夏休み ③
どうも、雪木です。
今回も頑張って書いてみましたので、楽しんで読んでいただければ幸いです。
では、どうぞ。
夏休みが始まって早くも一週間が過ぎた。
課題もあらかた片付いてしまった僕は今、何をしているかと言うと──。
「こら、勇希奈。そんなダラダラしていいの?」
惰眠をむさぼっていた。
「だってぇ、部活も休みだし西川さんは用事があるし、他の友だちも都合があるんだもん」
珍しくだらけているのを見た母は、それ以上は特に何も言わなかった。
他の子から聞くように、もう少し文句でも言うのかと思ったから、ちょっと拍子抜けだなと思う。
【ま、ちゃんと自習もしてるし、偶にはねぇ。にしてもエアコン最高】
《全く、これが元は勇者の姿ですか。堕ちたものですね》
前世では考えられなかった冷房機器に愉悦に浸っている僕の頭に、久しくご無沙汰だった声が聞こえてくる。
その声の主は、身軽な身体をぴょんと跳ねらせてソファに仰向けに寝転ぶ僕のお腹に乗ってきた。
《マシロさんこそ、今まで何を?》
《家から出られないので、ひたすらに羽を伸ばさせていただいておりました。お陰様で長年の疲れが少し取れたきがしますね》
それはなによりな話である。
長年働いていたのだから、たまにはこういうのもありなのかもしれない。
《それよりも、お暇なら偶には外にでも連れて行っていただけませんでしょうかね》
マシロさんはあの林間学校以来、家族からの管理が一層厳しくなり、紛れ込んで抜け出すことは困難となっていたのだ。
いくら家でゆっくりできるとはいえ、ずっと家の中でじっとしていたのは、彼もさぞ退屈だったろう。
《連れていくのはいいんですが、外はまだ暑いですよ?熱中症になってしまいます》
《あなたは部活とやらで散々汗だくになっているではありませんか。元勇者が情けないですよ》
《あなたも天界の人ですが?》
それでも食い下がってくるので、根負けした僕は重い腰を上げて軽く身支度を始めた。
真夏のお昼過ぎという暑さのピークであるため、熱中症対策を入念にして家を後にする。
着いた先は、家からさほど遠くない公園である。
当然だが人影はほとんどない。
【ま、こんだけクソ暑い中出てくる物好きはいないよなぁ。にしても、日陰でも暑い…】
天気予報では今日も三十五度越えの猛暑を超えた酷暑日だという。
熱せられたコンクリートの地面は、手を置けば火傷していまいそうである。
そんな中であるというのに、マシロは一人涼しげな表情に違和感を感じる僕は、ある疑念を抱いた。
《もしかしてマシロさん、本当は力使えるんじゃ…?》
彼の持つ力ならば、これくらいの暑さだってどうにでもなるだろう。
だが、彼の顔はバレた焦りの表情ではなく、寧ろ──。
《私はですね、姿形こそ子猫で本来の姿も人間のようですが、全く違うのです。私は、人間のように暑さや寒さを感じる事ができません。幸いにも味覚はありますがね?》
一見良さそうにも感じる。
僕もそう思った。
しかし、皆が皆それを幸福だと感じるとは限らない。
《私は…おっと、ここから先は辛気臭い話になってしまうのでやめましょう。せっかくバカンスに来ているのに、ナーバスになっては台無しです。話題を変えましょう、ということで、どうぞこちらへ》
彼がそう言うと、茂みの中から真っ黒で艶やかな毛並みの黒猫が現れた。
《紹介しましょう。この世界で出来た第二婦人の小豆さんです》
さっきのシリアスな空気はなんだったのか。
というか今、聞き捨てならないセリフが出たのだが。
《今、第二婦人とか言いました?もしかして…》
《向こうでは普通ですよ》
《それに小豆さん?はあなたと違って正真正銘の猫なんじゃないですか!?》
《フッ、そんなもの。向こうに帰ればどうにでもなりますからご安心を》
なんという人…いや、今は猫か。
まさか現世に来てバカンスを楽しむばかりか、第二婦人まで作ってしまうとは。
一応僕と話すようにすれば、会話は可能だといい、彼女の方のマシロにべた惚れなのだとか。
【恋はハリケーンとか聞くけど、あれは本当なんだなぁ】
ここで一旦冷静に考えてみると、奥さんを置いてきて勝手に第二婦人を作るって、いかがなものかと脳裏に浮かぶ。
向こうの世界でも結婚はしていなかったので、あんまりよくわからないが、そういうドラマを見ている限りでは恐らくダメなんだろうなとは思う。
そんな時だった。
「あれ?勇希奈じゃん」
こんな暑い日にわざわざ出歩いている猛者がいた。
しかもその猛者は、僕にはよく見慣れた人物で──。
