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夏休み ④

どうも、雪木です。

まずは、お詫びと訂正です。

前話で来週無人島のくだりがあったと思いますが、作中の来週は模擬戦だったのを失念しており、訂正で八月の初旬あたりに変更しました。

混乱を招くようで申し訳ございません。

なので、今回は模擬戦回です。

楽しみにしていた方々には、申し訳ございませんがもう少しお待ちいただければと思います。

それも踏まえて頑張って書いてみましたので、楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。

  楽しみなのは一先ず心にしまっておき、まずは目先に集合しなければならない。

 そう、模擬戦である。

 とうとう団体戦のレギュラーを決める戦いが幕を開ける。

 いつもよりも早く学校に到着した僕は、まだ開いてないだろうと武道館の鍵を借りに行くのだが──。

  「鍵ならもう無いぞ。先客がいたんでな」

 【え?噓でしょ!?だってまだ…】

 この時まだ朝の七時半である。

 普段の部活開始時間が八時半なのを考えると、それでも十分に早く来たつもりだったのだが、いったい誰が一番に来ているのだろうか。

 うかうかしていられないと、早速武道館に向かおうと職員室を後にしようとしてドアを開けた瞬間。

  「うわっ!びっくりした!なんだ勇希奈か。どうしたんだ?こんな朝早く」

 目の前のドアが急に開いた事にびっくりした十百那がそこにいた。

  「と…西川さんこそ」

  「今日は模擬戦だろ?なんだか居ても立っても居られなくってな」

 どうやら考えは同じだったようだ。

 急いで武道館へと向かう最中に、十百那が走りながら口を開く。

  「今日、勇希奈とも戦うのかな」

  「分かんない!けど、もしやるんだったら!」

  「そっちもな!!」

 わざわざ言葉にする必要などなかった。

 そんなことせずとも彼女が何を望んでいるかなんて、目を見れば明らかだ。

 すると十百那は、そっと握りしめられた拳を僕の方に向けて差し出した。

 それに対する僕は、小さく頷いて同じく拳を差し出してコツンッと彼女の拳に当てた。

 【短期間ではあるけれど、十百那だって強くなってる。それは近くで見ている自分が一番よく知っている。今度こそは!】

 付き合う者同士の前に、僕らは一人の剣士だ。

 そこには一切の情など必要ない。

 お互いの意思を再確認したところで、武道館に着いた僕らの目に映ったのは──。

  「ふっ!ふっ!」

 一人黙々と集中を切らさずに竹刀を振る部長の姿だった。

 一振り一振り竹刀が空を切る音が伝わる度に、僕の胸の中で何かがじわじわと駆け巡る。

 【改めて見ると、やっぱ部長の素振りってすごい綺麗なんだよな。全然ブレがない】

 それだけでも彼女が今までどれだけの研鑽を積んできたのかは分かるつもりだ。

 その姿を見た僕らは何も言わずに着替え、部長の隣で同じく素振りを始めた。

 最初こそ目を大きく見開いた部長だったが、そのまま素振りを継続したのだった。

 ちらっと隣の部長に目をやると、少しだけ口角が上がっていた。


 そして、時間が経つにつれ徐々に部員らが集まり、全員が揃ったところでコーチである祖父が集合を掛けた。

  「さて、諸君。今日はいよいよ団体戦のメンバーを決める模擬戦だ。存分に実力を発揮してくれ。では、最初は──」

 その時だった。

  「差し出がましいようですが、よろしいでしょうか」

 部長がスッと手を挙げて祖父に発言を申し出たのだ。

 祖父が来てからは、個人的にアドバイスを求めることはあっても、皆の前で発言を求めるのはこれが初めてだった。

