林間学校 その②
どうも、雪木です。
今回も頑張って書いてみました。
どうか楽しんでいただければ幸いです。
林間学校二日目。
この日は心待ちにしていた海でのリクリエーションが主になってくる。
みんな楽しみにしていたから、テンションも高い。
しかし、どうやらそれだけではないようで──。
「おーし、お前ら!気合い入れてけよ!他のクラスに負けんじゃないぞ!!」
熱く照り返す砂浜に円陣を組んだ僕らの威勢のいい声が木霊した。
これほど気合いが入っているのには、この後のリクリエーションが大いに関係している。
「Aクラス底力!このクラス対抗ビーチサッカーで見せてやろうぜ!」
クラスの元気印である陽川さんの駆け声に呼応し、更に気合いに熱が乗る。
「みんな気合い入ってるなぁ。他のクラスもすごい熱気」
「そりゃーね。だって、優勝したら半年の間学食に万千堂の高級スイーツ付いてくるんだもんな」
万千堂とはセレブ御用達の超が付く高級スイーツのお店である。
僕も父がお客様から貰ってきたのを一度食べたことがあるが、口に入れた瞬間の衝撃は未だに忘れられない。
【あの口に入れた食感、上品な甘さ。あれが半年間毎日食べられるなんて…夢のようだ】
あの味を求める僕の手は、自然と力が入り気合いも乗ろうとした、その時だった。
「「あ」」
偶然西川さんとすれ違ったのだ。
しかし、彼女はすぐに視線をそらしてしまう。
【なんだよ、目逸らしちゃってさ。なんだか顔も赤いし…あ──】
ここに着いてから、出来事がたくさんあって例の約束のこともすっかり頭から抜けていた。
彼女とすれ違ったことで思い出した僕は、握りしめていた拳の力が少し緩んでしまった。
だが同時にある疑問点が脳裏に浮かぶ。
【あれ?そういえば、会うのはいいけど…それはいつ?どこで?】
何度思い返してみても、肝心な時間と場所の指定はされていない。
そのことに気付いて尋ねようとするが、彼女の姿もうそこにはなかった。
探し出して聞こうともしたけど、ビーチサッカーの出番となってしまい結局聞けずじまいになってしまった。
さて、一旦気持ちを切り替えるとしよう。
そもそも夜まではまだ時間もあるのだし、それまでに聞き出せばよい話だ。
今はスイー…いや、クラスの為に全力を尽くそうではないか。
そう自分に言い聞かせてビーチサッカーに心を燃やすのだった。
僕は周りと比べても運動神経は良かったほうだったから、すぐに戦力として抜擢された。
しかしサッカー自体はやったことがあるものの、それは芝生での話。
素足でサッカーボールを蹴るのも初めてだし、砂浜に足を取れられるために芝生のようにうまく身体も安定しない。
だが、持ち前の運動神経ですぐに慣れてしまった僕は、慣れないクラスメイトをアシストしつつも確実にシュートを決めていく。
その様は我ながら、砂浜のネイマールといったところか。
「鞘師さん、すごいなぁ。また決めたよ」
「普通ちょっと教えただけで、ここまで動けるか?」
「今度うちの部活の応援頼もうかなぁ」
頼ってもらえるのは嬉しい。ただ、まだ中学一年だし今は部活は剣道に集中させてほしいのが本音だ。
その後もうちのクラスには運動が得意な子が多かったので、スイスイと勝ち上がっていった。
そしてついに決勝戦。万千堂のスイーツはもう目の前だが、油断はできない。
なぜなら対戦相手は──。
「やっぱり来たな…Dクラス」
「当然でしょう。あの西川さんがいるんですもの」
彼女のいるDクラスもまた、運動神経が良い子が何人かいたらしく、かなりの点差を付けてここまで上がってきたようだ。
特に前に戦った姫岡さんのクラスは大惨敗してしまい、試合後の彼女の目からは生気がなくなっていた。
決勝前に一旦休憩を挟むとのことで、休憩用に立てられたパラソルの下に腰掛けようとした時。
「ひゃっ!!」
よく冷えた何かが背後から僕の頬に当てられた。
びっくりして振り返ると、そこにはニヤニヤと笑う万理華の姿があった。
「なんだよ、万理華かぁ」
「お疲れさん。ほい、奢り」
「お、ありがとう」
奢ってくれたスポーツ飲料を早速ゴクゴクと飲んでいく。
よく冷えたスポーツ飲料が喉を通る度に、暑さで火照った身体をクールダウンさせてくれる。
「ぷはぁ。生き返るぅ」
「まぁ、フル回転だったしね。でもさ、なんかあったっしょ」
「…え?どうして?」
「アンタねぇ、何年一緒にいると思ってんの?うまく隠せてるつもりかもしれないけど、私からしたらバレバレよ」
【参ったなぁ。敵わないよ】
彼女に隠し事は無駄だと思い知った僕は、今日の夜のことについて洗いざらい話した。