「こんな暑い中どうしたの?相川さん」
「いやぁ、用事が終わってすることないしさ。まぁ、ちょっとね」
彼女の視線は自身の腹回りへと向けられる。
事情を聞けば、夏休み中の自堕落な生活により体重が五キロほど増えてしまい、ダイエットに励んでいるらしい。
五キロくらいと思うかもしれないが、年頃の女の子ほど気にせずにはいられないのだ。
「しかもさぁ、再来週には勇希奈たちと約束してたプールっしょ?だから今めちゃ頑張ってんの」
それでもまだ彼女は中学生である。
多少はいいかもしれないが、し過ぎると正常な成長を妨げてしまうかもしれない危険もある。
確かそんなことを夏休み前に保健体育で習った。
「相川さんが良かったらなんだけど、一緒にメニュー考えない?」
もしかしたら余計なお世話かもしれない。
けども、友だちとして放ってはおけなかったのだ。
「マジぃ?助かる~。ネットで調べても中々イイのなくって困ってたんよぉ」
どうやら杞憂だったようだ。
そうと決まれば、早速メニューを考えたいところだが、それにはここはちょっと暑すぎる。
その為、場所を変えようと提案する僕に相川さんは──。
「だったら、アタシん家ならど?猫ちゃん置いてくるのめんどーじゃん。家なら大丈夫だしさ」
彼女の言う通り、わざわざマシロを置いてくる手間が省けるのは助かる。
ここはお言葉に甘えて彼女の家に向かうのだった。
初めて知ったが、意外にも公園から彼女の家は近く、歩いて五分程度のところの高層マンションだった。
どの階なのか尋ねると、彼女はぽかんと呆気にとられた後に突然爆笑し始めた。
【え?僕今おかしな事でも言った?】
「ごめんごめん。ひっさしぶりにそんなん聞かれたからさぁ。そういや言ってなかったっけ、ここのマンションの上から半分は全部アタシの家なの!」
「…ええ、あ。ええ?」
驚きのあまり、語彙が消滅してしまった。
十百那の家も凄かったが、相川さんの家はまた別の意味で凄さを感じる。
入り口は完全オートロックで、まるでホテルを思わせるようなラグジュアリーな造りに、こんなラフな格好で来た自分が場違いにも思えてくる。
エレベーターに乗り、止まったのはなんと最上階だった。
相川さん曰く、このマンションは姉弟用らしく一フロアを大きな子供部屋として使っているのだとか。
そんな彼女の両親のお仕事はというと──。
「コスメの社長と副社長なんよ。ほら、これの」
そう言って見せてきたのは、よく母や妹が使っている化粧品のメーカーだった。
そのメーカーは日本でも有数の企業であるから、こういう生活にも納得である。
部屋に上がると、これぞ女の子の部屋と言わんばかりに、可愛らしい装飾で溢れかえっていていた。
「可愛らしい部屋だね」
「いいっしょ?あ、そこ座って。なんか飲む?」
冷蔵庫を開ければ、お高いジュースでもあるのかと身構えたが、意外にもそんなことはなくて庶民的なラインナップだった。
曰く、彼女のご両親も小さい頃から良い物ばかり食べさせてはいけないと、高い食事は年に数回なのだとか。
それに、使用人も付けずに自分でやれることは自分でやりなさいと自立を促す教育方針であるとのこと。
冷蔵庫の中にいつも飲みなれている麦茶があったので、それをいただき、早速相川さんのダイエットメニューの考案に取り掛かる。
「うーん。正直今の年齢で食事制限はしないほうがいいと思うなぁ」
「そうなんよねぇ。お肌にも悪いしさぁ。胸だって発育しなくなったら困る」
「だったら運動が一番だけど、あんまり得意じゃないでしょ?」
「うん!すっごく運動音痴!」
そんな真っすぐな瞳で言われてもリアクションに困るのだが。
【まぁ、同じクラスだし体育の授業で何となくは見ているけど…ん?待てよ】
「そういえば相川さんって、運動音痴って言ってる割には泳げるじゃん」
林間学校でも、学校のプールでも彼女は至って普通に泳げているのを思い出したのだ。
「あーね。パパたちが流石に泳げないとまずいだろって、小学生の時スイミングスクール行って泳げるようにはなったんよね」
「それだよ!それを生かさない手はないよ!」
正直、出来るのが走るだけだったらどうしようかと思っていたところで、一縷の光が差したようだった。
とりあえず、夏は暑いから運動は基本的にはプールで泳ぐか、なんなら歩くだけでもいい。
水の中を歩くだけでも、普通に歩くよりも負荷がかかる分消費カロリーも多くなるからだ。
食事は基本的には三食きっちり食べる方向は変わらず、なるべく低カロリーを心掛けて間食は禁物で話は纏まった。
「ま、こんな感じかな」
