林間学校 その①
どうも、雪木です。
今回は林間学校です。
色んなイベントを予定してますので、楽しんでいただければ嬉しいです。
テスト終わりというものは、学生ならば誰もが開放感に酔いしれる頃だ。
そんな僕らに、更に浮足立ってしまうようなイベントがとうとう間近に迫りつつある。
「さて、諸君。いよいよ明後日は、お前らにとって初めてのお楽しみイベントの一つ。林間学校だ」
鵜川先生の言葉に、朝の教室内が一気に色めき立つ。
「林間学校かぁ。どこ行くんだろう」
「林間ってなってんだから、やっぱ山とかか?」
【この感覚、修学旅行みたいでワクワクするなぁ。確か去年は群馬だったみたいだけど、今年はどこなんだろ】
各々に妄想が膨らむ中、鵜川先生は手を二回叩いて諫め再び口を開く。
「今年の林間学校だが、者ども喜べ!!場所は千葉の館山でやることになったぞ!」
「てことは…」
「そうだ!海だ!!」
その瞬間、教室内に歓喜の声が木霊した。
みんな林間学校だというものだから、てっきり山なのだろうとばかり思っていた。勿論、僕もその一人なわけだが。
【魔獣たちがいない海かぁ。向こうの海は魔獣の毒素もあって泳げなかったし…うん!楽しみだ】
あと、実を言えばこの世界に来て僕は海を生で一度も見ていない。
だから、余計に楽しみなのだ。
昼休憩になれば、クラスでは林間学校の話題で持ち切りである。
「なぁなぁ、勇希奈!林間学校海だってさ!楽しみだよな」
「うん、実は海に行くの初めてなんだ。小学生の頃は習い事で忙しくて」
「なら、お肌が焼けないように日焼け止めクリームは必須ですよ」
楽しいこととなれば話題に事欠くことはなく、次々へと豊かな想像力を膨らませていった。
部活でもそれは例外ではなかった。
僕らが林間学校で盛り上がっていると、聞いていた先輩らも加わり、自分らの時の話をしてくれた。
どうやら部長たちの代では新潟だったそうで、時期も僕らとは違って真冬だったから、東京では見られないほどの雪に感動したのだとか。
他にも楽しかった思い出話を聞く度に、胸が弾んで仕方がない。
──そうして帰りになり、西川さんと駐輪場に向かう最中にも僕の足取りは弾むようだった。
「いやぁ、楽しみだなぁ。ね、西川さん」
「あ、ああ。そうだな」
【ん?歯切れが悪い?楽しみじゃないのかな…。それに──】
「ちょっ!ちょっといいか?」
突然立ち止まった西川さんが、やけに顔を赤らめて呼び止めた。
どうしたのか尋ねてみても、いつもの彼女らしさはどこへやら。
なぜかもじもじしているし、目線は合わないし。おまけに会話もしどろもどろという有り様だ。
まともに話し始めたと思ったら「館山は星が綺麗だそうだぞ」と、何が言いたいのか全く分からない。
「ああ、もう!埒が明かない!」
珍しく声を張り上げた僕は、彼女に詰め寄る。
「なにが言いたいのさ。林間学校でなにかあるの?」
「……ゴニョニョ…」
「何て?もうちょっとはっきり」
「だから!!二日目の夜に!林間学校の夜に一緒に星でも見ないかって言ってんの!!」
【そんなことは言っていない気がするけど…まぁ、いいか】
なんでわざわざ僕と星を見に行きたがるのか分からなかったが、とりあえずOKはしておくことにした。
一つ言えるのは、OKした直後に彼女の顔と耳が夕日と同じ色になっていたくらいか。
その後西川さんは、自分の顔を隠すようにして一人去っていった。
家に帰り早速母に帰りの出来事について相談するが、母は「あらあら、若いって良いわね」と言うだけで結局何も教えてはくれなかった。
前に自分で考えなさいと言われているから、あまり期待はしていなかったけど、もどかしいにもほどがある。
いっそのことAIにでも聞いてしまおうか。一度はそう思った。
しかし、それは何か違う気がすると思いとどまるが、むずかゆいことこの上ない。
ベッドの上でうーん、うーん、と寝転んでうなだれる姿を妹らがそっと覗いている。
「あれ、どうしちゃったの?」
「さあね。けど、何をやらせても完璧なユキ姉にも悩みがあるんだね」
考え事に夢中な僕は、妹らの話し声に終始気付くことはなかった。
結局誰にも相談せずに林間学校当日を迎えた。
高揚感と西川さんに対する感情が入り交じり、何とも言えない気分でバスに乗る。
中は流石は私立といったところで、普通のバスよりも豪華である。
