お出かけです
どうも、雪木です。
今回は日常回を書いてみました。
楽しんでいただければ幸いです。
時は流れ、月曜日の朝。
いつものようにベッドから起き上がる僕の身体は重かった。
大丈夫、風邪ではない。
【…試合、張り切りすぎた…】
ベッドから出てキッチンへと向かうと、いつもならとうに家を出ているはずの父が朝食を食べていた。
「おはよう。珍しいね、父さんがまだいるなんて」
「おはよう。今日は特に依頼がないからね」
「嘘よ。父さんね、事務所の人に働きすぎって怒られて、無理矢理休まされたのよ」
どこかで聞いたような話である。
その話の主をキョロキョロと探してみるが、姿がない。
「あれ?あの子猫は?」
「ああ、鶴丸か。鶴丸なら、ご飯食べ終わって父さんの部屋で日向ぼっこしてるよ」
あの後仔猫になって現れたマシロは、舞依華の命名により鶴丸と名付けられた。
由来は、マシロの模様が鶴に似ているからだとか。
本人としてはどう思っているのかといえば《人間にしては良いですね》と、満更でもない様子だった。
「そういえば、新人戦は頑張ったじゃない」
「個人戦、団体戦ともに準優勝か。上出来じゃないか」
「まだまだだよ。もっと練習しなきゃね」
「練習もいいけど、たまには息抜きもしなさいよ?」
そんな話をしている間に、もう登校する時間になっていた。
再度身なりを整えて玄関に向かう。
途中、ちょうど起きて階段から降りてくる妹らと挨拶を交わして家を後にする。
学校に着き教室に入ると、矢嶋さんらが挨拶がてら歩み寄ってきた。
「おはようございます。ちょっといいかしら」
「おはよう。どうかした?」
すると彼女は大したことではないと前置きしつつ、テストも無事終わり、部活動がひと段落したから、今週の土曜日あたりにみんなでどこかに遊びにいかないかと提案してきた。
幸いにも今週の土日、新入部員は新人戦の疲れもあるだろうとお休みである。
ちょうどやることもなく困っていたところであり、まさに絶好のタイミングと言えよう。
そう思った僕は、何人かはあまり喋ったことがない子もいたが、むしろいい機会だと快くOKした。
だが、ここであることに気が付く。
「あれ?陽川さん、まだ来てないの珍しいね」
「雛乃はちょっと遅れるようです。先ほどLimuでメッセージが来ましたから」
そう言って矢嶋さんは、自分のスマホを取り出して彼女とのやり取りを見せてくれた。
「陽川さん、また痴漢捕まえたんだ…」
「たまに電車に乗るとすぐこれです」
主にバス通学の陽川さんだが、たまに寝坊してバスに乗り遅れる。
その時は電車を使うらしいのだが、彼女が電車に乗るとほぼ必ずといっていいほど痴漢を捕まえてくるのだ。
時には他校の生徒すら助けるので、それがきっかけでどんどん交友関係が広がっているという。
彼女の行いに感心していると、廊下の方からものすごい勢いでこちらに走ってくる足音が聞こえてくる。
足音の主は、僕らの教室の前で「ギリギリセーフ!!」と言って豪快なスライディングを決めてみせた。
「お、おはよう。陽川さん。間に合ってよかったね」
「ぜぇ…っはぁ…ちょっ、待って…息整えるから…」
どうやらここまで全力疾走してきたようで、息も絶え絶えだ。しかも、季節は梅雨真っ盛り。
汗でびっしょりの身体には、制服のブラウスがピッタリ張り付いていた。
「おうおう、どした陽川。そんな息をきらして」
「ど、どもっす、鵜川先生…」
まだ息が整わない彼女の代わりに僕らが事情の説明をすると、鵜川先生は痛快に笑い飛ばした。
その後、彼女のやったことはいいことだと前置きしたうえで、一つだけ注意を促す。
「いいか?お前らはまだ中学一年だ。それに対して相手は大人の男。もし、その相手が実力行使に出てきたらどうする?力の差は歴然だ。今までは運が良かっただけだ。次は本当に危険な目に遭うかもしれん。だから、見つけても絶対に一人では対処するな。いいな?」
いつもだらしない鵜川先生の珍しい真剣な眼差しに、僕ら一同も改めて身が引き締まる。
【そうだよな。いくら剣道が強いからって、僕だって今は女の子なわけだし気を付けないと】
そんな朝の一幕がありながらも、今日も一日が始まる。
──そして授業と部活が終わり、帰路に就く。
家に着いてゆっくりしていると、スマホの着信音が鳴った。
相手は万理華であり、彼女とはテスト週間などの忙しい時以外はこうやってLimuでやり取りをしているのだ。
早速彼女に今週の土曜日のことを伝える。すると彼女には、ある懸念点があるという。それは──。
【それはいいとして、勇希奈。アンタ服とか持ってんの?】
