げないよ。てか、SNSだってLimuしかやらんし」
今では映える写真を撮って所謂バズりを狙う子も少なくはない。
僕もやってないから人の事はとやかく言えないけど、なんだか意外に感じる。
「まぁ、いかにもやってそうだしね。だけど、あーしって一応大企業のご令嬢じゃん?ネットリテラシーには気を付けないとね」
「へぇ、ちゃんとしてるね」
「ここに来られてんのも、パパやママのおかげだしね。それを忘れちゃあ、ご令嬢の名が廃るってもんよ」
言い回しはともかくとして、若いのにしっかりしてるなと素直に感心してしまう。
僕だって他人事ではないので、肝に銘じたいところだ。
ふとここで一つ気になっていた事がある。
「そういえば、ここって僕ら以外の人はいないの?」
これだけ良いところならば、他にもお客さんはいても良いはずだが、周りには誰一人として見かけない。
ましてや、夏の沖縄なんてハイシーズンにも関わらずである。
そんな疑問を彼女は笑い飛ばして答える。
「ほんと、勇希奈ってウケるわぁ。貸し切りに決まってんじゃん。ここ全部」
言葉が出なかった。
話を聞けば、どうせ行くのなら思い切って貸し切ってしまえと相川さんの両親らのノリなのだとか。
【お金持ちのノリ…怖っ!!】
あまりに浮世離れした金銭感覚に、若干引いてしまう僕だった。
そうして、時はなだらかに進んでいき夕食の時間となる。
夕食もかなり豪勢であり、海の幸や山の幸をふんだんに使った料理がずらりと目の前に並ぶ。
【こういう時、元勇者って便利だよなぁ。テーブルマナーは向こうとほとんど変わらないんだもん。そうだ、母さんたちにも写真送っとこ!】
料理に舌鼓を打ち、家族に今日のことをLimuで送っていると、隣で食べていた十百那からLimuでメッセージが届いた。
【隣にいるのだから、口で伝えればいいじゃないか】
心の中でツッコミながらも、チャットルームを開くとそこには──。
『この後、二人でちょっと外へ行かないか?』
隣に目線を向ければ、チラチラこちらを見てくる彼女の姿があり、仕方がないのでOKの返事を送ったのだった。
いかがでしょうか。
まだまだ書いていきますが、未だに未熟そのものなので温かい目で応援していただければ嬉しいですし、励みにもなります。
これからも、よろしくお願いいたします。
では次のお話でお会いしましょう。