座席も座ってみると一目瞭然でフカフカだし、目の前にはタブレットが内蔵されたりと至れり尽くせりで長時間の移動でも問題なさそうだ。
ちなみに隣は陽川さんなので、気まずくなる心配もないのも嬉しいところ。
「ほい、勇希奈。これ美味いんだぜ?」
「いいの?じゃ、私も」
出発と同時に陽川さんと持ってきたお菓子を交換した。
お菓子に関しては各自一つは持ち込みOKと言われ、各々厳選されたお菓子を持ち込んでいる。
中にはかなりお高そうなお菓子もあったりして観察するだけでも楽しい。
周りも隣同士や前後の席でのお菓子交換も始まり、走り始めたころの複雑な感情は一旦落ち着かせられた。
途中休憩も挟みながらバスに揺られること約二時間。
バスを降りた先に広がる水平線に思わず息をのんだ。
「これが…海」
どこまでも続く水平線。その上の大空を自由に飛ぶ海鳥たち。
なによりも、太陽から降り注ぐ日差しをキラキラとまるで宝石のように乱反射させる美しい海に、思わず虜になってしまった。
「おーい、なにぼーっとしてんだよ。行くぞ」
「あ、ごめん」
海に見惚れてしまっている僕を、見かねた陽川さんが腕を掴んで引っ張る。
正直もう少し見ていたかったが、後でも存分に楽しめるからと自分に言い聞かせて宿舎先へと向かうのだった。
宿舎はバスを降りてすぐそこにあり、部屋からの眺めも絶景で所謂オーシャンビューというやつだ。
一旦部屋に荷物を置くと、学年主任の先生から広間に集合がかかった。
広間に集まり、整列したのを確認した学年主任の田原先生が口を開く。
「ここまでお疲れ様。まぁ、みんな疲れているだろうから簡潔に言うよ。私から言えるのは、全力で楽しんで学べ!あ、危険なことだけはするんじゃないぞ。以上」
田原先生が話し終わると、すかさず今度は鵜川先生が出てきていくつか注意事項を述べた後、早速一つ目のオリエンテーションへと向かうのだった。
オリエンテーションを二つほど終えて今日は暮れていった。
夕食は海が近いのもあって、新鮮な海の幸を中心としたメニューで、一部のカロリーを気にする生徒からも好評のようだった。
ご飯が終われば、いよいよお風呂の時間である。
きれいな大浴場ともあり、クラスのみんなはとても楽しみな様子だ。僕以外は。
【大丈夫、落ち着け!今は自分も女の子なんだ。変に緊張してたらダメだ!】
女の子の身体は小さい頃に母や妹とお風呂に入っていたから、見慣れているし大丈夫。
そう思っていたのだが、いざ入るとなるとなんだか無性に恥ずかしい気持ちがこみ上げてくるのだ。
「どうしました?勇希奈さん」
浴場の入口付近でうだうだしていた僕を不思議に思った八嶋さんが声をかける。
「いや、あの…。な、なんでもないよ?」
「そうですか。早くしないと入浴時間終わっちゃいますよ?」
そんなことは知っている。だが、このままうだうだしていても仕方がない。
意を決した僕は、まだドキドキが抑えられないまま更衣室へと足を踏み入れる。
淡雪のような白い肌、ドライヤーの風に乗って香るシャンプーの良い匂い。
そのどれもが僕にとっては新鮮だった。
早速脱ぎ始めるが、慣れたはずの女の子の服も今日はなんだか手間取ってしまう。
【ああ、もう。女の子の下着ってなんでこうなってんの。もう少し脱ぎやすくならないのかな】
そんなちょっとした不満を感じながらも、服を脱ぎ終わった。その時──。
「ゆーきな!」
「ひゃっ!!ちょっ、ちょっと!」
突然背後から相川さんと陽川さんが、裸で抱き着いてきたのだ。
【あ、当たってる!当たってるって!!】
まだ未発達といえど、確かな柔らかさを背中に感じる。
「あれ?どーしちゃったの?顔、赤いよ?」
「いいなぁ、肌超スベスベじゃん!どこの使ってんの?」
これはただのスキンシップだ。普通のことだからと己に言い聞かせる。
だが、そう言い聞かせる度に逆に意識してしまい、更に身体に熱が帯びてしまう。
このままなら何とかやり過ごせるだろう。そんな風に思っていた矢先──。
「えい!」
「ちょい…そこは!」
二人は、僕の成長中の双丘に手を伸ばしてきた。
まさかそこまで触ってくると思ってもおらず、熱は一気に身体全体へと行きわたる。
「普段から思ってたけど、中一にしては大きいよね?」
「ふむふむ。柔らかさも中々…」
「こら。お二人ともそろそろその辺になさい。ほんとに時間無くなりますわよ?」
八嶋さんに諫められた二人は「はーい」と渋々僕を開放し、浴場へと向かっていった。