【服ぐらいは持っているし、さすがに気にしすぎじゃないかな】
そんな感じで返すと、彼女は証拠にクローゼットの中を写真を撮って送るように求める。
どれほど信用がないのか。と、思いながらも撮って送った。
すると、彼女からの返答は【思った通り、全然ダメ】という痛烈なダメ出しだった。
何がいけないのだろうと僕は、舞依華にも事情を話して尋ねる。
事情を聞いた舞依華もクローゼットの中を見た瞬間、大きなため息を吐いた。
「やっぱりね…」
「え?なに?どこかまずいの?」
「お姉ちゃんさぁ…中学生の女の子のクローゼットの中が、ジャージしかないって何か思うところはないわけ?」
【何も思うわけがないだろう。ジャージの何が悪いのさ】
中身は男だし、向こうの世界から今までこうして生きてきて、服など一切気にしたことなどない。
だから、妹らがこうやって呆れ顔をする意味がどうやっても分からなかった。
すると舞依華は、突如部屋を出たと思ったら母を連れてすぐに戻ってきた。
「お母さん。このクローゼット見て、母として何か思わない?」
「うーん…確かに、これは…」
「え!?母さんまで?」
これは流石にショックが隠せない。
服は下着以外は母からお金を貰って自分で買っているけど、それに関しては特に何も言われなかったからだ。
「流石に放置しすぎたかしらね」
「よし、決めた。お姉ちゃん最近時間あるよね?だから明日は、万理華さんと一緒に買い出しに行くよ!」
とんとん拍子に僕の外で話が進んでしまっているが、自分のことでこんなに思ってくれているのだから、嬉しい限りである。
傍で聞いていた母も快く承諾し、お金まで渡してくれた。
──翌日。
学校も終わり、近所の大型複合ショッピングモールへとやってきた僕らは、早速ファッションフロアのある二階へと向かう。
ファッションフロアに来てみると、普段僕が気にも留めないオシャレな服がいっぱい並んでいた。
中にはこんなの履いていいのだろうかと思えるほど、丈の短いスカートまである。
【お、女の子ってこんなのも履くの!?それに向こうの服だって──】
もちろん向こうの世界でも、ある程度のファッション文化はあったし、なんなら丈の短いスカートだってある。
しかし、僕は向こうの世界では魔獣や魔人との闘いに明け暮れていたため、まじまじと女の子の服など見たことなどなかったし、興味すらなかった。
そんなことなどつゆ知らずの二人は、何着か手に取って服の上から僕に合わせる。
「万理華さん、これどうです?」
「うーん。ちょっと派手じゃない?これとかどう?」
「地味すぎても…お姉ちゃんはどう思う?」
いきなりこちらに振られても困る。
一応昨日ファッション雑誌にざっと目を通してみたけど、正直僕にはレベルが高くてよく分からなかったし。
「私もそんなに派手なのはなぁ」
「じゃあ、たまにはこれなんかどう?」
「あ、いいですね。お姉ちゃん普段こういうの履きませんし」
こうしてどんどん僕の服選びは進んでいき、何着か購入したら、すっかり僕の財布はすっからかんになっていた。
すっからかんとは言っても、ちゃんと土曜日に遊びに行く分は家にとってあるから心配はいらない。
買い物が終わって改めて付き合ってくれた二人に感謝の言葉を言って、今日は終わった。
そうして約束の土曜日。
普段ならベッド入ればすんなり寝られるのに、昨日の夜は何故だか寝つきが悪かった。
ふと、僕は買った服を手に取って着替えて鏡の前に立ってみる。
鏡に映ってるのは確かに自分だ。しかし、服が変わっただけで全てが変わって見えた。
【オシャレってすごいな】
自分の姿に見惚れている中、ドアをノックして舞依華が入ってきた。
「うん、よく似合ってる。あとはヘアセットしてあげるから、そこ座って」
そう言うと妹は寝起きでぼさぼさだった髪を、あっという間に綺麗に整えていく。
髪がセットし終わり、改めて鏡の前に立ってみた。
【すごい…これ、本当に僕なの?】
髪を整えるだけで、さらに自分がキラキラと輝いて見えた。
そんな自分を見て、もっとこうしたらどうか、もっとああしたらどうなのか。色んな着飾った自分を想像すると楽しくて仕方がない。
準備をして家を出て歩いていると、普段よりも視線を感じることに気が付く。
【どうしたのだろう。なんか見る目が違うような…】
「あら、勇希奈ちゃんじゃない」
近所のよく挨拶をしてくれるおばあさんが、声をかけてきた。
「いつも綺麗だけど…今日は特に綺麗ね。まるで大和撫子みたいよ」
流石に褒めすぎである。