  「はい。どうぞ」

  「ありがとうございます。これは私の願い…というよりもエゴに近いのですが、私の相手はこの鞘師勇希奈にさせてはいただけないでしょうか」

  「…え?」

  「ちょっ!世阿弥原何考えてんだよ!」

  「そうだよ!いくら強いからって言っても、まだ一年でしょ!?」

 予想外の出来事に他の部員たちもざわつきが収まらない。

 そんな場を鎮める為に、祖父は手を二回叩いた。

  「こら、静粛に。それはそうとして、世阿弥原くん理由は?」

 祖父の問いに部長は屈託のない真っすぐな目を祖父に向けて答える。

  「前々から鞘師とは一対一で真剣勝負をしてみたかったんです。先輩後輩とか関係なく、一人の剣士として。ダメですか?」

  「ふむ。勇希奈はどうだ?」

 最初はびっくりしたし、頭の整理も追い付かなかった。

 でも、指名された瞬間鳥肌が立ったし、ドクンと大きく心臓が跳ねたのは確かだった。

 頭の整理が付いた今なら感じる。

 心の奥底で駆け巡っていた何かが、強烈に弾けたのを。

 そして、それはマグマのようにぐつぐつと熱くなっていくのを。

  「やります。やらせてください!」

 これも元勇者だった頃の名残りだろうか。

 相手は三年生。しかも、個人で都の大会でも優勝経験を持つ強者だ。

 普通だったら心のどこかに必ずは[怖い]の文字が浮かぶだろう。

 しかし、僕の心の中はというと──。

 【なんて僕は幸せ者だろうか。こんな強い相手から指名されるなんて、こんなチャンス滅多にないぞ!】

 そうと決まれば、早速防具を付けて準備を始める。

 防具を付け終わり、向かい側にいる部長と相対する僕の全身を強烈な身震いが襲う。

 【…ッ!なんて殺気だ!これが…!】

 今までの優しい部長の目つきとは明らかに違う、殺気の籠った目線が僕を貫く。

 その場で跳ねたり、軽く肩を叩くと多少はマシにはなったが、どうしても手だけが収まらない。

 【こんな時、前の僕ならどうしてただろうか。えーっと、確か……】

 以前にもこの様なことになったのは、何度かある。

 例えば、魔族の大幹部との闘いの前だったり、それこそ魔王との大一番などが記憶に蘇るところだろう。

 そっと胸に手を当て、深呼吸をして目を閉じる。

 心臓の鼓動だけが聴こえ、周りの音が徐々に消えていく。

 震えも収まってきたところで、ゆっくり目を開ける。

 良い感じに集中できた僕だったが、ふと視界に十百那が映った。

 【なんだよ、その顔。そんな情けない顔をこんなところでしちゃダメでしょ】

 そんな顔にしてしまってるのは確実に自分である。

 だから尚更負けるわけにはいかなくなった。

 主審が旗を交差させると、お互いに前へ二歩進んで一礼し、竹刀を帯刀させて更に三歩前に出て竹刀を抜いて蹲踞する。

 竹刀と竹刀の切っ先が、触れるか触れないかの辺りまで近くに来ると部長からの気迫は一段と増して肌がピリつくのが分かる。

 そしていよいよ──。

  「始め!!」

 主審の合図と共に、武道館内に二つの勇ましい掛け声が響き渡る。

 真っ先に仕掛けたのは──。

  「面ぇん!!」

 僕の方だった。

 格下であるのに、様子見をしていてはダメだと先手必勝で面をねらったのだ。

 しかし、いとも簡単に防がれてしまう。

  「勇希奈が先に出たか!」

  「もう少し膠着状態になるかと思ったけど、思い切ったねぇ」

  「っと!今度もか!?」

 休ませる暇など与えさせない。

 間髪入れずに怒涛の攻めを繰り出す僕だったが、相手は全国クラスの猛者だ。

 【くそ!なんて防御だ!まるで全部見透かされてるみたいだ】

 それでも怯まずに前に出る。だが──。

  「こてぇ!!」