【た、助かったぁ…。もう少しで、なんというか…変な気分になっちゃいそうだったし】
ハプニングもあったが、ようやくお風呂へと入っていく。
入浴を済ませて浴場を出ると、なんだか外が騒がしい。
さっと着替えて騒動の方へと足を運ぶと、ある事に気が付く。
【あれ?こっちって僕らの部屋の方向じゃ…。なんだか嫌な予感がする】
こういう時の嫌な予感ほど当たるものはない。
案の定騒ぎの元は僕らの部屋からだった。
どうか、どうか僕でありませんようにと、祈りながらそーっと部屋を覗く。
「かわいいね、この猫」
「どこから来たのでしょうか。真っ白な毛並みがとても素敵ですわ」
自分にとって見慣れ過ぎている子猫が、陽川さんらに愛でられている姿がそこにはあった。
《ふふふ。やはりこの姿はお得ですねぇ》
すっかり愉悦に浸っているようだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
見かねた僕は、半ば強引に猫を連れ出して人目のないところまで駆けていく。
周りに誰もいないのを確認して、猫に詰め寄る。
《どういうことですか!なんで、どうやってついてきたんですか!》
《まぁまぁ、落ち着いて。こんな楽しそうなイベントがあるのに、黙っているわけないじゃないですか》
落ち着いてというが、こいつが言うことではない。
《とにかく帰ってください!魔法かなんか使えるんでしょう?》
《使えませんよ。ここについてくるのでも荷物に紛れるのが大変でしたし》
冗談ではない。何が何でも帰ってもらわないと、バレたらどうなるか分かったものではない。
《じゃあ、あなたは僕にこのまま黙って怒られろと?この人でなし!》
《人でなしですよ?今は猫ですから》
マシロの減らず口に思わず口をへの字に曲げて応戦しようとした、その時。
「うん?鞘師じゃないか。どした、そんなところで」
ちょうどタバコを吸いに来た鵜川先生と、偶然鉢合わせてしまった。
【まずい。隠す…にしても…仕方ないか】
この状況になっては、もうどうしようもない。
覚悟を決めて、先生に荷物に紛れて猫がついてきてしまった事を正直に話した。
事情を聞いた先生は、頭をポリポリと掻いてこの場で少し待ってろとだけ言い残して一旦去って行った。
しばらく待っていると、微かに眉間にしわを寄せた田原先生をつれて戻ってきた。
「事情は聞いたよ。ついてきてしまったのは仕方がない。だが、生徒の中にはアレルギーのやつもいるから、林間学校が終わるまでは職員が預かるが、いいな?」
願ってもない申し出である。
自由がなくなりマシロは不満そうな顔を浮かべていたが、自業自得なのでしょうがない。
とりあえず厄介なことにはならなそうで、ほっと肩をなで下ろして宿舎へと戻った。
忙しくも楽しかった林間学校一日目が終わろうとしている。
だが、消灯時間になっても中々寝付けず、逆に寝ようと意識するたびにどんどん目が冴えてしまう。
【どうしよう…寝れない…。】
床に入ってどれくらいたったのだろうと、向かい側に掛かっている時計を見ようとした時だった。
「あれ?勇希奈も起きてたのか」
向かい側で寝ていた陽川さんと、ばっちり目が合ったのだ。
どういう理由かは知らないが、彼女も寝付けなかったらしい。
「なんかちょっと、目が冴えちゃって」
「あら、奇遇ですわね。私もです」
しかし、寝付けないのは僕らだけではなかった。
僕らの声に呼応するかのように、同部屋のほぼ全員が続々と自分も起きているとひそひそで言ってきたのだ。
こうなれば布団を被りながらのプチお喋り会の始まりである。
その前に見回りに来る先生の対策も欠かせない。
すぐに寝る体勢になれるように布団は被ったままで、うつ伏せで上半身のみ起き上がらせる。
入口付近にいる子には見張り役になってもらうことで抜かりはない。
準備が整ったところで各々女子トークに花を咲かせる。
中には恋バナをしている者もいて、更に驚いたのが一つ上の先輩とお付き合いをしていることだ。
正直、色恋は話していてもよく分からない。
幸せそうなその子の表情に対して、僕は今どんな表情だろうか。
いつもより何故だか気分が乗らぬまま、その夜は更けていくのだった。
いかがだったでしょうか?
まだまだ小説を書き始めて日が浅い未熟者ですが、面白いと思ってもらえるならばこの上なく嬉しいです。
よろしければ、応援お願いいたします。