あくまでお世辞だと正直に受け取らなかった僕は、お礼だけ言って約束の場所へと向かう。
待ち合わせの場所に着くと、もう既に自分以外の五人は到着していた。
もしや遅れてしまったかと焦って駆け寄る。
「ごめん、遅れちゃった?」
「いや、全然大丈夫!」
「こうやって遊びに行くの初めてだから、みんな楽しみすぎて早く来ちゃったんよ」
確かにスマホの時間を見れば、集合時間より十分ほど早い。
どうやら今日が楽しみだったのは、僕だけではないようだ。
メンバーが全員揃ったところで早速目的地に向かう中、一人が僕の背中をツンツンと突く。
「ね、鞘師さんとあーしってあんま接点ないっしょ?だから改めて、ね。私は相川優李愛。よろー」
「よろしく、相川さん」
この相川さんは、ハーフ故の綺麗な金髪が一段と目を惹く子で、いわゆるギャルというやつだ。
けど、派手な見た目とは裏腹に勉強はしっかりできるという出来るギャルでもある。
「あー、優李愛だけずるい!あたしは弥冨翔子ね!」
「んじゃ、私も。安城美和ね、よろしく」
弥冨さんと安城さんはそれほど見た目は派手ではないけど、いつも相川さんと一緒にいるため、クラスのみんなからはギャル三人衆と呼ばれている。
そんな一行がまず訪れたのは、ゲームセンターだった。
「女子が遊びに行くんなら、まずここっしょ!!」
「プリクラかぁ。いいな!」
プリクラはよく妹らが友達とよく撮ってるけど、僕自身は撮ったことがなくて少し緊張する。
相川さんおすすめだというプリ機に一人百円ずつ投入し、いざ撮影に入る。
「ちょっ鞘師さん、表情硬すぎ!もっと笑って」
「こ、こうかな?」
「うーん、まだちょっと硬いな」
初めてのプリクラに悪戦苦闘しながらも、ようやく表情に合格を貰ってパシャリと一枚撮った。
これで終わりかと思ったが、どうやらまだ『盛る』という作業があるようだ。
その作業をするためのタッチパネルがあり、主にギャル三人衆が中心となって作業をしているが、初めての僕は大人しく後ろで待っていることにした。
わちゃわちゃ作業すること十分。
ようやく出来上がった人生初のプリクラに、思わず目を丸くした。
「いや、え?目元とか全然違う」
「鞘師さん元が良いから、あんまいじるところなくてウケるわ」
「ほんとな。俺らなんか盛りまくりだもんな」
今まで写真ならいくらでも撮ってきたが、こんなに面白いと思ったのは初めてだ。
大切にバッグにしまい、しばらくゲームセンターでひと時を過ごした。
お昼に差し掛かり、フードコートで食事を済ませると、今度はみんなで服を買いにいくことになった。
ついこの間買ったばかりだが、服を選ぶ楽しさを知ってしまっては断る選択肢など既にない。
やってきたのは、他のお店とは数段レベルが違うようなオシャレな服がずらりと並ぶ、アパレルショップだった。
「や、八嶋さん?ここ私ら、場違いじゃ…」
あまりにもオシャレ過ぎる外観に、僕らはすっかり足がすくんでしまう。
だが、僕らを連れてきた八嶋さんだけは余裕の表情である。
「大丈夫ですよ。だってここ、私のお母様が経営してるショップですから」
それなら余裕の表情にも合点が行くというものだ。
そんな時、一人の女性が数人引き連れて出てきた。
いかにも高級そうな出で立ちに、近づきがたいオーラを放つその女性は僕らの方に目を向けると、ピタッと立ち止まった。
すると突如八嶋さんが、その女性の元に駆け寄って何かを話し始めた。
数分で話し終わったようで、こちらに戻ってくる八嶋さん対し、女性はお店の人に何やら指示を出して迎えの車に乗って去って行った。
「ねぇ、あの人って…」
「はい。私のお母様ですよ」
八嶋さんお母さんは、世界的なファッションデザイナーらしい。
当然僕は知らなかったので、いまいち凄さがピンと来ていなかった。
「お母様にご友人と遊びに来たと伝えたんです。そうしたら、お母様が皆さんにお好きな服をどれでも一着プレゼントしてくださるそうですよ」
なんという気前の良いお母さんなのだろうか。
お言葉に甘えてじっくりと服を選んでいると、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気が付くと外は真っ暗になっていた。
お店を出るとそのまま解散になったが、その前にまた一緒に遊びに行こうと約束して楽しい一日が終わったのだった。
読んでくださりありがとうございました。
まだまだ未熟者ですが、楽しい、面白いと思ってもらえるならこの上ない喜びです。
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