  「面ぇん!!」

 中々決まらない一本に焦りを募らせたのすら見透かしたように、雑になったところに面を狙われた。

 だが、間一髪のところで辛うじて避けて一本は免れた。

 【今のは危なかった…!冷静になれ!冷静に!】

 けれども部長はそれを許さない。

 まるで真剣のような鋭さを持った剣筋は、例えフェイントであっても殺気が宿る。

 少しでも気を抜けば忽ち一本取られてしまうだろう。

 【守ってばかりじゃダメだ!こうなったら!】

 多少のリスクは承知の上で、僕も返し技を織り交ぜて応戦するが、突如均衡は崩れ去る。

 【あの軌道はフェイントじゃない。面を打ってくる!ならば…!】

 面を打ってくると確信した僕は、小手を狙う。

  「胴ッ!」

 完全に読み間違えた。

 慌てて防ごうとするも、彼女の竹刀が僕の胴を叩く音が響き渡ると同時に審判らの旗が満場一致で彼女の方に上がった。

 【ーーーっ!!時間は!?】

 この模擬戦は一本先取ではない。

 三分間で多く一本を取った方の勝ちである。

 タイマーに目を向けると、まだ一分と少しだが時間は残されてはいるが。

 【一分…部長相手に…?何か…何か…!】

 打てる手をただひたすらに考える。

 再び試合が再開されても尚、部長は守りに徹するのではなく、あくまでも攻めの姿勢を崩さない。

 この二分間ずっと前に出続けいるというのに、僕ばかりが息が上がり、消耗させられてしまう。

  「はぁ…!はぁ…!!」

 【きっついなぁ!もう!けど、素直に負けてたまるかっての!!】

 暑さで上がっていく体温。

 動きっぱなしで息も絶え絶えなのに、何故だか意識だけはハッキリしている。

 そのせいか、さっきまで防ぐので精一杯だった部長の剣筋が見え始めてきていた。

  「お、おいおい!鞘師のやつ大丈夫かよ!?もう止めた方がいいんじゃ」

  「でも、部長に段々ついていけるようにもなってるし…」

 周囲がざわつく中、コーチである祖父の顔は変わらず、待てもかけない。

 知っているのだ。

 この程度でへばる僕じゃないという事を。このままおめおめと負ける僕じゃないという事を。

 その一瞬は突然だった。

 僕がフェイントを仕掛けたのに、部長は初めて釣られてしまい、ほんの僅かながら隙を見せた。

 こんな好機を逃すまいと、すかさず攻勢に出たのだが──。

 ピーっと無常のタイマーが鳴った。

 僕の竹刀は、部長の胴の僅か下にあった。

 【…くそ。足が…】

 集中していて気が付かなかったが、激しく動き続けた身体はとうに限界だったのだ。

 もう少し僕に体力があればと色んな欲や芽生えてくるが、ないものねだりをしても仕方がない。

 今ある物だけでやるしかないのだ。


 僕らの試合が終わった後でも、間髪入れずに次戦の用意が進む。

 その間に部長と僕は、祖父の元に試合の総括を求めに行くのだった。

  「まずは二人ともお疲れさん。イイものを見せてもらったよ。では、総括を始める」

 まず指摘されたのは部長で、終盤に雑になってしまったのを直すようにとのことだ。

 そして、僕はというと──。

  「一年にしては頑張った方ではある。しかし、まだまだ甘いな。攻めも少々強引なところが目立つ」

 その後も、祖父による修正するべき点とアドバイスを幾つか貰って総括を終えた。

 どんどん模擬戦は行われ、全てが終わる頃には夕方になっていた。

 最後の一組の試合が終わると、再び祖父が集合をかける。

  「諸君、今日はお疲れさん。身体のケアだけは絶対に忘れないようにする事。ケガをしては元もないからな。今日の結果を踏まえてメンバーを選考するが、負けたからと言っても必ずとも落選ではないから、そこは勘違いしないように。いいね?」