「マジありがと~勇希奈。神だわぁ」
《勇希奈さんが神ならば、私はどうなってしまうんでしょうね》
《うるさいなぁ。いきなり話しかけてくるのはやめてください》
今まで僕の膝の上で大人しく座っていたマシロが急に話しかけてきた。
そう思ったら今度は、寝転び始めた。
【全く、どこまでマイペースなんだか…。ん?スマホが…】
スマホに通知がきたので確認すると、母からだった。
どこまで散歩に行ってるのかという内容であり、時間を見てみれば家を出てからとっくに三時間は過ぎているのに気が付く。
もちろん母にはマシロと散歩に行くとしか伝えていない。
母に心配させてはいけないし、もう帰るとだけ返信して今日はお暇させてもらうことにした。
「ごめん!遅くなっちゃって!ちょっと待ってて」
だが彼女はスマホを取り出してどこかへと電話し始めた。
数分後、相川さんのスマホが鳴ると下へ降りるようにと一緒にエレベーターに乗った。
マンションを出た先には、一台の車が停まっており、運転手がさっとドアを開けて待っている。
「もう暗くなるから、うちのお抱えの運転手をママに頼んで手配してもらったんよ。さ、乗って」
「そんな、大したことしてないし、家だって…」
「ダーメ。これはアタシの気持ち!気持ちは素直に受け取るもんよ。それに女の子を一人で薄暗い中帰らせるなんてありえないっしょ」
確かに最近は何かと物騒なニュースをよく聞く。
しかも今僕は非力な女の子であるため、用心に越したことはないか。
ここはお言葉に甘え、車で送ってもらう事に決めた。
「じゃあ、お言葉に甘えるけど…本当にありがと」
「いいっていいって!んじゃ、さっさと乗った乗った」
そう言って僕らは後部座席へと乗り込んだ。
【おお、これは中々…】
十百那の家の車も乗り心地が良かったが、この車もシートがフカフカであり、驚くべきはなんと車なのにテレビと冷蔵庫が内蔵されていることだ。
それに加え、よく見ればシートはマッサージ機能が搭載されており、もはや車の内装とは思えないほど至れり尽くせりである。
せっかくなので、マッサージ機能を試してみる。
【お、おお!車の装備だから甘く見てたけど、これはいいな】
年甲斐もなくマッサージで癒されていると、あっという間に家の前に着いてしまった。
多少の名残惜しさはありつつも、相川さんに改めてお礼を言って彼女は車で去っていく。
玄関のドアを開けると──。
【いい匂い。この匂いはカレーだな?母さんの作るカレー美味しいから楽しみだ】
ルンルン気分でキッチンに着く。
僕がただいまと言うなり、どこ行ってたのか尋ねる母に事情を説明すると、母は「良かったじゃない」と笑い飛ばした。
若干、羨ましそうではあったけでも。
カレーも食べ終えて、お風呂を済ませた後は約束通り舞依華たちの勉強に付き合う。
二人とも成績は優秀の一言に尽きるが、舞依華は国語、桜士郎は理科が苦手らしい。
【苦手だからやっぱり得意教科とは多少は開きがあるなぁ。どれどれ】
「ああ、桜士郎。ここはこうした方が──」
「なるほね、ありがとうユキ姉」
「お姉ちゃん、ごめん。ここってさぁ」
「ああ、ここね。ここは、この文法をこうやって──」
舞依華たちに勉強を教えること数時間後。
僕のスマホに一件の通知が届いた。
[やほー!優李亜だよ。今日は本当にありがとー!今日の事早速ママに話したらさ、ママが持ってる無人島にある宿泊施設に招待したいってさ!ちょうど、八月の頭くらいならいいみたいなんだけど]
なんと相川さんから、嬉しいお誘いが来た。
写真も送られてきたが、これはいわゆるリゾートと呼ばれるやつなのではと思うと、スマホを見つめる僕の口角が徐々に上がっていく。
そのまま行くと返事をしようと思った僕の手が、ピタリと止まった。
【十百那も誘ったら喜ぶかなぁ】
脳裏にそんな事が浮かぶと、僕の指は自然と動いており──。
[ごめん、西川さんも一緒じゃダメかな?]
[え?別にいいよ。元々雛乃たちも誘う予定だったしさ!皆との方が楽しいし!]
相川さんからOKを貰った後、すぐさま十百那にも誘いの連絡を入れる。
すると彼女も都合が良いようで、OKの返事がきた。
こうして、ちょっぴりドキドキなお泊り会が決定したのである。
いかがだったでしょうか?
また仕事の都合で更新が遅れるかもしれませんが、必ず更新します。
頑張って書きます。もうこうなったら死ぬ気です。
まだまだ未熟ではありますが、引き続き応援してもらえれば何よりの励みになります。
よろしくお願いいたします。