全て話し終えると彼女は、なぜだか頭を抱えていた。
「はぁ…昔から鈍いとは思ってたけど、まさかここまでとは…」
「鈍いって何がさ」
「こっちの話。しょうがないわね。一肌脱ぐとしますか」
そう言うと彼女は、西川さんと同じクラスだからとLimuの交換をしていいかどうか聞いてくるが、どうするかと提案してきた。
考えてみるとこの後対戦するが、喋る余裕はあるのか分からない。
それにまた僕相手ではしどろもどろになってしまい、会話にならない可能性だって否定はできない。
なので、万理華に西川さんとのLimuの交換を取り持ってもらうことにした。
そんなやり取りをしてる間に休憩時間は終わり、とうとう決勝戦の時間となった。
向こうのスタメンは、西川さんを筆頭にしていかにも運動が得意そうな子らが勢揃いしていた。
「Dクラスの奴らだけ反則じゃね?」
「女子サッカー部の期待のホープに、フットサルの特待生までいやがる…」
もちろんこれでは、あまりにも戦力差があり過ぎる。
なので先生から提案されたのは、サッカー部かフットサル部の子のどちらか一人のみをスタメン起用を許可するというものだ。
「どうするよ?」
「うーん、一人抜けるのはでかいけど…」
「良いではありませんか。こちらにもDクラスに負けないメンバーが揃っていると、私は思いますし」
【そうだ、僕らだって負けちゃいないよ】
期待のホープがなんだというのだ。
そもそも同じ一年生なのだし、全員サッカー部ならまだしも一人だけならなんとかなるのではないか。
そんな淡い期待も試合が始まると──。
「おい!そっち行ったぞ!」
「そっちそっち!!前前!」
Dクラスの見事な連携を前に、失点こそは防げているが攻めあぐねてしまっていた。
このままではまずいと一旦タイムを申告し、息を整えつつ作戦を練り直す。
「はぁ、はぁ。やば…強すぎじゃね?」
「特に西川さんとサッカー部の子の連携を止めないと…」
「はぁ…ほんとに西川さん…初心者なのですか?」
【二人を止めないといけないのは分かるけど、さて、どうするかなぁ】
ここまで出ずっぱりの僕も、さすがに疲労の色が見え始めた。
クラスのみんなや向こうのクラスでも同じだが、正直このままでは地力の差でこちらが不利なのは確実だろう。
そこで僕らは一つの賭けに出る。
タイムの時間が終わり、試合が再開されると周囲がざわついた。
「え?鞘師さんと陽川さんが、Dクラスの二人にぴったりマークしてる…?」
「でも、あれじゃあAクラスの主力も…」
そんなことは百も承知だ。
しかし、この二人を止めるにはこうするしか方法がなかった。
まずはAクラスで一番運動ができる僕が、サッカー部の子に徹底的に張り付く。その次に陽川さんが西川さんに付く。
僕らの見立てでは、彼女なら西川さんにもついていけると判断したからだ。
【さて、こっからが大変だ…】
縦横無尽に動き回る彼女らに対し、僕らも必死に食らいついていく。
「くっ…!しつこい!」
「おっと、行かせないよ!」
彼女らになんとかボールを持たすことなく、辛抱するなか突如として均衡は崩れた。
「ゴール!!Aクラス一点!」
ホイッスルと共に審判を務める先生の号令が響き渡る。
シュートを決めた子とハイタッチを交わすが、まだその顔に笑顔はない、
【まだ少し時間がある…何としてでもこの一点を守り切らないと】
気を引き締め直してポジションにつくと、Dクラスのみんなの表情がまた一段と迫力が増したような気がした。
スイーツもあるだろうが、単純に同い年の子に負けたくないのであろう。
しかし、それは僕らも同じだ。
再開後も接戦は続いたが、なんとか防ぎ切り、一点差を守った僕らAクラスの優勝が決まった。
勝った僕らはホイッスルが鳴ると同時に駆け寄り、抱き合いながら喜びを分かち合った。
一方で負けたDクラスも悔しさを滲ませていたが、楽しかったと爽やかな笑顔で勝ったAクラスを讃えてくれた。
「おっし、お疲れさん!この後は十分に水分補給と休憩を挟んだら、自由時間で海で泳いできていいぞー」
先生の言葉に、疲れていた身体に元気が戻ってくる。
【やっと。やっと、この海で泳げるんだ】
そして休憩が終わり、自由時間。
みんな待ちわびていたようで、ビーチサッカーの疲れはどこへやらで、着替えたら一目散に海へ飛び込んでいく。
「しっかしすげぇよな。ここら一帯全部星城のプライベートビーチなんだもんな」
「おかげで人目を気にせずに遊べるのもいいですね」
「けどさぁ、スク水ってのはちょっとなぁ」
「贅沢言いすぎですよ、相川さん」
日焼け止めを塗り、準備体操を終えていざ、念願の海に恐る恐る足を踏み入れる。