  「「「「「はい!!」」」」」

 そうして今日の部活は終わった。

 帰りは珍しく僕一人で自転車を漕いでいるところに、後ろからクラクションを鳴らされる。

 なにかしたかと一瞬ドキッとしたが、後ろから迫る聞き慣れたエンジン音が、心を落ち着かせた。

 そのまま通り過ぎていくものだと思い込んでいたら、通り過ぎる際に、僕に向かってハンドサインをしてきた。

 一応祖父からはハンドサインを少しだけ習っていたので、意味は分かる。

 どうやら、この先にある公園に来いと言っているようだ。


 公園に着くと、一足先に到着していた祖父がベンチに座っていた。

 自転車を降りて声をかけたら、ポケットから小銭入れを取り出した祖父は、近くの自販機でアイスでも買ってきなさいと少し多めにお金をくれた。

 アイスを買い、祖父の隣で食べ始める。

 隣で静かに缶コーヒーを飲む祖父は、何も語らずに、ヒグラシの鳴き声だけが木霊する。

  「今日は、頑張ったな」

 突然、祖父が口を開いた。

  「…負けちゃったけどね」

  「最後のは惜しかったじゃないか」

  「決まらないと意味ないよ」

 いくら惜しかろうが、一本にならなければ負けには違いない。

 祖父もそこは分かっていると思う。

 そんな祖父は、次の言葉を発しようとするが、僕はそれを止めた。

  「多分、おじいちゃんが次に言いたい事はなんとなくだけど、分かる。けど、今は受け取れない」

 僕は負けた身だ。

 勝ってもないのに、その言葉を貰うのは自分の中で何か引っかかったんだ。

  「その言葉は、そうだなぁ…。じゃあ、剣道で優勝したらでどうかな?」

  「ふっ。そんなには待てんぞ?」

  「待たせないよ。だから、見てて」

 そう言うと、いつもあまり表情を変えない祖父の口角がほんの僅かだが上がったように見えた。

 その日食べたアイスの味は、いつもと違って甘さが際立っているように感じたのだった。


 ──模擬戦から数日後。

 いつものように剣道の練習に勤しむ僕らに、いよいよ運命の時が訪れる。

 練習が終わった後、眉間に皺を寄せて目つきの鋭さも増した祖父の姿に、一同緊張が走る。

  「この間の模擬戦の結果を踏まえた上で、選考を重ねた結果。団体戦のメンバーを決定したから、今から先鋒から順番に発表していくから、呼ばれたら返事をすること。いいね?」

  「「「「「「はい!!!」」」

 部員らが固唾を飲む中、まずは先鋒の名前が出る。

  「先鋒、鞘師勇希奈!」

  「…!はい…!!」

 【選ばれてしまった…。しかも先鋒か…責任重大だな】

 すると周りからは拍手で溢れかえっていた。

 もう少し違う感情を向けられてもおかしくはないはずなのに、先輩らからも納得の表情で拍手を送られる。

  「次鋒、西川十百那!」

 模擬戦でもいい内容の試合を見せた十百那が次鋒に据えられた。

 異例の一年コンビの起用に周囲は大きく沸く。

 その次の中堅、副将は真っ当に三年の実力者から選ばれ最後にはもちろん。

  「主将、世阿弥原 鼎!以上、このメンバーで決定だ」

 選ばれたメンバーが前に出ると、再び武道館を拍手で包まれる。

 

 

 そして、その帰りだった。

 駐輪場に着いた僕だったが、ついうっかりロッカールームに忘れ物をしてきてしまい、一緒にいた十百那に少し待っててもらって駆け足で武道館に駆けていく。

 武道館には、まだ先輩のと思わしき靴がまだあるのに気が付く。

  「えっぐ…。うぅ…。」

 ロッカールームの方から声が聞こえた。

 中には入らずに、そっと耳を澄ませてみると──。

  「よく我慢したな、お前ら」

  「…ふっ。弱くっても私ら先輩だしさ、一丁前に…」

  「そうそう。ちゃんと強い後輩に、余計なもの背負わすわけにいかんでしょ」

 かすれた声だった。

 その声に、僕の口に思わず力が入る。

 【余計だなんて…そんな…】

 こうして、また一つ簡単に負けられない理由が増えたのだった。

いかがだったでしょうか?

予定ではこの次に夏の大会をやってから、無人島に行きたいと思います。

まだまだ未熟ではございますが、引き続き応援してもらえれば最上の喜びです。

ではまた次のお話でお会いしましょう。

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