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22/22

第22話 「悪徳商人」

 翌日。


 モルト村の朝は、

 妙な熱気に包まれていた。


「シンさん!

 この棚ここでいいか!?」


「換気用の窓、

 もっと開けた方がいい?」


「床置きダメなんだろ!?」


「だから肉と麦は離せって!」


 朝から保存庫周辺が騒がしい。


 村人たちが総出で、

 保存庫の改修を始めていた。


 その中心で。


「…………」


 シンは遠い目をしていた。


「なんで俺、

 異世界で衛生管理してんだ……」


 戦いたかった。


 冒険したかった。


 ドラゴンとか見たかった。


 なのに現実は、

 保存庫の湿気対策である。


「シーン!」


 リナが元気よく走ってくる。


「新しい棚できたよ!」


「おぉ……早いな」


「うん!みんなすごい頑張ってる!」


 実際、

 昨日とは村の空気が違った。


 飯が変わった。


 それだけで、

 人は動き始める。


 シンは少しだけ驚いていた。


「……食って大事なんだな」


「?」


「いやいや、独り言」


 その時。


 マルタが大きな籠を抱えてやってくる。


「シン!

 畑で採れた余り野菜持ってきたよ!」


「ん?」


 中には、

 形の悪い野菜が大量に入っていた。


 小ぶりな芋。


 少し傷んだ根菜。


 曲がった菜葉。


「売り物にならない余りさ」


「……捨てる予定だったのか?」


「まぁ、

 長持ちしないからねぇ」


 シンは籠を見つめる。


 そして。


「……もったいねぇ」


「え?」


「これ、

 漬ければ化けるぞ」


 村人たちが首を傾げた。


「漬ける?」


「保存食だよ」


 シンはニヤリと笑う。


「今日は発酵料理作るぞ」


◇ ◇ ◇


 数10分後。


 集会所には、

 大量の野菜が並んでいた。


「まず適当な大きさに切る!」


 トントントンッ。


 シンは慣れた手つきで野菜を刻んでいく。


「そして、塩振る!」


「し、塩だけでいいのかい?」


マルタは不思議そうに調理工程を眺める


「基本はな」


 村人たちも同様に興味津々だった。


 発酵。


 それは、

 この世界ではまだ珍しい技術らしい。


「で、

 このまま樽へ入れる」


 《発酵樽庫バレル・ストレージ》。


 ぽんっ。


 樽が出現する。


「おぉぉ……!」


 毎回リアクションが新鮮だった。


 シンは少し楽しくなってきていた。


「重石乗せて、

 待てば完成」


「それだけで?」


「あぁ!それだけ!」


 マルタが不思議そうに野菜を見る。


「これで腐らないのかい?」


「むしろ長持ちする」


「またそれ言ってる……」


 シンは苦笑した。


「発酵ってのは、

 簡単に言えば“良い菌”を育てるんだ」


「菌?」


「小さい生き物みたいなもん」


「うわっ、

 急に怖い!」


 リナが引いた。


「いやお前昨日めちゃくちゃ食ってただろ」


「あっ」


 村人たちが笑う。


 その空気は、

 昨日までよりずっと明るかった。


 シンは少しだけ目を細める。


(……嫌いではないな)


 その時。


==========


《発酵Lv5》


新規発酵技術の伝達を確認


熟成経験値を取得しました


==========


「また出た!」


「今度はなに!?」


「だから頭の中に文字が!!」


 完全に慣れない。


 だが。


 今回はさらに違った。


 頭の奥で、

 何かが“繋がる”感覚。


 保存。


 熟成。


 菌。


 温度。


 時間。


 全部の知識が、

 一本線になっていく。


==========


派生技能生成完了


《発酵鑑定》


==========


「……は?」


 シンが固まる。


「ど、どうしたんだい?」


「いや今、

 新しいの増えた」


「増えるの!?」


 リナがびっくりする。


 シンは近くの野菜を見る。


 すると。


==========


《根菜類》


鮮度:低下


推奨:塩漬け加工


==========


「うわっ見える!?」


「なにが!?」


「情報が!」


 村人たちがざわつく。


「本当に大丈夫かいこの子」


 マルタが心配そうだった。


「俺もそう思う」


 シンは真顔で返した。


◇ ◇ ◇


 その日の夕方。


 村では、

 漬物が小さな話題になっていた。


「本当に酸っぱくなってる!」


「でも美味いぞこれ!」


「パンより食いやすい!」


 子供たちまでぽりぽり食べている。


 シンは少し驚いていた。


「順応早いな……」


「美味しいものには正直だからねぇ」


 マルタが笑う。


 すると。


 シンの《発酵鑑定》が、

 ふと反応した。


==========


《塩漬け根菜》


保存性:向上


栄養効率:微上昇


商品価値:低


改良余地:大


==========


「商品価値……?」


 シンは少し考え込む。


(これ、

 ちゃんと作れば売れるのか?)


