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第21話 「保存庫改革」

 翌朝。


 モルト村は少しだけ騒がしかった。


「本当に柔らかかった!」


「昨日のパン、

 今までと全然違った……!」


「スープに味があったの初めてだ……」


 村人たちが朝からざわついている。


 その中心で。


「…………」


 シンは死んだ目で机へ突っ伏していた。


「なんで異世界来てまで、

 朝五時から仕込みしてんだ俺……」


 完全に前世と同じだった。


 すると。


「シーン!」


 リナが元気よく走ってくる。


「村のみんな、

 すっごい喜んでるよ!」


「そりゃよかったな……」


 だがシンの顔は浮かない。


 理由は簡単だった。


 食材不足。


 昨日の料理で、

 村の保存状況がかなり危険だと理解してしまったのだ。


(あの状態、

 普通に放置したら食中毒出るぞ……)


 特に保存庫。


 あれは酷かった。


 湿気管理ゼロ。


 食材配置も最悪。


 発酵どころか腐敗寸前の物まであった。


 職人として、

 見逃せる状態ではない。


「……あー、見なきゃよかった」


「?」


 リナが首を傾げる。


 その時。


「シン!」


 村長マルタがやってきた。


「ちょっと保存庫見てくれないかい?」


「やっぱりそう来たか……」


 嫌な予感しかしなかった。


◇ ◇ ◇


 モルト村の共同保存庫。


 木造の小さな倉庫だった。


 中へ入った瞬間。


「うわ」


 シンは顔をしかめた。


「湿気っっっ……」


 むわっとした空気。


 カビ臭さ。


 乾燥保存のはずの麦まで、

 少し湿っている。


 村人たちは不思議そうだった。


「やっぱり問題あるのか?」


「ありすぎる」


 即答だった。


 シンは次々と保存袋を確認していく。


「まず、肉と麦を近くに置くな」


「なんでだい?」


「臭い移るし湿気る」


「えっ」


「あと床置き多すぎ」


「床置き?」


「地面の湿気吸うんだ」


 村人たちがざわつく。


 シンは頭を抱えた。


「誰だよ管理してんのこれ……」


「私だよ」


 マルタだった。


「あっ……なんかごめん」


 空気が気まずくなる。


「その、

 責めてるわけじゃなくてだな」


「責めてる顔してるよ」


「だってこれ、

 かなり危ないぞ」


 シンは乾燥豆を持ち上げる。


「これ、

 一歩間違えば腹壊す」


「そ、そんなにかい!?」


「むしろ今までよく無事だったな」


 村人たちが青ざめる。


 だがシンは、

 途中で気づいた。


 この村には、

 “知識”がないのだ。


 保存技術。


 発酵技術。


 湿度管理。


 そういう文化自体が存在していない。


 だから、

 悪気があるわけではない。


 単純に知らないのだ。


「……なるほどな」


「?」


「この村、

 飯がマズい以前に、

 保存技術が死んでる」


「ひどい言い方だね!」


突然の暴言にマルタが反応する。


 だが事実だった。


 シンは腕を組む。


「まず換気。

 あと棚作れ」


「棚?」


「床から離して保存しろ」


「そ、そんなので変わるのか?」


「変わる」


 シンは断言する。


「あと発酵使えば、

 もっと長持ちする」


「また発酵かい……」


 マルタが困惑する。


 《発酵樽庫バレル・ストレージ》。


 ぽんっと樽が出現する。


「おぉぉ……」


 未だに村人たちは毎回驚いていた。


「例えばこれ」


 シンは蓋を開ける。


 酸っぱい香りが広がり樽にはピクルスと書いてある。


「野菜をこういうブライン液に漬ける」


「ブライン液?」


「まぁ塩水でいい。」


「そんなので腐らないのか?」


「むしろ長持ちする」


「はぇ〜……」


 村人たちが感心する。


 その時。


==========


《発酵Lv5》


発酵知識の伝達を確認


熟成経験値を取得しました


==========


「また出た!?」


 シンが叫ぶ。


「ど、どうしたの!?」


「いやなんか頭の中に文字が!」


「呪い?」


 リナがちょっと引いた。


