第18話 「スープと少女」
森の中。
大量の樽。
そして。
「……マジ?」
シンは樽を見つめながら固まっていた。
分かる。
中身が分かるのだ。
塩。
麦。
乾燥豆。
果実。
そして――
「調理道具まで入ってんのかよ……」
完全に仕込みセットだった。
「どうしたの?」
リナが不思議そうに覗き込む。
「いや……
これ、めちゃくちゃちゃんとしてる」
「ちゃんとしてる?」
「発酵用の温度管理まで考えられてる」
「お、おぉ……?」
リナはよく分かっていなかった。
だがシンは驚いていた。
樽ごと投下された時は雑だと思った。
だが中身は違う。
むしろプロ仕様だった。
「……あの女神、
妙なとこだけ仕事できるな」
その時。
ぐぅぅぅ……
再びリナの腹が鳴る。
「あ」
「……悪い」
リナが顔を赤くする。
シンは苦笑した。
「待ってろ」
気づけば身体が動いていた。
水を汲む。
樽を開ける。
材料を確認する。
まるで店の仕込みだった。
「えっ、
なに作るの?」
「んー……」
シンは周囲を見る。
森。
小川。
薬草。
そして樽の中身。
「とりあえず、
食えるスープ」
「スープ!?」
リナの目が輝いた。
その反応に、
シンは少し驚く。
(そんな喜ぶか普通……?)
だが。
少女の服はボロボロだった。
痩せてもいる。
まともな食事を、
あまり取れていないのかもしれない。
シンは黙って火を起こした。
「えっ、
火打ち石使わないの?」
「ん?」
気づけば、
手際よく火がついていた。
「……なんでだ?」
自分でも分からない。
だが。
空気の流れ。
湿気。
燃えやすい枝。
全部感覚で理解できる。
「発酵っていうか、
生活力スキルじゃないかこれ……」
「すごーい……」
リナが尊敬の目で見てくる。
なんか照れる。
シンは乾燥豆を鍋へ入れ、
塩を加える。
さらに、
樽のひとつを開けた。
「……おっ」
酸っぱい香り。
「これ使えるな」
「それなに?」
「んー発酵果実液ってとこかな?」
「???」
当然、
まったく伝わっていない顔だった。
「まぁ調味料だ」
本当は果実酢に近い。
だが説明が面倒だった。
シンは少量を鍋へ垂らす。
すると、
爽やかな香りがふわりと広がった。
湯気が立つ。
その瞬間。
「わぁ……」
リナが目を丸くした。
「なんか、
すごくいい匂い……」
その光景を見てシンは少しだけ笑った。
懐かしかった。
店でスープを仕込んでいた頃。
朝方、
最初に立ち上る湯気。
客が匂いにつられて店を見る瞬間。
あれが、
嫌いじゃなかった。
「よし、できた」
木の器へスープを注ぐ。
リナは恐る恐る口をつけた。
そして。
「……っ!!」
目を見開く。
「お、おいしい……!」
その声は、
本気だった。
「こんなの初めて食べた……!」
「大げさだろ」
「ほんとだもん!!」
リナは夢中で食べ始める。
シンはぽかんとした。
たかが豆スープ。
前世なら、
店で出せるレベルでもない。
だが。
「……そんなに美味いか?」
「うん!」
リナは頷く。
「村のご飯、
硬いパンばっかだから」
「……あー」
察した。
辺境の村。
食文化が死んでるタイプだ。
その時。
頭の中に、
妙な感覚が走る。
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《発酵Lv5》
熟成経験値を取得しました
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「……は?」
シンが固まる。
「どうしたの?」
「いや今、
なんか変なの見えた」
「?」
リナは不思議そうにシンの顔を見る。
その瞬間。
ぐぅぅぅぅぅ……
今度はシンの腹が鳴った。
リナが吹き出す。
「あははっ!
シンもお腹空いてるんじゃん!」
「うるせぇ」
シンは苦笑しながら、
自分の分のスープをよそった。
湯気が立つ。
森の空気に、
優しい匂いが広がっていく。
そしてリナは、
嬉しそうに呟いた。
「ねぇシン、
私の村に来ない?」
一拍。
「きっとみんな驚くよ!」
シンは少しだけ空を見上げた。
異世界。
発酵。
大量の樽。
正直、
まだ何も分からない。
だが。
「……まぁ、
行くだけ行ってみるか」
そう呟いた時。
どこかでまた、
樽がゴロッと転がった。
第18話を読んでいただきありがとうございます!
ついにシンの《発酵Lv5》が本格始動です。
剣でも魔法でもなく、“スープ”で人を驚かせる主人公になってきました。
そして登場した第1村人?のリナ。
辺境村の食事情もかなり厳しそうですね。
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それではまた次回!