「冷たっ!」
初めての海は思ったよりも冷たかった。
一歩一歩深場へと進み、ひざ下まで浸かったところで思い切って泳いでみる。
【うわぁ。なんだこれ…】
透き通る海の中は、色とりどりの魚が赴くままに泳ぎ回り、とても僕の知っている海とは程遠いほど美しい。
しばらく一人で泳いだあとは、クラスのみんなとも一緒に泳いだりして楽しんだのだった。
ひと通り楽しんだら、一旦海から上がって休むことにした。
そうしていると──。
「おーっす。優勝おめでとさん」
同じく海から上がってきた万理華だった。
「おかげでめちゃくちゃ疲れたけどね」
「そういえば例の件、OKだってさ。また宿舎戻ったら友達申請来るんじゃない?」
「ありがとう、万理華」
これで待ち合わせのことは大丈夫だろう。
当の本人は、試合中でもなぜか目を合わそうとしないし、終わって握手をしようものならもじもじしてしまって中々手を差し出そうともしない。
そういう状況なので、今日もまともに直で話すのは厳しいと感じていたし、ありがたい話だ。
時間は過ぎていき、宿舎へと戻ってきた僕らは、夕食の前に海水でベトベトになった身体を洗い流す。
お風呂から上がったら、夕食までまだ少し時間があるとのことで、先生から自室で待機を言い渡されてみんなと適当に喋っている中──。
『ブーッブーッ』
スマホが鳴り、画面を見るとそこには『西川十百那があなたを友だちに追加しました』とのメッセージがあった。
承諾を押して友だちに追加すると、すぐさまメッセージが送られてきた。
『今日の待ち合わせの場所と時間を伝え忘れていてすまなかった。場所は──』
夕食を済ませ、自由時間となりクラスのみんなが部屋へと戻る中、僕は同部屋の陽川さんに親と少し話してくると言い訳してこっそりと外へ抜け出した。
指定された場所に行くと、彼女はぼんやり夜空を眺めて待っていた。
「えーっと…あ、いたいた。ごめん待った?」
「あ…ああ。いや、い…今来たとこ」
相変わらずもじもじしているし、いつもの彼女の感じはどこにもない。
【本当にこれで大丈夫かな】
そんな心配を抱えながら、星空の名所であるという宿舎南の岬の灯台へと向かう。
「「……」」
【歩き始めてもうどれくらいだろ。気まずい…】
それもそのはずで灯台に向かう道中、ここまでほとんど会話無しなのだ。
一応こちらから話題は振ってるのだが、彼女の反応が悪くて会話が続かない。
そんな終始無言が続く中、とうとうそのまま目的地の灯台に到着してしまった。
【うーん、着いたけど…どうするんだ、これ?】
「ゆ、勇希奈」
ここまで自ら言葉を発しなかった彼女が、ここに来て初めて僕に語りかけてきた。
「あ、えーっと。向こうにベンチがあるから…そこで…見ないか?」
そう言う彼女の顔は、辺りが薄暗くてよく見えなかった。
僕らは、灯台の傍にあるベンチに腰掛けて静かに星空を眺めた。
「うわぁ。綺麗…」
夜空いっぱいにキラキラと煌めく星々に思わず息を吞んだ。
【星空ってこんな綺麗だったんだ。向こうの世界は、どうだったかな…】
向こうの世界に思いを馳せていると、隣に座っていた西川さんの指と僕の指が微かに触れた。
彼女に目を向けてみれば、やはり薄暗くて表情を伺うことはできない。
しかし、微かに触れたその指先から彼女のほんのり熱い体温だけは感じる。
そんな時、灯台の灯りがチラッと西川さんの顔を照らした。
「…どうしたの?顔、赤いよ」
「うん…。なぁ、一つお願いしてもいい…か?」
「無理なお願い以外なら」
「このまま、手…繋いでもいい?」
僕は静かに頷いた。
すると彼女の細い指が、僕の手を優しく包み込む。
微かに感じていた体温が右手を覆い、ひしひしと伝わってくる。
「なぁ、勇希奈。君に、その…伝えたいことがあるんだ」
そう言うと彼女の体温は更に上がっていき、僕の手を握る力徐々に強くなっていく。
今まで直視できなかった目も、まっすぐ僕に向けられていた。
「好きだ。だから、お付き合いを…してくれない…か?」
この時僕はようやく彼女の気持ちが分かった。
同時に初めての告白を前に、今度は自分が視線を逸らしてしまう。
【え…好き?僕を…ちょっ…うそ】
頭の中が整理できない。
なのに、心臓の鼓動だけが自分の中でうるさいほどに響いている。
隣では西川さんがまだかと返事を待っている。
【西川さん、待ってる。でも、なんて答えれば…】
そうして散々考え抜いた末に僕が出した答えは──。
いかがだったでしょうか?
良ければ応援してもらえれば、励みになりますのでよろしくお願いします