 シンは頭を押さえる。


「この世界、

 いちいちログ出るのか……?」


 だが。


 嫌な感じではなかった。


 むしろ、

 身体へ知識が馴染んでいく感覚がある。


 すると。


「シン!」


 外から村人の声。


「手が空いたら畑も見てくれ!」


「今度は畑かよ!?」


 休む暇がなかった。


◇ ◇ ◇


 モルト村の畑。


 シンは土を触った瞬間、

 顔をしかめた。


「うっわ……」


「ど、どうだい?」


「土が死んでる」


「またひどい言い方!」


 だがこれも事実だった。


 栄養不足。


 乾燥。


 土壌劣化。


 前世で料理人だったシンでも、

 食材の質から逆算すれば分かる。


「ここ同じ作物ばっか植えてるだろ」


「え?まぁ

 麦ばっかだねぇ」


「そりゃ痩せるわけだ」


 村人たちがざわつく。


「なんで分かるんだ?」


「俺にもよくわからんが

 なんか分かる」


 《発酵Lv5》。


 もはや発酵関係ない気がしてきた。


「とりあえず

 土作りからやり直した方がいい」


「そんな余裕ないよぉ……」


 マルタが頭を抱える。


 シンも頭を抱えた。


「なんで俺、

 異世界来て農業コンサルみたいなことしてんだ……」


 戦って


 ドラゴンとか倒したかった。


 なのに現実は、

 土壌改善である。


「いた!シーン!」


 子供たちが駆け寄ってきた。


「また昨日のパン食べたい!」


「スープも!」


「おっちゃんすげー!」


「こら!おっちゃん言うな!お兄さんでしょ!」


 だが。


 その笑顔を見て、

 シンは少し黙る。


 昨日まで、

 あの子たちは静かだった。


 飯を食っても、

 楽しそうじゃなかった。


 なのに今は違う。


「…………」


 なんとも言えない気持ちになる。


 その時。


==========


《発酵Lv5》


村人幸福度上昇を確認


徳ポイント上昇


==========


「だからなんなんだよこのログ!!」


◇ ◇ ◇


 一方その頃――


 異世界転生管理会社エリュシオン・ゲート


「また上がってる……」


 アルスは端末を見ながら引いていた。


「今度はなにー?」


 リシアが隣から覗き込む。


==========


村人幸福度上昇


文明貢献値上昇


徳ポイント上昇


==========


「なんで料理人でこんな数値出るんですか……?」


「普通、

 勇者とか英雄が稼ぐやつだよねぇ」


 リシアも困惑していた。


 そこへ。


「ガハハ!!」


 ガルドが豪快に笑いながら現れる。


「面白ぇじゃねぇかァ!」


「また来た、獣臭主任。あんたの部署は暇なの?」


「たまたま通りがかったらお前らの話が聞こえてなァ」


 一拍。


「飯が変わりゃ、

 人が変わる」


「人が変われば、

 街も国も変わる」


 ガルドはニヤリと笑う。


「アイツ、

 下手な勇者よりヤベェぞォ?」


 アルスは端末を見つめた。


 シンのログは、

 まだ増え続けている。


 しかも。


==========


派生技能生成中……


==========


「……え?」


 アルスが固まる。


「派生スキル!?」


 リシアが叫ぶ。


 通常、

 派生技能は長年の経験で生まれるものだ。


 だがシンは、

 異世界転生してまだ二日目。


「早すぎません!?」


「ハハッ!!

 才能ある奴ってのは理不尽だからなァ!」


 ガルドは楽しそうだった。


 だが。


 アルスは少しだけ嫌な予感がした。


「……このままだと、

 本当に国レベルへ影響出るかも」


 その言葉に。


 リシアが乾いた笑みを浮かべる。


「発酵で?」


「発酵で」

第21話を読んでいただきありがとうございます。


モルト村編スタートです!


戦って冒険するはずだったシンですが、

気づけば保存庫改善、食文化改革、土壌診断まで始めました。


もう完全に異世界コンサルです。


そして謎の《発酵Lv5》は、

どんどん危ない方向へ進化中……。


次回は新たな派生技能も出るかもしれません。


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