 その時だった。


 1人の村人が慌てて駆け込んできた。


「村長!!」


「なんだい騒がしい」


「行商人が来た!」


 空気が変わる。


「行商人?」


 シンが首を傾げる。


 すると村人たちがざわつき始めた。


「こんな時期に?」


「塩か!?塩持ってきたのか!?」


「保存食交換できるかも!」


 だが。


 マルタだけは、

 険しい顔をしていた。


「……いや、

 この時期の行商人は嫌な予感するね」


「?」


 その直後。


 村の外から大声が響いた。


「おーい!!

 今年の税代わりの保存食、

 ちゃんと用意してんだろうなァ!?」


 下品な笑い声。


 シンは眉をひそめる。


「……なんだあれ」


 村人たちの顔色が悪い。


 マルタが小さく舌打ちした。


「最悪だよ……」


「知り合いか?」


「近隣を回ってる悪徳商人さ」


 一拍。


「毎年、

 足元見て保存食を買い叩いていく」


 シンは静かに目を細めた。


◇ ◇ ◇


 村の入口。


 3人の男たちが馬車と共に立っていた。


 先頭にいるのは、

 腹の出た男。


 脂ぎった髪。


 いやらしい笑み。


「おぉ?

 今年はまだ全滅してねぇみたいだなァ?」


 男はゲラゲラ笑った。


 村人たちは悔しそうに拳を握る。


 シンは小声で聞いた。


「なんなんだアイツ」


「商人のボルグだよ……」


 マルタが苦い顔をする。


「保存食と塩を交換する代わりに、

 法外な量を持っていく」


「断れないのか?」


「塩がないと冬越せないんだよ」


 その言葉で、

 シンは理解した。


 この世界では、

 塩は生命線だ。


 保存。


 発酵。


 食事。


 全部に必要になる。


「へぇ?

 見ねぇ顔がいるなァ?」


 ボルグがシンを見る。


「旅人か?」


「まぁそんなとこだ」


「忠告しとくぜェ?

 この村は貧乏だから関わっても得ねぇぞ」


 村人たちの顔が曇る。


 だが。


 シンは冷めた目で、

 男の荷車を見ていた。


==========


《塩》


品質:低


純度:低下


推奨:価格不相応


==========


「……は?」


 鑑定が反応した。


 シンは目を細める。


(コイツ、

 粗悪品売ってんのか?)


 その時。


 ボルグがニヤつきながら袋を開ける。


「今年は特別価格だァ。

 保存肉10袋で塩1袋にしてやる」


「なっ……!?」


 村人たちがざわめく。


 どう考えても割に合わない。


 だが。


 ボルグは笑う。


「嫌なら冬越せねぇだけだろ?」


 最低だった。


 シンは静かに前へ出る。


「なぁ」


「あァ?」


「その塩、

 質悪くね?」


 一瞬で空気が凍った。


「……言いがかりはよせよ」


 ボルグの目が細くなる。


 だがシンは止まらない。


「湿気てるし、

 純度低いぞ」


「テメェ、

 適当抜かしてんじゃ――」


「しかも値段ボッタクリだ」


 村人たちが青ざめる。


「シ、シン!?」


 マルタが焦る。


 だが。


 シンは平然としていた。


「そんなゴミ塩より、

 もっとマシな保存食作れるぞ」


 その瞬間。


 ボルグの顔から笑みが消えた。


「……ほぉ?」


 空気が変わる。


 村人たちが息を呑む中。


 シンは静かに言った。


「俺がこの村の保存食、

 変えてやるよ」


22話を読んでいただきありがとうございます!


今回はモルト村の保存庫改善と、

発酵料理回でした!


そして最後に、

ついに悪徳商人ボルグ登場です。


シンの《発酵鑑定》が、

今後どう活躍していくのか楽しみにしてもらえたら嬉しいです!


あと少し更新が空いてしまいすみません……!

引っ越し作業でバタバタしておりました!


ようやく落ち着いてきたので、

また更新頑張っていきます!


ブックマークや評価、

感想なども本当に励みになっています!

いつもありがとうございます!


では、また次回。

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